【twitter詩小説、レッズ・エララ神話体系】中世編「時雨とエヴィル」シリーズ、「オーズ界秘境探検」序章
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ジグレッドラス渓谷。これが、この大陸の東西を分ける、大きな渓谷だ。それは神が引いた線。あっちとこっちを分ける線。それにしても露骨かもしれない。創生者の雷が、大地を割って、このようにデザインしたかのよう。時雨とエヴィルは、今は「こっち」の大陸――東の大陸にいる。1
2015-07-08 08:16:51大きなレッズ・エララの世界には、このように露骨な区分けが存在する。それは未知への誘い。あるいは秘境の手前。要するに「こっち」の世界はまだ安全圏なのだ……この渓谷にただひとつ、異常に長いつり橋がある。木製の、それでいて妙に頼りがいがありそうなつり橋。ゆらゆら、ゆらり。2
2015-07-08 08:19:08あな、時雨とエヴィル、旅人よ。その未知の道を見て、なんとする。「これでこの国というか、大陸ともお別れだ」エヴィル言う。「長いような、それでいてあっという間だったような。いろいろあったね」時雨言う。極点に至れば旅人、否応なしに感慨深くなりにける。3
2015-07-08 08:32:04数々の冒険譚を思い出す――が、それもまた「通過してきたもの」に過ぎず。さあこれから何とする。またもとの場所に戻るか? 否、二人は、決めたのだ。この未知の世界……大陸の西側に行くということを。4
2015-07-08 08:35:03数々の伝説ありけれ……人間大の大鳥、食い尽くせないほどのキノコ、シダはあたりを一面覆い尽くす……あたかも恐竜時代のそれのように。人はいるか、いて猿人か。さあ冒険譚、文明のありかはあるか……? それほど、交易もなにもない、暗黒大陸。それがジグレッドラス渓谷のあっち側。5
2015-07-08 08:38:01ただ霧深くたちこめるこの草原に、ただひとつのつり橋がある。この奇妙な頼りがいのある、魔性の橋だけが、こっちとあっちを繋ぐ。あな、その魔性たるや、ゆらゆら揺れて。霧に包まれたこの大地を、さらなる魔性の霧に包まれた「あっち」と繋ぐ……その魔性……。6
2015-07-08 08:44:02行けばいい、ただそれを望んでいるかのよう。だけれど、引き返せない、それを告げているかのよう。そのつり橋は……! それでも、行くのをためらわない、だって二人は旅人なのだもの、冒険者なのだもの。探検家の心得あるものだもの、「市民」の安逸を持たないものだもの。7
2015-07-08 08:47:02「まあ別に引き返したっていいわけだ」エヴィル言う。そこに恐れはあるはずなく。「別にこの渓谷を遡っていって、【文明国】に行ったっていい」。が、対して時雨言う。「この橋を渡ったものは、戻ってこない。そんな伝説?」「だな」吸い込まれるかのように……。8
2015-07-08 08:50:04健全な自信と、増長たる傲慢は確かに近しい。しかし、少女の瞳は、静かに輝いている。この未知こそ、我が住まい。この未知こそ、我が空気。震えるは己の冒険心。だから……「行こうよ、エヴィル君」少女は言う。思えばこの旅は、「分からないあっち」に行くということだった。9
2015-07-08 08:53:03「この世界ともお別れ、か」「すごいこと言うね」「あっちには何があるかわからない。ほんとうに、ほんとうにだ。赤が青になってるくらい、不思議でない」「恐い?」「全然。これでこそ旅だ」あな、時雨の相棒たるエヴィル、探究心たかのぼる。時雨の期待と同じくして。止めるものなど…ない……!10
2015-07-08 08:56:00「行こうか」「ああ」かくして、極地探検の旅がはじまる。このジグレッドレス峡谷、深い深い谷を眼下に、つり橋ゆらしてゆらゆらり。「こっちの安逸」の紐を断ち切った、いま……! 二人は歩む、これが旅だ。これでこそ旅だ……! 安逸な寝床は捨てたまえ! この勇気が即ち冒険の名なのだ!11
2015-07-08 08:59:04――詩小説、レッズ・エララ神話体系、中世編「時雨とエヴィル」 「オーズ界秘境探検」序章―― (つづく)
2015-07-08 09:01:05――詩小説、レッズ・エララ神話体系、中世編「時雨とエヴィル」 「オーズ界秘境探検」序章(2)――
2015-07-09 12:40:17デデン!つり橋に登場したるは、四本の腕を持った防人(さきもり)!髪は赤く、鎧も赤い……!血塗れ……!「ヒキカエセ……」ゲロ吐きそうな気持ち悪い声だ。「歓迎されてないのかなぁ」時雨は困惑する。「俺様たち未踏を踏破する者だからな、闖入者か」「ヒキカエセッタラ……」12
2015-07-09 12:41:03「え?今ちょっと弱気にならなかった?」どうやらツボに入ったらしい時雨。苦笑いをこらえんとす。「……」ちょっとニヤりとするエヴィル。そして「ほーれほれほれ」ゆらゆらぐらん! いきなり思いっきりつり橋を揺らす青年!「ヤ、ヤメロオオオオオオ!」途端にビビりだす防人。13
2015-07-09 12:44:02こ、こいつ意外にもコワモテのくせしてビビリ!「うーん……」苦笑いを隠さなくなった時雨。「ほーれほれほれ」さらに揺らすバカ青年。「オ、オノレエ!」背中に背負った剣を二本抜いて、一番目の腕と三番目の腕で交差して構える防人。その蛮刀(マチェーテ)、幅広にて。14
2015-07-09 12:47:00「ヌオオ!」こちらに突進してくる防人。先ほどまでのビビリとは違い、すっすっす、とこちらに滑るようにしてこの揺れるつり橋を渡ってくるバランス感覚!これは交戦!すぐさま時雨は臨戦態勢!妖刀「落葉」を抜き払い、目に戦意をやどす。15
2015-07-09 12:50:03「テエエエイ!」防人が意外にも飛び掛ってきた!この不安定な足元!時雨はその飛翔を、空中で打ち払い、この峡谷に叩き落すことも考えたが、しかしここは剣士として真っ向勝負である!二本のマチェーテが襲い掛かってくるのを、一本の刀でいなす!すると、相手の残った腕が、時雨のボディを叩く!16
2015-07-09 12:54:07これは意外!なんといっても、相手は腕が四本あるのを忘れていた!このトリッキー!「くっ……」。意外な攻撃に、ダメージ弱といっても、やや苦悶。しかしそれなら……「……うあっ!」時雨ははじいた刀でさらに相手に近寄る。刃物を相手の体に押し付けるようにして、相手の挙動を封じる。17
2015-07-09 12:57:00「……」「……」暫時、戦闘が固まる。さあどうする……。ところで、それを見ている青年エヴィル、もうゆらゆらゆらりんと揺らすことはない。そんな雰囲気ではない。そこで、「あー、今更言っても信じないだろうが、俺様たちは戦意はないぞー」今更である!18
2015-07-09 13:00:06「ウソヲツケ……ソンナワケアリャシマセン……」この防人、結構丁寧な人間なのかしら、と思う時雨であった。ちなみに刃を向けているので、まだ剣呑。で、エヴィル、「ていうか何で引きかえさにゃならんのさ、まず説明せえよ」調子乗って揺らした男がこの言い草!19
2015-07-09 13:04:04「コノ地は……神々の大地……人間ガ入ッテハナラナイ……!」厳かな口調で、神妙に防人が言った。しかしエヴィル、「いや……お前も人間なんじゃ?」ぶっちゃけた!防人、「ソレヲイッチャア……」泣きそうな顔で答えるこの四本手のひと、結構ユニークなキャラらしい。20
2015-07-09 13:07:04なんかもう戦う気がなくなったので、二人とも剣を下ろす。そこでふと、エヴィルは気づいた。「お前さん結構流暢に共通語話してるけど、お前さんの母語はなんなん?ちょっと教えてくれまいか」「……ヌーヴェ、ダダット、ハセマ?」「…あー、オーズ語。ベベド・ハセマ、ウム」「……!」驚く防人。21
2015-07-09 13:10:03「何て言ったの、エヴィル君?」「単純に、【ある程度は話せる】ってことだな、オーズ語を。あっちは「話せるのですか?」と敬語で」「……ベベル、ドーゾ、ケル、ケル?」「ケルケル。ナ=ドッゾ、ベンゾラ【チョイラ】」22
2015-07-09 13:14:02「何ていったの?」「【ほんとに?ほんとに?……言葉上手くて驚いてます】【マジマジ。いうてもあんま上手くないけど】って感じ」俺様のはカタコトだかんな」「世間話してるじゃない……あ、じゃあ私のを訳してくれない?刃向けてごめんなさい、って」エヴィルがそれを訳して、時雨が頭を下げる。23
2015-07-09 13:17:03