「千の想いを」~番外編・天城がいた頃/夏の日(#10)~
- mamiya_AFS
- 1492
- 0
- 0
- 0
「天城さんは凄い方ですよね」 ベンチの隣に腰掛けた高雄の言葉に、天龍は無言で応えた。顔を向ける事もなければ、眉1つ動かす事すらなく、両手に握った緑茶の缶を見詰めている。 あれから3日が経過した。 天城はいまだに帰還していない。
2015-03-21 20:49:48海上に桟橋で繋がった水上公園。海を臨み、鎮守府の施設も一望でき、立ち並ぶ木々は整然としており、ただ居るだけでもリラックスできる。 場所が場所なら買い物帰りの子連れの主婦や一服中のサラリーマンに仲睦まじいカップルが憩いの場所にしそうだが、いかんせん鎮守府の敷地内なので関係者のみだ。
2015-03-21 20:53:09「天城さんが天城さんでなければ、私達の襲撃は成功してしまっていたでしょう」 提督は息絶え、2人は重犯罪者になっていただろう。 「天城さんがいなければ、私は沈んでいたでしょう」 生駒が没した時と、全く同じ状況で高雄は沈む事になっていただろう。
2015-03-21 20:55:50「天城さんがいなければ、貴女か最上さんが提督を殺してましたよね」 あの闖入が無ければ、間違い無くそうなっていただろう。 「天城さんがいたからこそ、私達はこうしていられるわけです」 たった1人で『全員』を『救った』空母がいる。
2015-03-21 20:57:57軽巡洋艦娘の呟きに、今度は高雄が口を噤む番だった。 天龍の行動が、直接の要因では、ない。 実際、天龍は何の罰も処分も受ける事無く此処にこうしている。 久瀬提督は帰還後、何の動きも見せなかった。高雄と天龍は通常業務に戻されてすらいた。
2015-03-21 21:04:29何の命令も申請も無しに出撃する、という第一級の軍規違反を犯した天城を庇う術を誰も持ち得なかった事が最大の理由とも言えた。 久瀬がどう報告したのかは彼女達の知る所ではないが、天龍や高雄の立場が悪くならないように動いた、というのは感じられる。 何故そんな事を、とは当然思う。
2015-03-21 21:09:00天城が提督に予め何か吹き込んでいた、と考えるのが状況を見るに自然な推測ではある。 が、自らの命を狙った艦娘に、しかも鎮守府最大の功績者にして戦力たる天城を失わせるに至った2人を庇う道理も普段の彼の言動からは見えはしない。 波の音だけが、2人の間を流れる。
2015-03-21 21:11:42声に、青い軍服の高雄が顔を向け、普段着の天龍は目線だけを動かす。 巫女型衣装の端と長髪を風に揺らし、艦隊唯一の戦艦娘が2人の傍で長い脚を止める。 小さな溜め息は、誰の口から漏れたのかはわからない。
2015-03-21 21:16:42不貞腐れているわけでも、拗ねているわけでもなく、淡々とした天龍の返答に、金剛と高雄の眉がひそまる。 落ち込んでも、尖ってもいない、抑揚が無いからこそ危険でしかない。
2015-03-21 21:22:07姉と共に誘拐された日から壊れていたのか、それとも政治家である父親が助けてくれなかった時から壊れているのか。 天龍も龍田も考えた事は無い。
2015-03-21 21:40:02過去に望んだ未来と結末であるとは思えないが、そもそも何かを望んでいたのかが天龍にはわからない。 じゃあきっと仕方の無い事なんだと特に深い思考もせずに彼女は決め込んでいた。
2015-03-21 21:42:16天龍がようやく顔を上げ、両の目で年上の後輩を見上げる。 惧れも、怒りも何の感情の灯らない眼差しが、瞬きを数回挟む。
2015-03-21 21:28:10ぼやける。 あの日から左目がおかしい。 軽い。 軽過ぎる。 これが罰だと言うのなら、余りにも軽過ぎると、天龍はただ思う。
2015-03-21 21:44:58@15tennryuu @tiyodadayo 二人目だからなんてワタシは知りませんヨ。 何も出来なくなったり、自分も死のうとかいうよりましデス
2015-03-21 21:29:34@Kongou_Yasaka @tiyodadayo 何か行動したら、私は大切な人を沈めてしまうんです。 自分で死ぬ必要も無いですよ、沈める資格がある子がいるんですから。
2015-03-21 21:30:57姉が傷付けられた。ただそれだけの理由で、直接の原因でもない憧れの先輩を沈めてしまった少女がここにいた。 つい3日前に沈んだ艦娘には妹が1人いる。 ならば。 天龍はとうに覚悟を決めている。
2015-03-21 21:33:39