ニンジャ・サルベイション #3
またしても稲妻めいた蹴り!スピンしながら転倒するバイクから、破砕した人体が投げ出される。何たる暴力!「ヒ……ヒヒーッ!」だがヨタモノ達は恐慌を来たすことはない!集団狂気と高揚薬物影響下だ!キャリバーはユダカを振り返ると、ドライブイン宿を顎で示す。「さき、帰ってろ!」23
2015-03-25 17:51:06「ルルルルロロロルルルルーッ!」だがその時、横から回り込んできた別のバイクがユダカ達に到達する!キャリバーは同時に襲いかかった二台のバイクを同時に相手取っていた。ユダカは瞬時の状況判断で、地面に転がった鉄パイプを拾うと、振り下ろされた鎌(然り、鎌だ!コワイ!)を打ち返した。 24
2015-03-25 17:56:12ユダカは血液が逆流するかのような極度の興奮を味わった。呆けたような顔で凍りついた乗り手がバランスを崩してバイクから転げ落ちるコンマ数秒は永遠のように感じられた。……KRAAASH!「アバーッ!」KABOOM!爆発音とヨタモノの悲鳴を振り返る余裕は無い。ユダカとミカリは走った!25
2015-03-25 17:59:37「マッシャネッゾラー!」ヤクザスラングと共に、更に一台のヨタモノバイクが行く手を塞ぎにかかった。ユダカが抱いた感情はもはや恐怖ではなかった。怒りだった。脳裏にフラッシュバックしたのは、ずっと昔、キャリバー……いや、カシイと共にヤンクの巣に乗り込んでいった時の記憶と感覚だ。26
2015-03-25 18:11:40あの時は何がユダカとカシイを怒らせたのだったか……。暴力に対して、それを上回る暴力で応える。シンプルだった。感傷すら覚えた。ユダカは目の前に迫りくるヨタモノバイクの前輪に鉄パイプを挿し込んだ。「アバーッ!?」バイクが回転しながら宙を飛んだ。「ざまあ、みろ!」ユダカは笑った。27
2015-03-25 18:17:49「イヤーッ!」「グワーッ!?」「イヤーッ!」「アバババーッ!」後方で聴こえるキャリバーの戦闘音、ないし殺戮音を振り返ることなく、ユダカはミカリの手を引き、走り、走り、ドライブインに辿り着いた。「大丈夫かね?」警備員が鉄扉を少し開いて気遣った。ユダカは冷たい気持ちになった。 28
2015-03-25 18:20:21「実際、彼らの事は我々も手を焼いて……」警備員は鉄扉を施錠しながら言った。「この辺のマッポじゃ手に負えなくてね」扉は二重だ。「部屋、戻ります」ユダカは警備員の顔を見ずに言った。ロビーを通り過ぎ、エレベータに乗り込んで、ようやく彼はミカリを振り返った。「怪我は?」「無い」29
2015-03-25 18:28:36ミカリは涙を堪えている。ユダカは肩に触れようとする。ミカリはびくりとする。そして呟いた。「ごめん」「いや……こっちこそ」ユダカは曖昧に詫びた。階数表示を眺めた。二階。三階。「俺らがこんなとこまで連れてきちまったから……」「いい。平気」「マジでさ……」「これも旅だよ。平気」 30
2015-03-25 18:32:11「四階ドスエ」とマイコ音声。二人は部屋に戻った。テレビをつけると、間の悪いことに例の爆発事件のニュースだ。すぐに消す。「アイツは平気だ。殺しても死なない」ユダカが言う。ミカリは無言で頷く。ユダカは窓のショウジを引き開ける。そして駐車場の炎の方向を見る。争いの音はもう無い。 31
2015-03-25 18:38:50ここからでは争いがどうなったか判然としない。「……」IRC端末が光った。ユダカはすぐに確認した。キャリバーからだ。「雑魚共だ。楽勝だ」ユダカは胸を撫で下ろす。と同時に、今更になって、キャリバーの恐るべき殺戮に慄きを覚える。アイツは何処にいる?端末がまた光った。「うまくやれよ」32
2015-03-25 18:45:54「四階ドスエ」とマイコ音声。二人は部屋に戻った。テレビをつけると、間の悪いことに例の爆発事件のニュースだ。すぐに消す。「アイツは平気だ。殺しても死なない」ユダカが言う。ミカリは無言で頷く。ユダカは窓のショウジを引き開ける。そして駐車場の炎の方向を見る。争いの音はもう無い。 31
2015-03-28 22:21:24ここからでは争いがどうなったか判然としない。「……」IRC端末が光った。ユダカはすぐに確認した。キャリバーからだ。「雑魚共だ。楽勝だ」ユダカは胸を撫で下ろす。と同時に、今更になって、キャリバーの恐るべき殺戮に慄きを覚える。アイツは何処にいる?端末がまた光った。「うまくやれよ」32
2015-03-28 22:22:21「何が……」ユダカはベッドの上に腰掛けるミカリを見た。「無事だってよ」「よかった」しばしの沈黙。ユダカはもう一度窓の外を見る。警備員がヨタモノと破損バイクを駐車場の隅に集めている。朝になれば回収車がやってくる筈だ。「じきに戻ってくるだろ」「そうだね」「何か飲む?」「大丈夫」 33
2015-03-28 22:27:09再びの沈黙。ユダカは正直この時間を持て余している。何を「うまくやれよ」というのか。あれだけの事をした後で。「ミカリ=サンも仕事辞めたって言ってたよな」「うん」「どうして」「カイシャが爆発したから」二人は苦笑した。ユダカは少し安心した。ジョークが言えるなら、実際大丈夫なのだ。 34
2015-03-28 22:31:07「わたし、新聞社で、広告の営業をしていた」ミカリがやがて言った。「でも、他にやりたい仕事が出来て、やめたの」「他に?」ミカリは頷き、肩をすくめた。「カネになる仕事かい」「全然」「貯金は?」「少し」「俺、負けてる」「貯金はしていなかったの?」「うん」「衝動的だね」 35
2015-03-28 22:43:08「俺これからどうしたもんかな」ユダカは訊いた。「わからないよ」と、ミカリ。「だよな」「でも何とかなるよ」途切れ途切れの会話だ。ラジオのダイヤルを回すが、しっくり来ない。「クルマ、探さないとな。燃やされちまったから」「うん」ユダカは洗面所に行き、顔を洗った。鏡から己が見返した。36
2015-03-28 22:48:06実際頼りない男がそこにいる。三人でロックンロールを歌って、アクセルをベタ踏みしていたあの時、ユダカは確かに無敵だった。釣りも悪くなかった。その後のクソのような出来事も、そこまで悪くなかった。今はよくない。考える事しか、する事がないからだ。この先どうする。何故こうなった。 37
2015-03-28 22:51:53ユダカはバシャバシャと音を立てて繰り返し顔を洗った。あの時、課長の顔に社員証を叩きつけ、全てを終わらせた。それでいい。原因を考えたところで何にもならない。「本当か?」本当だ。この先の事が大事なんだ。「本当か?」本当だよ。ユダカは溜息をついて部屋に戻る。ミカリの寝息が聞こえる。38
2015-03-28 22:55:40ユダカは窓から外を見た。彼は眉をひそめた。幾らなんでも、戻ってくるのが遅い。彼は鍵を取り、ミカリを起こさぬように部屋を出た。 39
2015-03-28 23:02:12「「「センセイ、ドーゾ」」」一斉にオジギしたクローンヤクザ達の間を悠然と進むのは、威圧的に輝く青緑装束を着たニンジャだ。ヤクザリムジンの後部座席に乗り込むと、助手席のサラリマンが振り返り、「ドーモ。ピーコック=サン。わざわざスミマセン」とアイサツした。その顔面には無数の古傷。41
2015-03-28 23:06:36ヤクザめいたその顔面は、サラリマンが辿った暗闘の歴史を無言のうちに物語る。「私の手の中で、おさめられれば良かったんですがね」「ドーモ。シュモダ=サン」ピーコックは横柄にアイサツを返した。「そう言うな。俺もケツモチで踏ん反り返っているだけでは、カラテもなまろうというもの」 42
2015-03-28 23:08:52