「我が軍」発言をめぐるぱんでくてん氏の解説
発端はこちら。
安倍首相、自衛隊を「我が軍」 参院予算委で述べる
http://www.asahi.com/articles/ASH3R6D4TH3RUTFK00M.html?iref=reca
>安倍晋三首相は20日の参院予算委員会で、自衛隊と他国との訓練について説明する中で、自衛隊を「我が軍」と述べた。政府の公式見解では、自衛隊を「通常の観念で考えられる軍隊とは異なる」としている。
政府の公式見解についてはこちら。
http://www.mod.go.jp/j/approach/agenda/seisaku/kihon02.html
この報道を受けて、
首相の「我が軍」発言、民主は国会で追及へ 維新も批判
http://www.asahi.com/articles/ASH3S5QZMH3SUTFK00Z.html
>安倍晋三首相が20日の国会質疑で自衛隊を「我が軍」と述べたことに対し、野党から24日、批判が相次いだ。
>民主党の細野豪志政調会長は会見で「これまで自衛隊という形で、憲法の枠組みの中で積み上げた議論を全部ひっくり返すような話だ。非常に理解に苦しむ」と指摘
>維新の党の松野頼久幹事長も記者団に「あくまで我が国は自衛隊だ。不安をあおるような言い回しは、気をつけるべきだ」と指摘
というふうに国会では一部の野党が報道を受けて批判姿勢という感じです。
一方で菅官房長官は、
「わが軍」答弁、問題ない 野党批判に官房長官
http://www.47news.jp/CN/201503/CN2015032501001026.html
>「自衛隊が軍隊であるかどうかは、定義いかんによるものだ。(答弁が)誤りとの見解は全く当たらない」と述べた。
同時に「自衛隊は憲法上の制約が課されており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるが、自国防衛を主な任務とする組織を軍隊と呼ぶのであれば、自衛隊も軍隊だ」と説明。
この発言を受けてネット上では、
・「我が」軍だと?お前の軍隊じゃないだろ!
・「我が軍」?とうとう安倍は自衛隊を私物化してうんぬんかんぬん
・我が「軍」?政府の公式見解は自衛隊は軍隊じゃないだろ…
といった感じで冷静な議論と相変わらずなガンギマリな議論が交差しているという地獄絵図でござい。
とまぁそんなこんなで前提は以上の通りで、本題をどうぞ。
自衛隊が軍隊なのかとそれを呼称すること、自衛隊が軍隊であるから憲法違反であるかは別問題
自衛隊は軍隊なのか?
この問題は結局、自衛隊は軍隊であるか、自衛隊を軍隊と呼称してよいか、自衛隊は軍隊であるから憲法違反なのかという3つの問題にわかれることになり、きちんと整理して考える必要がある。
2015-03-25 14:03:28自衛隊が軍隊であるかは、定義による。国際法においては、自衛隊が日本の国内法によって、日本が国際的武力紛争の当事者となる場合につき、紛争当事者の軍隊として敵対行為を行い得るように組織され、また権限を授権されていることから、正規軍として扱われることとなる。
2015-03-25 14:08:30自衛隊がある定義によれば「軍隊」になることは政府としては認めており、それが必要最小限度の実力に過ぎず「戦力」に該当しないゆえに保持は認められると政府はしているので、自衛隊を軍隊と呼称するか否かに関わらず別種の検討が必要である。
2015-03-25 13:58:07国内法においては自衛隊法により、国際法上の軍隊として活動し得るように組織されているため、そのような意味においては「軍隊」といえるかもしれない。しかし、政府は自衛隊がこのような意味での「軍隊」であることを認めつつも、通常の観念における軍隊であるとは認めていない。
2015-03-25 14:13:28通常の観念における軍隊がどのようなものかは、はっきり言ってわからない。19cあたりの軍隊を想定しているのかもしれないが。
2015-03-25 14:19:57けれども、ある定義によれば自衛隊が「軍隊」であることに疑いはない。そうでなければ国際的武力紛争を戦えないし、国際法上の軍隊であることだけは間違いがない。そういう意味では自衛隊は軍隊である。
2015-03-25 14:25:23自衛隊を我が軍と呼ぶことについて
前者は軍隊の定義の問題だし、ある定義によれば自衛隊は軍隊にあたる。この点は従来の政府見解でも否定はされていない。
2015-03-25 13:13:02しかし、ある定義によれば自衛隊が軍隊となるからといって、自衛隊を軍隊と呼称するかどうかは別の問題とされている。佐藤栄作は昭和42年3月31日の参議院予算委員会で「自衛隊を、今後とも軍隊と呼称することはいたしません。はっきり申しておきます」と答弁している。
2015-03-25 13:17:22資料:佐藤栄作首相の答弁について 昭和42年3月31日参議院予算委員会
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/055/0514/05503310514004.pdf (PDF注意、3ページ目2段)
>自衛隊を、今後とも軍隊と呼称することはいたしません。はっきり申しておきます。
※この議事録は佐藤首相の答弁を含めて前後読んでおくと分かりやすいかもしれません。
この答弁の直後に増田甲子七が「軍の機密」という発言をしていたり、佐藤の答弁の直前にも「そういう観点からの性質をとらえて軍隊というのならば、それは軍隊だろう」と発言していたりするので、自衛隊がある側面から軍隊とされることについては必ずしも否定されていない。
2015-03-25 13:24:52実際に佐藤の答弁以前には、昭和29年4月に木村防衛庁長官が「外部からの侵略に対して対処し得るものをもって軍隊ということであれば、まさしくこの自衛隊は軍隊であります」という答弁をしていたりする。
2015-03-25 13:37:02資料:木村防衛庁長官の答弁について 昭和29年4月28日 衆議院内閣委員会
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/019/0388/01904280388029.pdf (PDF注意、3ページ目1段)
>そこで通常外敵に対して対処する実力部隊を軍隊と称するかということであれば、自衛隊法によつて、今度自衛隊はまさしく外国の武力攻撃に対してこれに対処する実力部隊でありますから、私はこれを軍隊と称してさしつかえないと考えているのであります。
資料:中曽根首相の答弁 昭和60年10月14日 衆議院予算委員会
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/103/0380/10310280380001.pdf (PDF注意、15ページ目1段-2段)
>陸軍、海軍というようなものは持たない。軍という言葉はたしか使われておったと思いますが、そういう意味からも誤解を受けないように、軍隊という言葉は使わない、そういう配慮がなされたものではないかと思います。
>先ほど来申し上げたような、日本独特の考えに基づく防衛力という考えに立って行っておるものなんであります。ですから、自衛隊という名前を使っております。
佐藤以降の答弁においては、自衛隊は憲法上の制約があることから通常の観念における軍隊とは異なるとしながらも、国際法上の軍隊である、というもので落ち着きつつあるが、それでもある種の「軍隊」であることは否定しない。
2015-03-25 13:42:54政府は、自衛隊が通常の観念の軍隊ではないものの、ある種の「軍隊」であることは一貫して認めており、ただそれを軍隊と呼称することはしない様にしている。
2015-03-25 13:47:03ゆえに「我が軍発言」は佐藤栄作の答弁に觝触し、問題となりうる。しかし、それは自衛隊が軍隊であり憲法違反である、という結論を導くものでもない。
2015-03-25 13:54:53自衛隊と憲法(と武力紛争法)との関係
けれども、この発言を持って「自衛隊はやはり軍隊であり憲法違反」であるとは言えない。憲法が保持を禁じるのは「陸海空軍その他戦力」であって、自衛隊がその「戦力」にあたるか否かが問題であるからだ。
2015-03-25 14:34:16