学力は「素質」で決まるのか?その2
- ShinShinohara
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私が指導した子どもの中で、公立中学の底辺の学力だった子が高校生になって大きく成績を伸ばし、大学にまで進学したケースがある。紹介する2人は、どちらも学年(500人程度)で下から10番以内。普通は「素質ゼロ」とみなされかねない。どうやって伸びたのか、紹介しよう。
2015-03-20 19:24:10「うん」以外の言葉をほぼ発せない、言語遅滞の中学生。もしかして、と思い、母親に確認をとると「テレビお守り」の典型例だった。テレビを見せているとおとなしくなるので、ずっとテレビを見せていたのだ。母親とのコミュニケーション不足で、言語が非常に遅れてしまった。
2015-03-20 19:24:26言語が発達していないから勉強どころではない。文字も頭に入らないから学習しようがない。テストはどの教科もほぼ0点。どうしようもない。高校受験では「とにかく空欄を残すな。正解が分からなくても、アーでもウーでも書いて解答欄を埋めろ。やる気をとにかくアピールしろ。」破れかぶれの戦略。
2015-03-20 19:24:41ニコニコ笑う明るい性格のせいか、高い内申点をもらえて、どうにか高校に合格。しかし勉強についていけないのは目に見えている。そこで塾を去る前にこんな話をした。
2015-03-20 19:24:55「君は言葉が遅れている。高校に入ったら友達に話させるな。アーでもウーでも先に自分が話せ。そしてその日あったことを毎日お母さんに報告しろ。お母さんはそれを必ず聞いてあげてください。」「うん」とはいうものの、そのほかの言葉を話せない子にどれだけ伝わったのか、不安を覚えながら。
2015-03-20 19:25:092年間音沙汰がなく、突然、塾に現れた。驚いた。学年でトップの成績であること、学校の先生からは大学に進学することを勧められていること、生徒会長に立候補し1年務めたこと、それを理路整然と話してくれた。「うん」以外の声を聴いたことがないのに。まさしく生まれ変わった。
2015-03-20 19:25:25その子はどうやら言われたとおりに実行したようだ。それまでは黙って話をニコニコ聞いていただけなのを、自分から話そうとした。その日あったことをお母さんに正確に伝えようとした。言葉を自ら紡ぐことで、遅滞していた言語能力が急速に伸長したのだ。
2015-03-20 19:25:430点か偶然の数点しかテストで採れていなかった子が、そもそも言葉まで遅れていた子供が、大学進学を勧められるまでに生まれ変わってしまう。果たして学力が素質で決まってしまうものだろうか、才能は生まれつきなのか?大いに疑問に思う出来事であった。
2015-03-20 19:25:59もう一人の子どもも、学年最底辺の成績だった。しかし調べてみると、九九もできる。割り算もできる(非常によく間違えるが)。文字も読める。だが定期テストでは20点が取れない。原因を調べるうち、「非常なる粗忽(おっちょこちょい)」だということが分かった。
2015-03-20 19:26:13漢字の横棒を一本多めにサービスしたり逆に減らしたり。送り仮名を省略したり余分にサービスしたり。計算ができても数字を一つ書き忘れたり付け加えたり。正解が分かったとしても解答欄に正確に書くことに失敗し、点数が取れなかった。落ち着きのない多動症状が強かった。
2015-03-20 19:26:26そこで「学校のお勉強」を離れ、「書き写し」を始めた。100円ショップでことわざ集を買い、そこに書いてある10個のことわざを書き写す。1個でも間違えれば全部書き直し。それだけ。漢字を間違ったり、送り仮名を省略させたら書き直させた。ただそれを繰り返した。
2015-03-20 19:26:39たった10個のことわざを正確に書き写すというだけなのに、2時間を経過しても終わらなかった。先ほどの間違いは正せても、正しく書けていた漢字を間違えたり。その繰り返し。いつまでたっても全部を正確に書くことができず、何度もその子は泣きじゃくった。私は黙って丸付けを続けた。
2015-03-20 19:27:02次第にその子は、自分がどんなミスをしやすいのか、自分の失敗パターンが分かるようになってきた。送り仮名を省略するミス、漢字の横棒の数。書き上げた後もミスを犯しやすい箇所を見直し、それから提出するようになった。2時間が1時間に、1時間が30分に。ついにまったく間違えなくなった。
2015-03-20 19:27:21それから英語や数学などの学習に取り掛かった。もともと理解力は悪くない。ただ、あまりにおっちょこちょいでミスが多すぎて、理解ができていないからバツになるのか、ただの単純ミスでバツになるのか、本人にも分からなくなっていた。そこで、ミスをしなくなってから学習に取り掛かった。
2015-03-20 19:27:34後は成績の向上が急速であった。書き損じによるミスがなくなったことで、理解ができなくて間違ったのかどうかをその子自身が検証できるようになった。あとは理解できるまで学べば済むこと。どんどん成績が伸びて、受験時にはどうやら学年上位のレベルにまで伸びていたようだ。
2015-03-20 19:27:47高校に入ってからは私の指導を離れたが、3年間通じて学年でトップクラスの成績を維持し、小さいころから志望の大学に合格。仕事も順調のようである。
2015-03-20 19:28:00この二人の子どもは、そのままであれば「才能のない子供、素質のない子供」とみなされていたかもしれない。しかし運よく指導が適性に合っていたのか、劇的な成績向上を見せた。成績が学年の底辺であったとしても、才能がないなんてことはとても言えない。
2015-03-20 19:28:12私は100人ほどの子どもを指導してきたが、自分より頭が悪いと確信を持てた子どもは一人もいない。むしろ私より優れた才能を持つ子どもばかりで、私の方が劣等感をもつことさえあった。私はたまたま運よく、成績が伸びるような環境にいた。才能ではない、と考えている。
2015-03-20 19:28:26安易に「才能がないから仕方がない」というのはやめよう。まだまだ、やりようはあるのだ。ただしこんな話をするからと言って、学校の先生に過度な期待をしてはいけない。たくさんの子どもを指導しなければならない学校教師に、一人ひとり丁寧に見るのは物理的に無理がある。
2015-03-20 19:31:46塾に期待をかけすぎるのもよくない。収入が恵まれていない家庭では、塾に通うのも難しい。それよりも、親やその周辺の大人たちが、子供たちの学習機会をどうやって準備してやれるのか、総力を挙げて考えてほしい。その子にどんな指導が適しているのか、分からないのだから。
2015-03-20 19:33:28