青葉島鎮守府 第十三話
- dairokusendai
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加古はそうやって数秒見つめた後に、相好を崩していつもの頼りなさそうなぼんくら顔になった。そして、今度は気まずそうな顔で谷風を見つめた。 「あーー、なんかごめんよ谷風、変な話に巻き込んじゃってさ」 谷風は慌てて首を振って否定するが、声を出す余裕はなかった。
2015-07-20 19:58:35それは、普段の加古からは想像も出来ないような繊細な顔をしているかだろうか? 谷風が不安そうな顔を向けるので、加古はますます困った顔をした。 「あの……その、なんだ……谷風は、この後、どうするの?」 加古が苦し紛れに、新しい話題を振った。青葉が呆れたような顔を加古に向けている。
2015-07-20 20:10:59「えっと、加古が忙しいなら、衣笠さんに昨日の話を聞こうかと思っていました」 それを聞いた途端に、青葉が眉をひそめて、加古が嬉しそうな顔をした。 「おお! 谷風は衣笠と知り合いだったもんな! そりゃいいな」 加古がうんうんと頷きながら、青葉の方をちらりと見た。
2015-07-20 20:15:28青葉の顔が苦い薬を飲む子供の様に、ひどく歪んだ。首を振ってイヤイヤする青葉に加古は無理矢理顔を近づけて、何かをひそひそと話し始めた。時々、青葉の悲鳴みたいな反論と、加古の言いくるめる言葉の端っこが聞こえてきた。こういう時の加古は頭がよく回る。
2015-07-20 20:21:33意気揚々と加古が谷風の方を振り向いた。 「谷風、青葉も衣笠の所に行くそうだ。だから一緒に行くといいよ」 谷風が、驚いて青葉の方を見る。青葉は苦虫をかみつぶしたかのような顔で谷風を睨みつけている。目が断れと語っている。しかし、加古がそれを許さなかった。
2015-07-20 20:28:20「もしいかないなら、私と一緒に神通姉さんの所に行こうな」 「青葉先輩と同行させていただきます」 ここ数日、神通に徹底的にしごかれた谷風にこれ以外の選択肢はなかった。自分から神通に会いに行くほど間抜けでもない。青葉が諦めたかのように大きくため息をついた。
2015-07-20 20:31:01加古は笑いながら、二人を送り出した。青葉が乱暴に扉を開けると、部屋に生暖かい風が流れ込んできた。再び、あの熱気の籠ったエントランスを通らないといけないかと思うと、谷風も青葉も顔をしかめた。 青葉が乱暴に扉を閉めると、調度品の上に積もっていた埃がブワッと舞った。
2015-07-20 20:37:442人を送り出した加古はそのまま回れ右をして再び小さな窓の傍に戻った。相変わらず、小さな窓には絶え間なく波が叩き付けられて外が全く見えなかった。
2015-07-20 20:42:05青葉は、衣笠に会う前に提督の執務室によって分厚い資料を受け取った。執務室から出てきた青葉は顔をしかめながらもどこか嬉しそうだった。鞄に資料をしまうと、そのまま早足で衣笠の部屋へと歩いて行った。谷風も慌ててその後ろを追った。
2015-07-20 20:59:08青葉が衣笠の部屋の扉を叩いたのは、朝食と昼食の丁度間の頃だった。部屋の中からはッ衣笠の「あおば~?」と、気の抜けた声と共に扉が開かれた。部屋の中には足柄もマグカップ片手に椅子に腰かけていた。招き入れられた青葉と谷風が軽く礼をすると、足柄はニコリと笑って手を振った。
2015-07-20 21:08:30衣笠の部屋は青葉も勝手を知っているらしく、手頃なクッションに腰かけると先ほどの資料と手帳を机の上に広げた。そして、二人が座るのを待ってから話を切り出した。 「衣笠、足柄さん、昨日のお話を取材させてください」
2015-07-20 21:16:34青葉は提督から、戦闘詳報で不明確な部分を艦娘から直接確認する仕事を任されている。今回、衣笠の部屋を訪れたのも、昨日の装甲列車との戦いに関しての聞き取りを提督に頼まれているからだった。青葉はそれを取材や記者活動と称して楽しそうに行っている。
2015-07-20 21:26:24話は思ったよりも長く、そして報告書を読んでいない谷風には到底ついていけないような複雑な話になっていた。今回遭遇した装甲列車があまりにも不可解で、川内の提出した報告書にも不明確な部分が多く、列車砲を担当した2人から色々と話を聞いている青葉もしきりに首を傾げていた。
2015-07-20 21:45:59青葉の提督から任された取材自体は、青葉は私見を一切いれずに淡々と進んで行った。衣笠も足柄も受け慣れているらしく、あまり私見を入れずに起こったことや、見たことをそのまま青葉に伝えていた。その後の、青葉がペンを置いてからが大変だった。
2015-07-20 21:55:32三人はまるで堰が崩壊したかのように、昨日の装甲列車に関する見解を述べ始めた。話は装甲列車から、その後の撤退時の防空戦にまで話は広がり、谷風は、怒涛のように繰り広げられる議論に押しつぶされないように必死だった。
2015-07-20 22:01:49あっという間に時間はお昼ごろになってしまい、議論の場は食堂に移され、霞が足柄を連れて行くまで止まなかった。谷風も成り行きでついて行ったが、最後の方はひたすら神通の所に行くのとどっちの方がましだったのかを皮算用していた。
2015-07-20 22:24:35足柄も抜けて一息ついたので、喉が渇いたとしきりに水を飲む青葉型の二人を置いて、谷風も食堂から立ち去ろうとした。しかし、立ち上がる彼女を青葉が呼び止めた。 「谷風、次は夕張さんの所に行きますよ」
2015-07-20 22:30:03この時の谷風の様子を衣笠は、勘弁してくださいと頼む彼女の声はあまりにもか細く、消え入るような懇願だったので、まるで私達が野盗かなにかなのではないかと思えてくるほどに悲壮感にあふれていて彼女に対して申し訳なくなった。と後に語っている。
2015-07-20 22:34:06これには青葉もたじろいだようで、その声は少し優しかった。 「大丈夫です、今度は長話しませんから……」 衣笠はそれが何を意味するのか気が付いたらしくニヤリと笑っていた。
2015-07-20 22:37:48工廠の扉の前で、谷風はフルフルと首を振った。青葉は谷風を道連れにするらしく、決して話してはくれなかった。まだ、工廠の扉を開けていないが、その熱気は扉越しに十分に伝わってきている。このエントランスの向かい側の扉が陽炎で霞んで見えるのは気のせいであって欲しかった。
2015-07-20 22:48:422人が外に出たのは、入ってから10分も経っていなかった。工廠の扉を開けると温度差で一気に生ぬるい風が吹き、それに押されるようにして二人は外に出たが、額には玉のような汗を浮かべ、髪は顔に張り付いていた。ふらふらと二階に上がった二人はその温度差に歓喜の声を上げた。
2015-07-20 23:05:13