「千の想いを」~番外編・天城がいた頃/夏の日(#9)~
- mamiya_AFS
- 1256
- 0
- 0
- 0
【赤城過去編『天城がいた頃/夏の日』後奏・間宮帰路編 開始】 【介入制限:間宮のみ。間宮鎮守府帰還後、全解除予定】
2015-03-14 20:49:12水平線に沈みつつある夕日の突き刺すような眩しさに、間宮が目を細める。その身を半分以上隠しているというのに「まだ俺の時代だ」と言わんばかりに橙で景色を染め上げる様は、普段ならば荘厳に美しく感じられるのだろうが、今は鬱陶しさを覚えた。 足を止める事無く、間宮は前に進み続ける。
2015-03-14 20:54:02360度全てが水平線の世界の中を、ひたすら波を蹴り続ける。 主機は戦闘が終わると同時に機能を停止し、今はただの水面に浮かべるだけの装備となっていた。もっとも、現行の最新型よりも二世代も古い旧型でここまで持った事自体が奇跡だとも言えるのだが。 推進能力が無いので、滑るしかない。
2015-03-14 20:57:00訓練生が真っ先に行う基本ではあるが、そもそも訓練生時代を過ごしていない間宮にとっては雪山をハイヒールで登るような重労働である。比喩ではなく滝のように流れる汗が前髪を額に張り付かせるだけに飽き足らず、頬を伝い顎から延々と滴り落ちていく。 せめて両腕でバランスが取れれば。
2015-03-14 21:00:00持ち前の運動神経ですぐにコツは掴んだものの、疲労が消えるわけでもない。 戦闘と慣れない移動方法の継続に、全身の筋肉と臓腑達が休息を求めているが、立ち止まれるはずもない。 歯を食い縛り、前に進む。一秒でも早く鎮守府に戻らなければ。 飲み込んだ唾が、汗のせいでやたらに塩辛い。
2015-03-14 21:03:30主機が壊れていなければ? 駆逐艦娘並に速い船足であれば? 間に合う? 間に合うの? 疲労の限界が近付くにつれて何故かはっきりとしていく冷静な彼女が内側で呟く。 無視するには思考を放棄するしかなかった。呼び掛ける事で気を紛らわせる。 呼吸は。呼吸はまだあるんだ。
2015-03-14 21:06:39うなじの後ろからのかすかな声色が、給糧艦娘の活気を取り戻させる。 背負った親友がわずかに身を捩る感触が、今はただ喜ばしい。 まだ。まだ大丈夫。 そう長くは持たないのだr…黙ってて。 首を捻って振り返ろうとし、首筋で固まった血液がばりばりと剥がれる痛みに眉がひそまる。
2015-03-14 21:13:29自分の血ではない。 間宮は小破程度で済んでいた。それでも陽光以上に背面を真っ赤に染めている事だろう液体は、背負った空母娘が流したものに他ならない。 剥がれた傍から汗で押し流されていく粘液の不快感も忘れ、間宮が移動を再開させる。 急がないと。 それだけを考えるように。
2015-03-14 21:17:05長年の付き合いの中で、一度たりとも耳にした事の無い彼女のか細い声が、新鮮だなどと感思えるわけもない。 彼女の身体が、記憶よりも全然軽いと感じられるのは、自分の力が強くなったからだと信じている。どれだけの体液を失えば、これだけ軽くなれると云うの…お願い黙っていて。
2015-03-14 21:22:43@amagisane @tiyodadayo 天城さん…!あんまりしゃべらないでくださいね、まだ海の上ですから
2015-03-14 21:20:22焦点の合っていなかった声が、徐々に普段の色を取り戻していく。 合間合間にひゅーひゅー、という小さいながらも危険な呼吸音が漏れてさえいなければ、もっと安心できただろうに。
2015-03-14 21:27:02大丈夫。 大丈夫に決まっている。 何故なら戦闘中、間宮はずっと庇われたのだから。 大破状態の艦娘に。 間宮がどれだけ止めても、どれだけ叫んでも、天城は彼女の前に立ちはだかり続けた。 意識を失うその瞬間まで。
2015-03-14 21:30:16背中に掛かる重心が、後ろへと傾くのを感じて必死に踏ん張る。 力の入らない両脚で持ち応えられたのは、天城が驚く程軽い事実と。 間宮の背を押そうとした右手が、存在しなかったお陰だろう。 イ級に齧られ消失した右肘より先の面で、既にずぶ濡れの割烹着を汚しただけに留まった。
2015-03-14 21:38:40説得に応じたのか、単に本当に無駄だと悟ったのか、再び親友の重さが背中にかかる。びちゃっ、という重い水音と同時に、天城が小さく呻く。 ハ級の砲撃を素手で止めたせいで、踏み潰されたマッチ棒のように出鱈目の方向に折れ曲がる赤黒い左腕が、ぷらんぷらんと間宮の視野の隅で揺れる。
2015-03-14 21:44:51