「精神科医は医者じゃない」?精神医学・精神科医への誤解と偏見―その歴史と事情
- Tetsuro_S_Phil
- 29129
- 10
- 10
- 16
.@cybersheeptwitt @guriko_ 「精神科医は医師でない」の件、いろいろ考えていたら、ものすごく長くなってしまいました。以下、失礼ながら連続ツイートします。
2010-12-26 21:01:16.@cybersheeptwitt @guriko_ 精神医学が輸入されたとき、医師がまず飛びついたのはフロイトの精神分析でした。これを使いこなせば、当事者の症状を過去の心的外傷や深層心理と結びつけ、その「代謝」を図ることにより、精神病を治すことができると期待されたからです。
2010-12-26 21:02:03.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)しかし、精神分析は当事者の物語を構成するのが限界でした。精神分析は疾患の原因や過程を理解できても、治療に結びつかず、特に統合失調症への効用が低かったのです。精神科医が、医師ではなく文学者だと揶揄された所以です。
2010-12-26 21:02:14.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)もう1つ、精神科医が医師ではない・病気を治せないとされた理由は、他の入院患者と違い、退院する人が極端に少なかったことです。
2010-12-26 21:02:23.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)他の診療科からみれば、退院しない=治っていないと見做され、精神医学の有効性が疑われていたのです。でも、これが誤りであることは、昨今問題となっている社会的入院をみれば、御理解を得られるものと存じます。
2010-12-26 21:02:31.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)戦前において有効な治療法というと、今でいう神経性うつ病、社会不安障害、各種恐怖症に効く療法として森田正馬氏の「森田療法」が、開発された程度でしょうか。
2010-12-26 21:02:46.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)1949年の躁病用の炭酸リチウムを皮切りに、向精神薬の開発が始まり、統合失調症用のクロルプロマジン、うつ病用のイミプラミン等が提供されるようになり、これ以降、精神医学は劇的に寛解率を引き上げることができました。
2010-12-26 21:02:54.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)現在は、当事者に適合した投薬、精神療法(医師の行うカウンセリングや認知行動療法等含む)等、根拠に基づいた療法(いわゆるEBM)が実施され、寛解(小康状態)にこぎつけることは十分可能になりました。
2010-12-26 21:03:06.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)なぜ精神科医が「完治」を使わないのか。精神疾患・精神障害は、再発率が高いからです。器質性・内因性疾患(双極性障害等)の再発は言うまでもなく、原因となる環境の調整不備、服薬不遵守、治療中断等があまりに多いからです。
2010-12-26 21:03:18.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)精神疾患の再発率の高さは、癌と同程度です。癌を扱う医師は決して「完治」を使いません。精神科医も、当事者や関係人に軽々しい予断や誤解を与えないように努め、「寛解」の言葉は学界でも支持されて広まりました。
2010-12-26 21:03:26.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)現在は、医師の治療に加えて臨床心理士やカウンセラー等の心理職による来談者中心療法、ブリーフセラピー、作業療法、自律訓練法、EMDR等、様々な治療ツールがありますし、入院者にはソーシャルワーカーが退院調整を行います。
2010-12-26 21:03:35.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)なお、心理職が行う療法は医療行為ではないため保険適応外であり、治療費が高額になるのが難点です。1時間の治療に8千-1万円、EMDRはもっと高い。病院または都道府県・市町村等に所属する心理職に依頼するのがいいでしょう。
2010-12-26 21:03:55.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)200年の歴史しかない精神医学は、治療ツールの発明、疾患を訴える人の増加、また発達障害等、精神病の扱う領域の拡大により、猛スピードで発展せざるを得なかった。その中で多種多様の薬剤が開発され、治療の主流となりました。
2010-12-26 21:04:12.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)なぜ投薬中心になったか。当事者数の激増に伴い、外来は1時間に5-10人は診なければならないし、新規のクリニックが開業しても1年も経てば10分診療に陥るからです。逆に言えば、投薬調整以外の治療を行う時間がない。
2010-12-26 21:04:21.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)以上のように、当事者ごとに最もよく脳に作用し、かつ副作用が少ないと見込まれる薬を選択することが、精神科医にとって不可欠の技術となっているのが現状です。
2010-12-26 21:04:33.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)その状況において、精神科医は最善を尽くしていますが、何しろ心の問題であるので他人からは効果が見えず、精神医学が疑似科学と見做されたり、薬漬け治療と非難されたり、それでも完治しない役立たずの医学と言われてしまうわけです。
2010-12-26 21:04:42.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)しかし、本のタイトルを借りれば、「こころだって、からだです」。精神障害や精神疾患とは、脳という臓器の病気・機能不全・障害にほかなりません。つまり、胃腸科医師が胃腸を診るように、精神科医は脳を診るのです。
2010-12-26 21:04:52.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)高血圧の症状緩和のために降圧剤を一生投与し続ける。あるいは、糖尿病の症状緩和のためにインスリンを使用する。そこで、精神科の薬が、脳を完治させるものでなくてはならない理由がどこにあるでしょうか?私はないと考えます。
2010-12-26 21:05:02.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)また、パキシルをはじめ重篤な副作用がある薬は排除すべきかというと、それも誤りです。多くの当事者の支えとなっているのも事実であり、医師・当事者とも、副作用を承知し対処方法を立てるのが精神療法の中心となるでしょう。
2010-12-26 21:05:13.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)大事なことは、実質投薬しかできないのだから薬さえくれてやれば良いという精神医療を行うのではなく、当事者にとって生活を少しでも楽にし、安穏とした精神状態を得る、そのための「支え」として薬を使うという態度です。
2010-12-26 21:05:22.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)こういう真摯な態度で、当事者の立場を尊重する医師であれば、たとえ能力が十分でなくとも、当事者と医師との間に強力な信頼関係が構成され、治療は良い経過をたどるでしょう。実は、信頼関係の構築も、重要な精神療法なのです。
2010-12-26 21:05:29.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)少数ながら、当事者次第で無薬治療を試みている医師もいますが(獨協大の井原裕氏等…こころの科学149号参照)、これはまだまだ医師の資質によるところが大きく、標準化された精神療法となるのは当分先の話になるでしょう。
2010-12-26 21:05:40.@cybersheeptwitt @guriko_ 承前)無薬治療が誰でも行えるとは考えにくく、今後も投薬が精神医療の中心になります。重要なことは、精神医学は疑似科学でもないし、薬漬けの治療でもなく、他の医療領域に比べて格別に薬物と応接の技術が求められる領域だということです。
2010-12-26 21:05:50昨日行った連続ツイートの中に、誤りがありました。井原裕氏の無薬治療は、単行本の「激励禁忌神話の終焉」第6章から第8章で言及されています。お詫びして訂正いたします。 http://togetter.com/li/83132
2010-12-27 20:25:10