「キルゾーン・スモトリ」 #2

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」そう遠くない場所から、ニンジャたちの掛け声が聞こえてくる。どこかに身を隠そう。そう思ったナガム=サンは、祈るような気持ちで「剥きエビ」と書かれた冷蔵庫のドアを開けてみた。

2010-09-05 01:50:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこにはやはり、ひんやりと冷えたバイオ・スモトリが詰め込まれていた。だが幸運にも、中央付近にちょうどケンドー型装甲服を着たサラリマンが入れるほどの隙間が空いているではないか。背に腹は変えられない。ナガム=サンは意を決し、スモトリの背と腹の間に身をうずめ、自ら冷蔵庫のドアを閉めた。

2010-09-05 01:52:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

一方、少し離れた場所では、ニンジャスレイヤーとアイアンヴァイスの死闘がなおも続いていた。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが機先を制して2枚のスリケンを立て続けに投げつける。「イヤーッ!」アイアンヴァイスがムテキ・アティチュードで全身を鋼鉄化させ、それを弾き返す。

2010-09-05 01:54:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

では、スリケンではなくチョップで首をへし折ればよい、と思うかもしれない。だが、ニンジャスレイヤーはカチグミとアイアンヴァイスの戦闘を注意深く観察していたため、このソウカイ・ニンジャが危険な握力を隠していることを知っていた。だから、接近については注意深くならざるを得なかったのだ。

2010-09-05 01:56:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーのスリケンは、片端から弾き飛ばされてしまう。このままでは埒があかない。そこでフジキド・ケンジは、新たな作戦に出た。

2010-09-05 01:57:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

まずスリケンを投げる。するとアイアンヴァイスが鋼鉄化する。鋼鉄化したアイアンヴァイスは、一瞬の間だけ身動きが取れなくなる。ならば、それを超える速度でスリケンを投げ続ければよいのだ。

2010-09-05 01:59:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「「力に力で対抗してはならぬ……速さで行くと決めたならば、あくまでも速さを貫き通すべし。百発のスリケンで倒せぬ相手には、千発のスリケンを投げるのだ……」」」師匠ドラゴン・ゲンドーソーから授かったファースト・インストラクションが、ニンジャスレイヤーの脳裏に響いた。

2010-09-05 02:01:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはピッチングマシーンのように両腕を互い違いに回転させ、0コンマ5秒毎の速度でスリケンを投げつけた。「イヤーッ!」「イ、イヤーッ!」アイアンヴァイスは鋼鉄化を解く暇がなく、身動きが取れないことに気付いた。「イヤーッ!」「イヤーッ!?」

2010-09-05 02:04:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーはついに、腕組みして直立不動の姿勢を取るアイアンヴァイスの真横まで接近した。最後のスリケンを投げ終わると同時に、右手はカラテチョップの構えを取る。そしてすぐさま、秒間10発の猛烈なチョップを、鋼鉄化したアイアンヴァイスの首に叩き込み始めた。

2010-09-05 02:06:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「グ、グワーッ!」なおも鋼鉄化を続けるアイアンヴァイスだったが、ニンジャスレイヤーのチョップは止まらない。次第に、鋼鉄化した彼の首には、打ち倒される直前のレーニン像のように、致命的な亀裂が走り始めた。

2010-09-05 02:08:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「や、止めてくれニンジャスレイヤー! 貴様の要求に応じよう!」「慈悲はない」ニンジャスレイヤーはさらに早く、残像が発生するほどの速度でチョップをくり出した。「イヤアアアアアーッ!」「グワアアアアアーッ!」金属質の断末魔の叫びとともに、ついにアイアンヴァイスの首はへし折れた。

2010-09-05 02:10:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「サヨナラ!」首の切断とともに、アイアンヴァイスの全身は鋼鉄からただの肉体へと変わり、噴水のように血を噴き出して爆発四散した。血煙が晴れると、もはやニンジャスレイヤーの姿は無い。この決定的情報をナンシー・リーに提供し、師匠の命を救うためのアンプルと交換すべく、行動を開始したのだ。

2010-09-05 02:14:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

後に残されたのは、緑色のバイオエキスの海に眠る無残なサトウ=サンの死体と、ぐちゃぐちゃのミンチ肉になった5~6体のバイオ・スモトリだけだった。明日になれば、ヨロシサンの研究員たちがモップを持ってやってきて、床に染みだけを残してすべての証拠を揉み消すことだろう。

2010-09-05 02:16:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

冷蔵庫の中に隠れたナガム=サンは、ひんやりとしたスモトリの肉に埋もれて、いつしかまどろみの中に落ちていた。少しずつ意識が遠のいてゆく。IRCチャットにメッセージは帰ってこない。非常ブザーの音は止み、単調なベース音だけのコケシマートのBGMが、子守唄の如く冷蔵庫の中に響いてくる。

2010-09-05 02:18:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ナガム=サンが子供の頃、貧しい母親に連れられてやってきた、別のコケシマートの閉店セールの記憶が、走馬灯のように駆け巡った。「安い、安い、実際安い」と歌う無表情なコケシロボットたちが、重金属酸性雨にさらされながらモールの入り口で虚しく回転していた、あの夜の記憶だ。

2010-09-05 02:21:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

死ぬ思いで貧困から脱し、母親の内臓も売って、ようやくカチグミになったというのに、最後はコケシマートで終わるのか。なんて皮肉だろう。ナガム=サンは薄れ行く意識の中で自嘲的にひとりごちた。ああ、もうどうでもいい。どのみち、社会に戻っても、今回の失態のせいで出世コースからは転落なんだ。

2010-09-05 02:24:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ケンドー型装甲服に身を包んだ無敵のエコロジカルヒーロー、ナガム=サンの脳裏に、懐かしい母親の歌声が響いた。「安い…安い…実際安い。コケシ、コケシ、コケシマート。今日も明日も、コケシマート。安い……安い………実際………安い………」そこで、ナガム=サンの意識はシャットダウンした。

2010-09-05 02:26:33