Twitter創作交流企画『色彩決闘』――決勝戦

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シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

何も見えていない中で、濁り切ってぼんやりと白い中で、『赤』が輝くのを『見た』。 ——『彼女(フロリーシャ)』だと、思った。 他のどんな火でも熱でもない。他のどの赤でもない。 その腕が伸ばされているのだと、それを教えてくれたのは、触媒を解き生み出した海だろうか。

2015-05-25 22:14:18
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

だが——一瞬浮かんだそんな事は、どうでもよかった。 青の娘は、己が何を『想った』のかすら、もう考えてなどいなかった。 ただ手を伸ばした。見えた『赤』に向かって、焼け焦げた両腕を伸ばした。身体を動かせばばつりばつりと何かが割れて断ち切られる音がする。 ——構わなかった。

2015-05-25 22:14:39
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

水がうねる。大きく、押し潰すでも引き千切るでもなく動いて、動いた先で、『海』が『娘』を呑み込んで、動きを止めた。 ——焼けた肢体が醜いだろうとは考えてもいなかった。 海水を固めて作った触媒から生んだ水もまたそれで、だから全身の火傷には悪影響だろう事も全く意識の内にはなかった。

2015-05-25 22:14:58
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

——ただ『フロリーシャ』の赤を手繰って、掴んで引き寄せた。 迎え入れるように広げていたと見えたかもしれない両腕を目一杯に伸ばした。ばつりと断ち切れていく音は、熱に萎縮した身体の内部から瓦解していく音だとも、考えてはいなかった。 硬い鰭すら崩れていく、何の音も聴こえなくなった中で。

2015-05-25 22:15:50
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

——ただ、焼け焦げた腕が、滲む血で水に糸を引きながら。 ——力などほとんど残ってもいないのに、縋るように、『フロリーシャ』を抱き締めた。 ——『海』が、揺らぐ。 外縁から、少しずつ、崩れていく。

2015-05-25 22:15:57
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

意識は朧げだ。視界だって靄がかかっている。感覚だって、どんどんどんどん遠くなった。色んなことが分からなくなって、自分が何処に居るのかも分からなくて、それでも自分は此処に居るのだと思った。此処が何処かも、もう分からなくなって来ているのに。

2015-05-25 23:17:47
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

何かに抱き締められたと思った。それは抱き締めると言うにはひどく拙い動作であったように思えた。だからだろうか。幼子が、親に必死に縋り付くそれを思い出した。 応えようと思った。師匠がそうしてくれていたからではない。『フロリーシャ』がそうしたいと思ったのだ。

2015-05-25 23:18:49
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

フロリーシャはゆっくりと腕を動かした。重い身体で、確かにそれを抱き締めた。——冷やっこい。フロリーシャはこれを知っている。 「お前の勝ちだよ」 囁いた。口が動いたかどうか分からない。届くかどうかも分からない。それどころか、声が出ているのかどうかだって分からなかった。

2015-05-25 23:19:00
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

けど、ようやく分かったことが一つある。 「俺が“赤”だからじゃない。お前が“青”だからじゃない。劣っていたんでも、優れていたんでもない」 ずっと何かが重かった。大会の間、理由の分からない重さを引きずり続けていた。何も分からない。分からない理由が分からない。

2015-05-25 23:25:50
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

ようやく分かった。こんなに簡単なことだったんだ。馬鹿だな、俺。一回戦が終わった後、電話越しに師匠が言った。——『勝たなくても良い。それでもお前はお前だから』 「お前だからだよ」 祈りも願いも無い。フロリーシャはただ師匠が一番だと言いたかった。師匠の“赤花”が一番だと言いたかった。

2015-05-25 23:26:02
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

フロリーシャ自身ではなく、“赤花”が何より綺麗で強いのだと言いたかった。師匠を除けた奴らに、全国に、そう示したかった。だからフロリーシャではなく、“赤花”としてばかり在ろうとした。 迷いは生まれようがない。だって彼女は確かに“赤花”なのだから。其処に偽りは無く、其処に驕りも無い。

2015-05-25 23:26:08
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

けれど迷い無く突き進んでしまったそれは、フロリーシャを削ぎ落としてしまった。彼女は真実、“赤花”で在ったが、同時にフロリーシャでも在ったのに。 馬鹿だな、俺。本当に、馬鹿だ。 ゆっくりと目を閉じた。意識が途切れる。それでも抱き締め続けていたいと『願った』。

2015-05-25 23:26:22
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

. (お前は綺麗だよ。)その言葉は、言えただろうか。 .

2015-05-25 23:26:33
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

——ああ、と、溜め息をついた。 喉は張り付いていたから、声なんて出なかったけれど、背中の腕の感覚に溢れたそれは、安堵か、感嘆か。 ——無性に、温かかった。 『海』が、崩れていく。 崩れてただの、水に変わっていく。 腕や身体の力ではなく、水に、青に伝える力が、薄れていく。

2015-05-26 00:24:54
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

——『フロリーシャ』が、動くのがわかった。 崩れるまでは留まり続けるだろう水が揺らぐのがわかったから、それを見上げようとして、出来なかった。 身体が動かなかった。 ——それでも揺らぎだけは、明確に感じ取れていた。 『海』が崩れる。 奏力の途切れた水が闘技場の石畳に沁みていく。

2015-05-26 00:25:08
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

青の娘には、見えていなかった。 『娘』もまた、見る事は出来なかった。 ただもう動かせもしない腕と身体で、青海(ちち)も青河(はは)もそれらの力も無くなった中で、『彼女』に縋り続けていた。 ——声が出ないのを悔しく思う。 ——身体が動かないのも見えないのも聴こえないのも。

2015-05-26 00:25:26
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

——せめて、指先でも動いてくれれば。 ——伝わっているのだと応える事が、応える想いを伝える事が出来るのに。

2015-05-26 00:25:43
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

——娘は『青』に成り代わろうとした。 三度目の風景を前にして。 ——娘は『青』に成り代わる事が出来なかった。 二度目に相対した『彼女』に触れて。 ——娘は、成らなくても良いのだと知った。 初めて、『娘』を色でなく、血でなく、在ると放たれた言葉によって。

2015-05-26 00:26:03
シャンシェ=ティパフィス @Siyayence_siki

ゆっくりと、眼を閉じた。 周囲の騒がしさなど、聴こえていなかった。 痛みも、何もなかった。 ——ただそのまま、眠りたかった。

2015-05-26 00:26:12
フロリーシャ・ラウィーニーア @flou_siki

. ——あたたかなほのおのかたわらで ——ひのみなわがふりそそいでくる ——ゆりかごのなかでゆめをみるのね ——やわらかなみずのなかにいるような .

2015-05-26 00:41:43
『色彩決闘』管理アカウント @sikisaikettou

'△')<決勝戦、遂に此処で決着だーっ '△')<勝者は青の国の代表、シャンシェ=ティパフィス! '△')<おめでとう、君が優勝だ! '△')<君には色彩の女神の祝福が与えられる! '△')<君は全てを叶えることができるんだ! '△')<さあ祝おう!彼女の色を!女神を!

2015-05-26 00:52:42
『色彩決闘』管理アカウント @sikisaikettou

'△')<…… '△')<………… '△')(こそっ)(おめでとう、シャンシェ=ティパフィス。君を人として、色彩妖精は祝福しよう)

2015-05-26 00:53:14
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