【ダンゲロス・ウラギール 丁香のべるSS チョコレートは口に含むまで】

そのチョコレート、本当に口に入れていいんですか?
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東和瞬 @honyakushiya

「はい、もしもし。ウ……、おっと。ウーさんはお元気でしょうか?  わたしたちとしても、この謎は楽しみにしていますからね、はい、はい……。例の物を。  おや、来客があったようです。しばし、失礼します」 Pi! 心弾む会話の後に、如何せん何がやってくるかはわからないものです。 1

2015-03-08 22:14:44
東和瞬 @honyakushiya

ただしわたしたちにとって話相手はどうでもよく、内容の方が重要なのです。 目の前の文芸者もその辺り理解していただければ助かるのですが。 「わたしたちに何の御用ですか? 栞田千章(かんだ ちあき)さん」 非探偵の屑に名前を告げる時間も今はもったいないですが、私も道理位は知っている。2

2015-03-08 22:19:04
東和瞬 @honyakushiya

生徒会室、目立たないわたしたちこと、丁香のべる。 勿論、ここで物を考えている心も体も一つきり、同士と言える人たちもいないのでわたしたちは一人きりなのです。 ですが、この偉大なる思想はけして私事(わたくしごと)ではありません。 依頼人も被害者も犯人も等しく探偵の礎となるべし――。3

2015-03-08 22:23:08
東和瞬 @honyakushiya

その可能性が一片たりとも残っているならわたしたちはこの笑みを絶やしません。 {「丁香さん、ウーさんとは一体どなたでしょうか?」千章は原稿用紙を見せる。} 「探偵志望ですか? わたしたちの審査は厳しいですよ?」 探偵道は生半可な道ではありませんよ、その事もわからない探偵役は……。4

2015-03-08 22:29:34
東和瞬 @honyakushiya

{「おきらいなのですよね」栞田はじっと、丁香を見つめる。} どうしてだろうか、読んでしまう。読ませてしまうのが文芸者の業というものなのでしょうか、己の領域に留まりながらも世界を己の色に塗り替える。 いや、書き換える。それがわたしたち魔人の業(ごう)なのだとしても、ただ――。 5

2015-03-08 22:43:46
東和瞬 @honyakushiya

{「おきらいなのですよね」栞田はじっと、丁香を見つめる。} 原稿用紙を取り替えることなく、栞田はしとやかな指先を躍らせる。 それは、お前の世界観など既にわたしたち文芸の物が包み込むものである、と主張するような気がして、事実わたしたちの心を読んでいるのではないかと思わせた。 6

2015-03-08 22:47:48
東和瞬 @honyakushiya

「地の文を読んでいるのでしょうか?」 戯れを言ってみても、栞田は首肯も否定もしない。 ただ、原稿用紙をめくり、その名の通り挟み込むような気軽さで万年筆からインクを零す。 わたしたちは「丁香(ちょうじ)のべる」。 名が体を表すと言うのなら「弔辞を述べる」者。 だが――。 7

2015-03-08 22:54:32
東和瞬 @honyakushiya

{「死を告げる小説(Novel)、それは探偵だけのものではないはずです」頭を下げながら千章は告げた。} 「探偵の代弁者、自叙伝を代筆するに過ぎない者とあなた方文芸者を侮ったのが間違いだったのかもしれませんね」 のべるは頭を振る。自分が単に読まれる者だと認めたくなかったから? 8

2015-03-08 23:01:41
東和瞬 @honyakushiya

事実だ。 「認めましょう」 {「では、警察に自首なさると?」栞田は原稿用紙を突き付ける。} 「その前に、どこで気付いたのか教えてはいただけませんか?」 変わらぬ微笑みを浮かべながら、丁香のべるは努めて平静に言う。 そして、その態度に少々解せぬものを感じながらも千章は答えるのだ。9

2015-03-08 23:08:40
東和瞬 @honyakushiya

「{一昨日、自動販売機でジュースを買う時、財布の中に千円札がまだ残っているのに仕込札(しこみさつ)の一万円を使われましたよね?」栞田は解決編に移ります。本来はこんなものでは無い長文ですが、要旨を掻い摘みます} 「何……?」 「{そこから一十三(にのまえ・とみー)さんが……}」10

2015-03-08 23:17:22
東和瞬 @honyakushiya

「ふふふふふ……。やはりあなた方は探偵の代弁者に過ぎない。  まさか、このわたしたち。いや、認めましょう。このわたしが用意した探偵への供物に偽物が混じっていたとは……、いい加減焼きが回ったと言うことでしょうか」 {「お認めになるのですね」栞田は急変した犯人に怪訝になります。}11

2015-03-08 23:22:17
東和瞬 @honyakushiya

「わたしは偽物づくりには手を出したことはありませんよ。チョコと偽ってヤバいドラッグの製造販売には大いに関わった記憶はありますが。  掴まされた偶然の偽札からわたしが作り上げてきた数々の事件(犯罪)に辿り着くとは流石ですね、流石はハードボイルド派探偵ですね!」 12

2015-03-08 23:25:57
東和瞬 @honyakushiya

{「はぁ……」栞田は書く必要も無い文章を書きます。沈黙には耐えられないと言うことでしょうか} 「依頼人が真犯人と言うのは世の摂理、この日のためにわたしは犯罪を積み重ねてきました。親兄弟姉妹とも縁を切り、今日というこの日のために!」 「だが、姓は捨てきれんか」 幼女が呟いた。 13

2015-03-08 23:33:24
東和瞬 @honyakushiya

「先に、訂正しておこうか、お嬢ちゃん」 偉く渋い脳内ボイスがこの解決編空間に鳴り響いた。 「俺と言うハードボイルドは、派閥とか言う女々しいもんにゃあ無縁と思っていたぜ。そういうピラミッドみてぇな積み木遊びは本格とか幻想とかの連中に任せときゃあいいのさ」 14

2015-03-08 23:43:21
東和瞬 @honyakushiya

{「十三さん!」こうして文字に起こすとサンサンって読めちゃうな、どうでもいい話である。ともあれ栞田は落ち着いたようだった。} 「やれやれ、俺は十四四(としょ)のヤツに頼まれたから来たんだぜ? それを一足先か。相手が凶悪犯だったらどうするんだ?」 重く厳しい言葉だ。だが幼女だ。15

2015-03-08 23:47:36
東和瞬 @honyakushiya

黒のダークスーツ、ボルサリーノのソフト帽を被った苦味走ったハードボイルド探偵。 甘い言葉はいらないぜ。 「お嬢ちゃん、甘いお菓子と言われた時も驚いたが、札束で探偵を引っ叩けば言うこと効くなんざ、汚い金持ちの発想だぜ」 ふぅ、と口に咥えたシガ(チョコ)から紫煙を燻らす。幻視だ。16

2015-03-08 23:57:20
東和瞬 @honyakushiya

「わたしは……、いや。わたしたちはそう思わない、それが世の摂理であったはずなのに。当の探偵からそれを否定される、それを望んでいたはずなのに、いざ、その日が来るとかくも寂しい物なのですね。そうです、わたしが犯人だったのです」 「……待て。どういう意味だ、解決編?」 幼女は言う。17

2015-03-20 22:37:14
東和瞬 @honyakushiya

文学少女は引き継ぐ。 {「ウーさんとは、ウラギールさんのことでしょうか。あの人が今回のことに何か関係が?」正直、付いていけない部分もありましたが、そこは突っ込みます。} 「ふ、ふふふ。ウラギールさんは山之端一人を殺害し、今回のハルマゲドンを引き起こした真犯人ですよ」 18

2015-03-20 22:42:35
東和瞬 @honyakushiya

唐突な告白に、栞田は目に見えて狼狽える。 あの人格者で皆に慕われるウラギールさんがなぜ?! だが、そんな時に片手で制し、落ち着いたバリトン(イメージ)のボイスで黙らせる。 「それは意趣返しか? お前さんならさりげなくヒントを匂わせる程度と思っていたが」 19

2015-03-20 22:51:27
東和瞬 @honyakushiya

「もう既にお気づきになられているようですが、生憎とわたしは彼とは何の運命も共有していませんよ。ただ、単に黄金色のお菓子を贈ったら何でもぺらぺらと喋ってくれたと言うだけの、お粗末なおはなし」 ぺたりと尻餅を着き、幼女の冷たい目線を降り注ぐことになっても不敵な態度は変わらない。20

2015-03-20 22:55:29
東和瞬 @honyakushiya

「随分殊勝だな、悪党。クスリをシロ―トさんに勧めたのは許さねぇよ」 「許してもらうつもりなど、毛頭ありませんよ。死をもって購う覚悟は出来ています。播磨屋橋様を筆頭としたわたしの探偵達も、それと共に順次解散する仕組みとなっています」 21

2015-03-20 23:04:26
東和瞬 @honyakushiya

当面の生活費、相応の金額も残されます。依頼人として、探偵方の生涯に付き添えなかったのは、いささか残念ではありますが……。 そして、結果を見ることが出来ないのも残念ですが、これで終いとしましょう。これがあなた方探偵に捧げる迷宮入り事件――。 22

2015-03-20 23:07:50
東和瞬 @honyakushiya

「させねぇよ!」 幼女の鉄拳がどてっぱらにぶち当たった! 「げふぁ!」 攻撃13が防御0に突き刺さる! 堪らず、吐瀉した内容物の中に自決用の毒入りカプセル、そして茶色い固形物が入ったビニール袋……。 「これで言い逃れも、死に逃れもなし、だな」 のべるはピクリとも動かない。 23

2015-03-20 23:15:08
東和瞬 @honyakushiya

吐瀉物の饐えた臭いに、どこか甘ったるさが混じった。 倒れかかる死角にいた十三はそれ(証拠品)を容赦なく踏み潰す。 「馴染んだ匂いとは違ったもんでな、甘ったるくて気色悪いってよりキナ臭かった、そういうことさ」 甘い香りを漂わせながら幼女は呟いた。 24

2015-03-20 23:24:23
東和瞬 @honyakushiya

{「はじめは、匂いで気付かれたのですよね」栞田は努めてのべるの死体?を避けながら、事の起こりを振り返った。} 「ちょうどその時は禁煙中だったもんでな。女子供もガキ共もチョコチョコうるさくて、でイライラしていたんだよ」 手にシガ(チョコ)を振り回しつつ、今度は口に含んだ。 25

2015-03-20 23:28:32