オカルト探偵あきつ丸 -桜花ノ理-

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次のオカルト探偵あきつ丸シリーズです。 今回は晴にふさわしき桜の下の怪異のお話。 ぜひお楽しみください。 続きを読む
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はじめに

竹村京 @kyou_takemura

#落ちぬい二次 、はじまります。本作は #不知火に落ち度はない 及び #人造人間あきつ丸 の二次創作であり、オフィシャルではありません。意見・指摘は #落ちぬい タグにお願いします

2015-03-31 01:07:27

本編

竹村京 @kyou_takemura

桜である。 見事に咲き、風に揺られてはらはらと散る様は実に美しいものだ。 その反面、桜にはそのあまりの美しさゆえか、血に塗れた言い伝えさえある。 曰く、桜の紅さは屍から吸い上げた血の紅さであると。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:09:29
竹村京 @kyou_takemura

とある鎮守府に近い河川敷には立派な桜並木がある。地元では桜の名所として知られ、毎年春は花見客でごった返す。 しかし、今年はそれも少ない。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:11:11
竹村京 @kyou_takemura

夜桜見物をしていた花見客が惨殺されたのである。それも三日立て続けに5人もである。死体はずたずたに引きちぎられていて、猛獣の仕業とさえ考えられていた。 これはあくまで警察の管轄ではあるのだが、目と鼻の先で殺人事件が起きたとあっては鎮守府も安穏としてはいられない。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:12:45
竹村京 @kyou_takemura

いられないのだが。 「人が少なくてのんびりできますな。いや結構結構」 それは非番を良い事に昼間から桜の下で堂々と飲み食いしているこの艦娘を除いて、だ。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:15:42
竹村京 @kyou_takemura

ブルーシートを敷いて、朝一で買いこんだ酒と唐揚げを中心とした惣菜で暢気に花見をしているのは、あきつ丸である。酌をしているのはまるゆだ。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:18:06
竹村京 @kyou_takemura

平日の昼間から、制服(しかもまるゆは水着姿だ)のまま、それも殺人があった桜の下で酒を飲んでいる艦娘に誰もが奇異の目を向けるが、あまりに奇異すぎて誰もがスルーしてゆく。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:20:03
竹村京 @kyou_takemura

それを良い事にレモン汁をドバドバかけた唐揚げを頬張っては酒を流し込んでいるあきつ丸の背後にのっそりと立つ大男。 「お前は何をやってるか!」 ごつん! 周囲に音が響くほど力いっぱいの拳骨が制帽越しにあきつ丸の頭にめり込んだ。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:21:45
竹村京 @kyou_takemura

「いだぁっ!」 あきつ丸が頭を抱えて振り返ると、彼女が所属する鎮守府の長が怒ったような呆れたような顔で立っていた。 「婦女子に手を上げるとは男子の風上にも置けないでありますな!」#落ちぬい二次

2015-03-31 01:23:36
竹村京 @kyou_takemura

「お前を真っ当な婦女子と思ったのは着任後5分間だけだ」 「失礼な。これでも将来を誓った相手もいるでありますよ?」 「嘘つけ。お前と将来を誓うような男がいるわけがない」#落ちぬい二次

2015-03-31 01:25:42
竹村京 @kyou_takemura

「つくづく失礼な御仁でありますな。で、その失礼な提督殿は乙女の頭を歪ませに来たでありますか?」 提督は大きくため息をつくと、うんざりした口調で言った。 「お前が変な事をすると鎮守府まで変な目で見られるんだよ。さっさと引き揚げろ」 「食い終ったら帰るであります」#落ちぬい二次

2015-03-31 01:28:02
竹村京 @kyou_takemura

「もう一発いっとくか?」 握り拳を作ってみせるとあきつ丸はまた頭を押さえて後ずさった。 「わかったでありますよ、まったく提督殿は短気でいけないであります」 惣菜のパックや酒瓶をまとめて背嚢に詰めこむ。が、あきつ丸は一つだけ仕舞っていなかった。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:30:35
竹村京 @kyou_takemura

「ていっ」 「あっ!?」 振り返りざま、提督の目をめがけてレモン汁のボトルを握り潰す。半分ほど残っていたレモン汁がすべて提督の目にぶちまけられた。 「ぎゃー!あー!あきつ丸てめえー!」#落ちぬい二次

2015-03-31 01:33:05
竹村京 @kyou_takemura

「婦女子に手を上げた報いであります。精々からあげの気分を味わえであります」 あきつ丸は意気揚々と鎮守府に引き上げて行った。残ったのは顔を押さえてのた打ち回る大男と、それを遠巻きに見守る群衆だけだった。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:35:30
竹村京 @kyou_takemura

「で?」 30分後、目を真っ赤にした提督とあきつ丸は執務室で向き合っていた。当然ながらあきつ丸の頭にはもう一発拳骨が叩き込まれている。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:38:18
竹村京 @kyou_takemura

「何が、で、でありますか?」 「すっとぼけるんじゃない。平気で花見してたって事はあの河川敷で何があったかわかってるんだろ?」 「まあ、おおよそは」 「解決してこい」 「めんどくさいであります」#落ちぬい二次

2015-03-31 01:40:39
竹村京 @kyou_takemura

「ふざけんな。嫌なら80時間遠征に出すぞ」 なぜか乗り気でないあきつ丸だが、提督は遠慮せず要求を付け付ける。こういう場合にあきつ丸の話に少しでも譲歩したらペースを奪われることを経験で理解しているからだ。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:43:02
竹村京 @kyou_takemura

「横暴であります。職権濫用であります」 「横暴でも濫用でもない。警察との協力と近隣への仕事してますアピールは立派な職務だ」 「あれは数日立ち入り禁止にしておけば解決するでありますよ」 「それじゃ花見できねえだろ」 「はあ、花見のためでありますか」#落ちぬい二次

2015-03-31 01:44:38
竹村京 @kyou_takemura

「ご近所の行楽の安全を守るのは世のため人のためだろ。やってこい」 「わかったであります。気乗りしないでありますが」 あきつ丸はいつもの不遜さはどこへやら、少し落ち込んだような様子で執務室を退出していった。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:47:22
竹村京 @kyou_takemura

夜。 桜の香りが溶けた夜風は甘く、あたたかい。ふわりと風が揺れるたびに月に照らされた花弁が季節外れの雪の様に舞い散る。 「春つ方天空の彼方に暈けて 垣間見ゆ一片の秘めた意図……」#落ちぬい二次

2015-03-31 01:49:33
竹村京 @kyou_takemura

その夜道をひとり歩くのはあきつ丸である。漆黒の制服は夜闇に溶け込み、真っ白に塗った顔と手袋だけがぼんやりと浮かんで見える。 口ずさむのは桜のはかなさを描いた歌であった。 桜並木の半ばで立ち止まると、河川敷に、いや、その向こうの川面に目をやる。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:51:39
竹村京 @kyou_takemura

巻子を広げ、ランプに灯を入れる。 「致し方ない。カ号、出番であります」 ランプの光に照らされた巻子からぼんやりとしたものが浮かび上がり、小さなオートジャイロになる。それはゆっくりと川面を旋回し、ある一点で狙い澄まして爆雷を投下する。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:54:20
竹村京 @kyou_takemura

爆雷の着水の直後、水面から黒いものが次々と飛び出してきた。 曲線的かつ鋭角なフォルムで、下に小さな機銃を吊るし、左右にロケット弾ポッドを備えたもの。深海棲艦が用いる艦載機である。#落ちぬい二次

2015-03-31 01:55:47