【第三部-十一】冬の海の上で #見つめる時雨

時雨 夕立 由良 夕張 五月雨 龍鳳 磯風 浜風 山城 扶桑
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

深海棲艦は強い光に引き寄せられる。その性質を利用すれば、みんな帰れるかもしれない。輸送船も、五月雨も、夕張も、由良も、夕立も。…ああ、また山城に怒られちゃうかな。龍鳳にも。でも、僕がやるしかない。だから、許して。

2014-12-22 23:00:15
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「五月雨、まだ動けるよね?夕張たちを連れて、急いで退避して!」 「え?でも敵が来てるよ!?」 「僕が引きつける」 探照灯を照射する。深海棲艦の姿が、はっきりと海に現れた。…同時に、僕の位置も向こうに映る。 「時雨!?ダメ!!」

2014-12-22 23:05:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「もしこの先で深海棲艦と遭遇したら、五月雨がみんなを守るんだ。いいね」 「良くない!!時雨も一緒に…」 「行って!!」 最大船速。輸送船から遠ざかるように。…よし、深海棲艦たちは思惑通り僕の方に注意が向いている。…一瞬、五月雨が僕に敬礼しているのが見えた気がした。

2014-12-22 23:10:08
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

重巡リ級と雷巡チ級二隻が僕の方へ向かってくる。僕の艤装は中破の状態。どこまでやれるか。 「…でも、僕だってただでやられる気はないかな」 手に持っていた単装砲を捨て、背中の艤装を変形させる。二門単装砲形態に移行。さて…。 「時雨、行くよ」 あの海に比べれば、この程度…!――

2014-12-22 23:15:10

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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

『………ぃ……輸送……隊へ………の…………、こ………そ……………ぅ……………………ぇ………』――

2014-12-23 00:00:42

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とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…ん…あれ…?」 背中に乗せた夕立が目を覚ました。 「夕立…良かった」 「由良…?あ…深海棲艦は!?」 …深海棲艦は今は追っては来ていない。時雨が上手くやってくれたのだと思う。…時雨。

2014-12-23 20:00:48
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

夕立が辺りを見回す。…私は慌てた。見ては欲しくないものが見られてしまう。きっと夕立は、時雨を探している。ここにはいない彼女を…。 「ねぇ由良…時雨は?時雨はどこ…?」 「…時雨は」 私は、言葉を詰まらせた。何て言えばいいの。時雨のことが大好きなこのコに、何て言えば。

2014-12-23 20:05:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「由良さん、水上電探に感あり、です…」 「そんな…」 五月雨ちゃんが震える声を抑える。…そして、暗い海の向こうに黄色い光は現れた。あれは…戦艦タ級が二隻、駆逐イ級が二隻。増援か、それとも時雨はもう…。ううん、あれはきっと別部隊。そうに違いない。そうでしょ、時雨。

2014-12-23 20:10:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…由良、下ろして。夕立が戦うから」 「えっ…でも…」 「大丈夫。任せて」 夕立の目が赤く光る。まるで彼女たちのように…。私はその目を見たとき、寒気を感じた。 「夕立…」 「由良。あいつらが、あいつらが…」 夕立が、連装砲を構える。…待って、夕立。待って。

2014-12-23 20:15:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「あいつらが…時雨を!!」 夕立を制止しようとしたがそれは叶わなかった。水しぶきを上げ、夕立が最大船速で深海棲艦に向かっていく。 「待って!!夕立!お願い!!五月雨ちゃん、夕立を止めて!!」 「は、はい!!」 その時、巨大な水柱が私の右舷に吹き上がった。戦艦の砲撃…!?

2014-12-23 20:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

間髪入れずに、左舷にも水柱が上がる。 「由良!逃げて!!」 夕張の叫び声が水音でかき消される。 「しまった…夾叉!」 …遥か向こうで、戦艦タ級の不気味な笑みが見えた気がした。夜の海に浮かびあがる一点の火。砲撃音。…何かが、吹き飛ぶ音。

2014-12-23 20:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私の元に何かが飛んできた。鉄の破片とサラサラの髪の女の子だった。私は彼女を支えきれずに一緒に吹き飛んだ。私は海の上に倒れ込んだ。目の前には飛んできた血まみれの女の子がいた。彼女の白いお気に入りのマフラーも赤く染まっていた。彼女は、私を庇ったんだ。ああ…夕立…夕立…。

2014-12-23 20:30:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

禍々しい黄色のオーラを纏った戦艦タ級がこちらへ向かってくる。せめて、夕立だけでも退避させないと…。そう思い手を伸ばした。しかし、その前に夕立は立ち上がった。嘘…。あんな怪我で立ち上がるなんて…。私の身体に、悪寒が走った。

2014-12-23 20:35:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「由良…夕立、どうしちゃったのかな」 「夕立…?」 夕立は私に振り向かずに言葉を零した。 「頭が痛いの。変な景色が見えるの。由良が燃えてるの。偵察機が困ってるの。…夕立が、沈めたの」 夕立…それは、駆逐艦夕立の記憶…。私が夕立に思い出して欲しくなかった…記憶…。

2014-12-23 20:40:26
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「由良に近寄るな…。近寄るなァ!!」 夕立の叫びが夜の海を切り裂いた。夕立が凄まじい速度でタ級に襲い掛かる。その速さはタ級に砲撃の暇さえも与えなかった。…叫び声が響き渡る。夕立の?違う、タ級のだ。タ級の喉笛から、何かが噴き出ている。

2014-12-23 20:45:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

タ級が海に崩れ落ちた。暗い海へと消えていく。夕立の口からは黒い液体が滴り落ちていた。何をしたの…夕立…。夕立が私の方を振り向いた。目が、赤く燃えていた。その姿は異様でしかなかった。 「あっ…ァ…」 夕立が、苦しそうに喘ぐ。

2014-12-23 20:50:35
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

あれは艦娘じゃない。私の本能がそう言っていた。あれは…。 「ダメ…夕立…そっちに行っちゃ…」 夕立が私に背を向け、再び最大船速で深海棲艦に向かって行く。肉を引き裂く音。深海棲艦の呻き声。そして夕立の咆哮が…海に鳴いた。

2014-12-23 20:55:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

海に静けさが戻った。血と鉄と深海棲艦だったものが浮かぶ海の上に、夕立は立っていた。五月雨ちゃんも、夕張も立ち竦んでいた。あれは私達の知っている夕立なのか、判断できなかった。…恐怖に、震えていた。

2014-12-23 21:00:39
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ゆ…夕立…」 体に走る痛みを振り切り、立ち上がる。悲鳴をあげる足を動かし、夕立の元へ行く。 「…夕立…お願い…戻ってきて…」 夕立が私の方に振り返る。その目からは涙が溢れては…燃えていた。私は、夕立を抱き締めた。

2014-12-23 21:05:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「夕立…もう大丈夫だから…。深海棲艦はいなくなったよ。だからもう…痛っ…!」 右肩に激痛が走る。私の肩に夕立の歯が食い込んでいた。毛細血管が破け、血が滲み出る…。 「あっ…ぁ…夕立…」

2014-12-23 21:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

少しずつ私の皮膚組織に夕立が侵入してくる。歯の先端が私の肩の肉を刺し、裂いていく。でも私は夕立を突き放すことはしなかった。してはいけないと思った。夕立を離したくなかった。 「いっ…あっ…あぁ…」 夕立の顎の力が強くなる毎に、私の手の力も強くなった。

2014-12-23 21:15:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「由良…!」 「ダメ…夕張…。このままこうさせて…うぁっ…!!」 肩から痛みが背筋を這い、全身を巡っていく。手の指が、足の指が引き攣り震える。私の目からは涙が溢れて零れた。痛い。痛いよ。 「ふっ…ぁ…」

2014-12-23 21:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私はずっと夕立との深い接触を避けてきた。夕立に不自然に思われない程度に言葉を交わし、悪くない僚艦関係を築く程度に。それは、駆逐艦夕立が由良を沈めた記憶を思い出して欲しくなかったから。彼女と出会ったとき、彼女は忘れていた。でもそのままの方がいいと思った。

2014-12-23 21:25:21