ニンジャ・サルベイション #4
「どうした」キャリバーがユダカに尋ねた。ユダカは舌打ちした。「何かなってる」「やっぱりだ」キャリバーは唸った。「俺のニンジャの何かの通りだよ。オイ!何号室だ?」「何する気だ」「寄せろ!このまま!」「くッそ……」ユダカはバイクを再び発進させる。「御用!御用!」サイレンが叫ぶ。22
2015-04-05 22:24:02「何が起きてるんだミカリ=サン」「貸せ」キャリバーはユダカからIRC端末を奪い取った。「ミカリ=サン!窓開けられるか」悲鳴が返ってきた。『どうしよう!ねえ、どうしよう!』「窓開けろ!カーテン開け!」『わか……わかった』四階の窓の一つがオレンジのボンボリライトを外に漏らした。23
2015-04-05 22:30:18駐車場に停められていたリムジンの一つがバイクの動きに気づき、遮るように走り出した。「逮捕するぞ!」ユダカはリムジンに向かって叫び、空に向かって威嚇的にチャカ・ガンで発砲した。しかし、後部座席の窓から銃を持つ手が複数出て来た。マッポではないとすぐにバレたか?マッポでもいいのか?24
2015-04-05 22:40:06「「「「ザッケンナコラー!」」」」リムジン乗員が一斉に発砲!ユダカは身を縮めた。左肩のあたりになにかかすめた。「イヤーッ!」背後でキャリバーの叫びが上へ離れた。ユダカはバイクごと転倒し、熱いアスファルトを転がった。頭が真っ白になりかける。とにかく彼は撃って撃ち返した。 25
2015-04-05 22:47:15「イイイ……」キャリバーが空中で回転した。そしてリムジンに落下!「イヤーッ!」ニンジャは回転の勢いをつけたストンピングをルーフに叩きつけた。KRAASH!「アバーッ!」KABOOM!「イヤーッ!」その反動力でキャリバーは非常に高く跳んだ。目指すは……おお、ナムサン!四階の窓!26
2015-04-05 22:56:26BLAM!BLAM!爆発炎上するリムジンめがけ、ユダカは容赦なく銃弾を撃ち込み続ける。「アバーッ!」火だるまの男が車内からまろび出る。BLAM!「アバーッ!」ユダカは額の汗を拭う。「畜生」呟き、振り向くと、キャリバーは開け放たれた窓へ、窓枠を蹴り壊すようにして入り込んだ。27
2015-04-05 23:07:20「アイエエエ!」ミカリの悲鳴と、「イヤーッ!」キャリバーのシャウト、「グワーッ!」侵入者の悲鳴が聴こえ、空中へ弾き出された侵入者の一人、二人、三人が、続けざまにユダカの近くの地面に落下した。「「「アバーッ!」」」ユダカは生死を確かめる間を惜しみ、全部に銃でトドメを刺した。28
2015-04-05 23:13:09肩が痛む。撃たれた傷だ。痛みがニューロンを白く焼く。引き金を引くのは肉体の動作の問題だ。こんなものは動作の問題なのだ。アビシナ・アソシエイツ平社員。辞めたくて仕方なかった仕事も、何度もボーナスをもらったら慣れてしまった。それでも、昔の暴力はカイシャの暴力と違った。自由。憧れ。29
2015-04-05 23:19:48ユダカはキャリバーと共に暴れたあの頃に、少年時代に、自ら帰った。今の世界をナシにして。カイシャにケリをつけたその日に幼馴染が現れたのはまるで何かの啓示だ。だが追及の手は想像の百倍苛烈だ。彼は自嘲的な笑みを浮かべる。爆発したカイシャでも、出社して愛社精神を示しておくべきだった。30
2015-04-05 23:31:58そうすれば、あの夜の目撃者はいなかったのだから、何食わぬ顔で犠牲者の社葬に出席でもすれば疑われる事も……否、否、「それじゃ結局サラリマンのままだ。それじゃダメだ」カチカチ。ユダカはチャカ・ガンを放り、死体の懐を探った。「イヤーッ!」「アイエエエ!」叫びが二つ降ってきた。31
2015-04-05 23:38:27「来たな」ユダカは銃と銃弾を回収し、着地したキャリバーを振り返った。「いい加減慣れたよ、テメェのニンジャっぷりにも」「つまらねえな」キャリバーは抱きかかえたミカリを地面に下ろした。ミカリはさすがに青ざめ、小刻みに震えている。「悪い」ユダカが詫びた。「こいつが帰ってこねえから」32
2015-04-05 23:44:17「そうだよ。二人して置いて行って……」ミカリは笑おうとした。「ジョークが出るなら大丈夫だ」ユダカはミカリを抱きしめた。「こいつら、どんなふうに部屋に来た。何か言ってたか」「ううん」ミカリは首を振った。「おかげで……色々される前に助かったから」「なかなか楽しい旅にならないよな」33
2015-04-05 23:51:39「何言ってやがる。十分楽しいじゃねえか、エエ?」キャリバーは転倒したバイクを引きずり起こした。「危険な冒険だぜ!ネオサイタマの周りをぐるっと回ってよォ」「さっきのマッポはテメェだぞ、キャリバー」「連中はこれだけじゃねえだろ。早く行こうぜ。後ろにミカリ=サン乗せろ」「……ああ」34
2015-04-05 23:58:23ユダカは周囲を見渡す。「お前どうする」「調達する」キャリバーは淡々と言った。「ニンジャの耳は効くんだぜ。俺は足が要るから、お前らはまずそのバイクで行け」「暴れるのか」ユダカはキャリバーを見た。キャリバーは頷いた。「いいか?今あっち側から」キャリバーはコクドウの一方を指さした。35
2015-04-06 00:07:30「ハハァー!」ニンジャは笑った。「仲間連中だぜ!別のリムジン、来るぜ!俺が奴らブッ殺すだろ?で、こっち側から」キャリバーはコクドウのもう一方を指さした。「御用!」「御用!」御用サイレンの音はユダカの耳にも入った。「マッポだ。両方カマして足を奪う。お前らはドサクサで先に行け」36
2015-04-06 00:17:44「多勢に無勢だ。すぐ来いよ」ユダカは言った。キャリバーはニヤリと笑った。「ニンジャは死なねえさ」ユダカは苦笑しかけた。昔のカシイは何をするにもユダカにおんぶにだっこだった。キャリバーとなった今、それが変わった。「そりゃそうかもだが」何かが引っかかる。「たとえばニンジャが……」37
2015-04-06 00:22:03「ニンジャが?」キャリバーが首を傾げ、言葉を待った。ニンジャが来たら?とユダカが口に出して問う前に、事態が彼らのもとへ到達した。リムジンはバリケードじみてドリフトし、急停止した。後部座席の窓が破砕し、慣性の法則によって、中の何者かが弾丸じみて射出される。虹色の軌跡。 38
2015-04-06 00:35:18「イヤーッ!」キャリバーはこのアンブッシュにかろうじて反応した。キャリバーの蹴りと、アンブッシュ者の蹴りが空中でぶつかり合い、ユダカは瞬時に覚悟を決めた。バイクは最大加速し、ミカリが力いっぱいユダカにしがみついた。ユダカは歯を食いしばる。キャリバーと別のニンジャを後ろに。 39
2015-04-06 00:41:07この行動にはひどく覚悟が要った。投げつけた社員証ごと課長の額を撃ち抜いたあの夜よりも覚悟が要った。それはそうだ。今、ユダカは昔の馴染みを後ろに棄てていこうとしている。「アイツは大丈夫だ」ユダカはミカリに言った。「アイツはニンジャだ。それに俺達はヤバい橋を昔に幾らでも渡ってる」39
2015-04-06 00:46:19「「「「ザッケンナコラー!」」」」向けられる銃口の射線をすり抜けるようにバイクを蛇行させ、ユダカとミカリはリムジンを突破した。「俺はカイシャをアイサツ一つで辞められるほど、身が軽くはなくなっちまってたんだよな」ユダカはミラーに向かって言った。「俺が入れるカイシャなんてのはさ」40
2015-04-06 00:54:11ゴウ、ゴウ。道路灯が一定の風圧のリズムを作る。「だから、やると決めたら徹底的にやる。他に手が無かったとか、弁明するつもりはないさ。ガールフレンドも当然わかってくれやしないよ」ユダカの呟きはミカリに向けての説明だったが、彼女は半分も理解できまい。己自身に向けての言葉だった。41
2015-04-06 01:00:39「ワココもさ、そりゃキレるよな。あいつから見りゃ、俺は理由もロクに言えずにさ。ワココの事はあれでよかった。アイツはアイツで幸せになりゃいい」「……」「だからッて、だからかわりに君をどうこうするッてわけでもないんだ、マジで」ユダカはミカリに言った。「こんな事になって、悪い」 42
2015-04-06 01:08:08「追ってきた奴らが何なのか知ってたの?」ミカリが言った。「だからちゃんと答えなかった?」「確証は無いよ」ユダカは無意味に食い下がった。「行き当たりばったりッてのはダメだな、マジで。インスピレーションってのは」「私の事もインスピレーションで声かけたんなら、それを否定しないでよ」43
2015-04-06 01:20:29