ポリエナメル・ケイジ

神手市に行ったヤモっちと、不思議な女性・澄美さんのおはなし。
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真木ハルコ @homarine

ヤモっちと、なぜか改札をなかなか通れない澄美ちゃん。 pic.twitter.com/wGMhjOj5N0

2015-02-25 23:12:56
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真木ハルコ @homarine

【ポリエナメル・ケイジ】#3

2015-02-26 05:45:11
真木ハルコ @homarine

部屋に招いたヤモっちが食い入るように少女の石像を見つめてるのに気付き、澄美は焦った。他の人に『作品』を迂闊に見られてはいけないと言われていたことを思い出したからだ。(……もし、この子がさわぎ出したら……やるしかない……かも……?)壁に映る澄美の影の輪郭が、揺らいだ。1

2015-02-26 05:52:00
真木ハルコ @homarine

大きな感嘆の溜め息をひとつついて、ヤモっちは言った。「……すごい」上手いこと言えてないけど、それが正直な感想だった。少女の石像は、髪の一本一本まで精密に作られていて、まるで生きた人間をそのまま石にしたかのような迫真のリアリティがあった。澄美の『職人』としての高い技量が伺える、2

2015-02-26 05:57:31
真木ハルコ @homarine

ヤモっちが怪しまずに『作品』を見てくれているので、澄美も警戒を解いた。「……ど、どう、どうかな?」だいぶ打ち解けて普通に話せるようになってきた澄美だったが、『作品』の感想を聞くのはやはり緊張した。「……澄美さん、すごい、です。こんな立派な像、はじめて見ました」3

2015-02-26 06:02:10
真木ハルコ @homarine

本当に、その少女の石像は見事な出来映えで、学校や駅前に据えられてる石像や銅像とはまったく次元が違う、とヤモっちは思った。頭のてっぺんから指先まで、隅々に至るまで一切の妥協なく生き生きとした少女の姿が作り込まれている。触ったら弾力があるのではないかと錯覚してしまうほどに。4

2015-02-26 06:06:56
真木ハルコ @homarine

石造りの少女の顔に浮かぶ表情は、恐怖。顔だけでなく、手足の筋肉の強張りまで完璧に表現されていて、それが石像に生々しさを与えている。何度も上から下まで『作品』を眺めていたヤモっちは、あることに気付いて「あっ」と小さく声を出して“そこ”から目を反らし頬を少し赤くした。5

2015-02-26 06:12:47
真木ハルコ @homarine

石像の少女は衣服を纏っていない。もちろん、裸婦像は公共空間にも普通に設置されているものだが、普通の像では“そこ”だけは作り込まれてない場所まで、澄美の『作品』は見事に表現されていた。その表現は極めて自然で、恥ずかしく感じる自分の考えの方が卑猥なのだとヤモっちは思った。6

2015-02-26 06:19:55
真木ハルコ @homarine

澄美はと言えば“誉められる”という経験にあまり縁がないものだから、ヤモっちからの惜しみない称賛を受けて天にも昇るような気持ちであった。ふわふわとした足取りで冷蔵庫に向かい、途中で毛布を踏んで一度転んでから、冷蔵庫の扉を開けてヤモっちに振る舞うための『ごちそう』を取り出した。7

2015-02-26 06:25:19
真木ハルコ @homarine

冷蔵庫の中には缶詰めの蟹フレークと鯖の水煮、あとペットボトルに入った水。奥の方にはラップでぐるぐる巻きにされたタッパーがひとつ。澄美は蟹フレークの蓋を開け、2リットルのペットボトル水と並べて床に置き「どうぞ」と言って笑顔を浮かべた。コップも取り皿も、箸すらもない。8

2015-02-26 06:31:34
真木ハルコ @homarine

「えっ……」ヤモっちは戸惑った。こんな雑な歓待を受けるのははじめてだ。でも、澄美の笑顔には一点の曇りもなく、精一杯のもてなしをしているつもりであることは理解できたので「いただきます」と言って手を合わせた。「キーちゃんも、どうぞ」と澄美はニコニコ顔で勧めた。9

2015-02-26 06:35:32
真木ハルコ @homarine

ポリエナメルのスポーツバッグを改造して作ったケイジの、側面に付けたメッシュの扉を開けて、キーちゃんを出してあげる。缶の縁で切ってはいけないので、キーちゃんの分の蟹フレークはティッシュを重ねて敷いてその上に取り分けた。ヤモっちは、澄美と同じように缶詰めから手掴みで食べた。10

2015-02-26 06:39:49
真木ハルコ @homarine

ラベルから判断するに蟹フレークはかなり高級なものであり、美味しい。ただし、キーちゃんには少し塩分がきついかも? 澄美は蟹が大好物なので、満面の笑顔で美味しそうに食べていた。何もかもがアンバランスな晩餐であったが、澄美が随分と楽しそうなのでヤモっちも悪い気分はしなかった。11

2015-02-26 06:43:58
真木ハルコ @homarine

ヤモっちが食事をしている様子を見て、澄美は気付いた。この人は、私に気を許してくれている。それは、澄美にとってはじめての経験だった。そして、思ったのだ。今ならば。ごく自然な日常の風景を、そのまま切り取ったような『作品』を作れるのではないか、と。12

2015-02-26 06:53:34
真木ハルコ @homarine

澄美はそっと立ち上がり、何気ない素振りでヤモっちの背後へと回った。そして、ヤモっちの肩に、慎重に腕を伸ばした。無数の吸盤の付いた、異形の蝕腕を。「キー! キー!」キーちゃんが警告の叫びを発する。しかし、ヤモっちが警告の意味を汲み取ることはできなかった。13

2015-02-26 06:51:38
真木ハルコ @homarine

【ポリエナメル・ケイジ】#3 おわり

2015-02-26 06:52:07
真木ハルコ @homarine

ついに澄美ちゃんが本性を現し、裏切りダンゲロスっぽくなりましたね。ヤモっちも参戦するダンゲロス・ウラギールは、日曜いっぱい参加キャラ募集中です。みんなもヤモっちと殺し合おう! www41.atwiki.jp/uragiridangero…

2015-02-26 07:55:35
真木ハルコ @homarine

【ポリエナメル・ケイジ】#4

2015-02-26 23:04:02
真木ハルコ @homarine

窓ひとつなく、頼りない裸電球の光に照らされた地下室の中。異形の蝕腕が蠢く。蟹フレーク缶詰を無心に食べる少女は、背後から迫る脅威に気付いていない。「キー!」大ヤモリの鳴き声が虚しく響く。赤黒くうねる四本の腕には、無数の吸盤。それらの吸盤が開き、中央から黄色がかった液体が染み出す。1

2015-02-26 23:11:14
真木ハルコ @homarine

澄美は、神経毒を用いて獲物を捕獲する。それは、海の中で普通の生物として暮らしていた頃から変わらない。口腔内に分泌されていた神経毒が、吸盤から分泌できるように変化したが、獲物の動きを封じる効果には違いがない。澄美はヤモっちの背後から、四本の長い蝕腕で抱き締め、一気に毒を注入した。2

2015-02-26 23:51:24
真木ハルコ @homarine

原理は不明だが、澄美の肉体は人間を捕食することに適したものに変化していた。その神経毒は、ヒトの皮膚から速やかに吸収され、瞬時に全身を麻痺させる。例えば、蟹フレークを食べている姿そのままに。四本の蝕腕に抱き締められて毒を受けたヤモっちは、最早身動きすらできぬ……はずだった。3

2015-02-27 00:00:38
真木ハルコ @homarine

「……やんなるなぁ」ヤモっちは、忌々しげに言葉を吐き捨てた。「電車でオロオロしていたのも。楽しかったおしゃべりも。ぜーんぶ、嘘だったんだ。あたしをおびき寄せるための、擬態だったんだ……こんなにやんなること、なかなか無いよ」ヤモっちは憤懣に満ちて、ゆっくりと立ち上がった。4

2015-02-27 00:09:00
真木ハルコ @homarine

吸盤で吸い付かれて、四本の蝕腕で押さえつけられていたヤモっちだったが、その束縛からもつるりと抜け出した。ヤモっちは、ゆらりと振り向く。怒りに満ちて見開かれたヤモっちの大きな目に、澄美の異形なる『真の姿』が映る。楕円形の遮光板に覆われた頭部。長くうねる四本の赤褐色の蝕腕。5

2015-02-27 00:16:00
真木ハルコ @homarine

「……タコ……そう言われたら嫌かも知れないけど、そんなの知らないよ。あなた、タコの化け物だったんだ」ヤモっちの全身は、粘液で濡れて艶かしく光っていた。澄美の毒液ではない。ヤモっち自身が分泌する毒粘液である。ヤモっちもまた、澄美と同様に神経毒の使い手であったのだ。6

2015-02-27 00:23:16