川上稔さん(kawakamiminoru)の「ばけもの の はなし」
● 少年はそのことを知らない。 ただ人から聞いて知っている。 地元の警察も、いつものことだと対処が遅れたのが響いたのだとも。 一人の警察官が、仲裁に入ろうとして、出来なかったのだとも。
2010-12-30 01:23:15● そして少年の浴びる風は夏前の匂いを含み、翌週のHRでは和紙が配られた。 少年の元へは手紙が来ない。 しかし少年はまた何も書かずに海に出る。
2010-12-30 01:23:35● ある日、夏前の雨を少年は浴びた。 雨期の力無い雨。 だが少年はまた夜に出ていく。 父の革ジャンパーは傷だらけで、夏の時期でも着るものだ。 少年は、浴びる雨の冷たさよりも、ジャンパーの脇にある穴から入る滴にこそ怖気を感じる。
2010-12-30 01:23:58○ 化け物は、また、目の前に立ちはだかったものを駆逐した。 敵は怖くない。戦士も勇者も。 怖いものはもっと別にあるものだ。
2010-12-30 01:24:06● 雨の授業で、少年の目の前には、また和紙が配られた。 皆の手元には、手紙が配られた。 そして少年の机の上にも、手紙が置かれた。 少年は、また和紙に何も書かなかった。 手紙は、しかし、不思議を感じたので、開いて読んだ。 鉛筆書きの、小さな字があった。
2010-12-30 01:24:15● 少年は何も書かない和紙の上に、封に入れた手紙を置いておいた。 和紙は老講師が回収した。 だけど手紙はそのままだった。 手紙は机の中に入れられた。
2010-12-30 01:24:34● 窓を開けたHRの授業では、また少年の机に和紙が配られた。 また手紙も配られた。 手紙を開いてみると、小さな字があった。 『ごめんなさい』
2010-12-30 01:25:11○ 化け物は夜のことを思い出した。 いつも、人は化け物を嫌って襲いかかってくる。 近寄るなと言っても無駄だと解っているし、化け物は人の言葉を話せない。 ならば襲いかかってくる人々は、化け物を嫌うために襲いかかってくるのだろうか。
2010-12-30 01:26:39● 夏休みになり、少年は学校に行かずともよくなった。 学年は三年、他の皆は受験で忙しい。 自分達の頃は就職で忙しかったのにと、そう言っていたのは誰だったろうか。 否、忘れてはいないが、踏み込みたくはないだけか。
2010-12-30 01:27:26