15/8/14~23 #赤風車奇譚 まとめ

主に 空想の街 で展開している物語『赤風車』の登場人物が語る、真夏のちょっとひんやり特番です。ひんやりというよりもんやり。全二夜、完結。 本編など一覧はこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。 (尚、この二作は『赤風車』の公式二次創作のようなものであり、番外でも外伝でもありません。本編とは一切関わりのない、最も遠い物語です。)
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第一夜 「歌鳴り屋蔵」

不可村 @nowhere_7

#赤風車奇譚 不羈独立の歌鳴り屋よ うたふるばかりの其の身から 伸びたる金の風切羽と 打ち交はせねばいざ切らむ 知らにで鳴くはあはれなり 憂しやかなしやいとほしや まことあはれはいづれかや 第一夜「歌鳴り屋蔵」 pic.twitter.com/nCpROab9Wy

2015-08-14 21:49:30
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不可村 @nowhere_7

そもそも私は君ほど饒舌じゃあないし、語って聞かせるほど面白い経験をもっているわけでもないんだけど、一体君は私に何を期待して呼んだんだ? 夜更けに出歩くのはよくないだの普段は煩いくせに――全く夏は誰もかれもおかしくなるな。 #赤風車奇譚

2015-08-14 21:56:47
不可村 @nowhere_7

君でも真夏の夕べにはこんな話を聞きたくなるんだな。でも本当に過度な期待は寄せないでくれよ。白い手だの、血みどろだの髑髏だの、目にしたこともない。今後も無縁でいたいんだ。 わかったよ。とにかく君は時間を潰したいんだな。 #赤風車奇譚

2015-08-14 21:59:57
不可村 @nowhere_7

普段愚痴を聞いてもらっている礼だよ。最近はお蔭で元気になれてきているしね、でなきゃ私がこんなことに乗るものか。急かすな、君は骨身にしみて解っていると思うのだけど、どこまでも私は口下手だからな。 それでいいなら、話そう。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:04:12
不可村 @nowhere_7

どこから、うん、記憶……君は記憶というものをどうと思う? 思い出や過去、言い換えようと思えばできるのだろうけれど、どうもどれも違う気がするんだ。ひとつひとつ特別だというか――それでいてお互いの一部分は含んでいるような。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:08:51
不可村 @nowhere_7

君の相槌が薄いと話しづらいな。いや、ごめん、どうも不明瞭な話し方で。君みたいにはいかないな。 何が言いたいかって、私の口調と同じように、人の記憶など曖昧だということだよ。 私は自信がないんだ。今から話すことに。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:15:38
不可村 @nowhere_7

併し日が落ちても矢張り暑いな。酒でも呑めたらいいのかもしれないが、私も君もやらないし。ああ、ありがとう、助かるよ。ただの水もこの時季は特に御馳走だ。 どこまで話したろう……記憶のことだな。いや、今、少しこの水を見てね。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:21:11
不可村 @nowhere_7

打ち水をしていたんだ。 今日の話じゃない。女学生の頃、父も母もいて家が賑わっていた真夏のことだよ。繁忙期だからね、従業員の皆の手がふさがっていて、姉さんも弟も別の用事があって、私が表へ出たんだ。桶に水を汲んできて、こう。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:23:55
不可村 @nowhere_7

言わなかったか? うちの宿には中庭に小さな井戸があるんだ。柄杓もちゃんと揃っていてね、打ち水をした後のあの何とも言えない、切なげな涼しさは私も好きだし、不満もなくやっていたんだ。 井戸は関係ないよ。皿屋敷でもあるまいに。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:27:11
不可村 @nowhere_7

さて戻って風でも待つか――そう思って顔を上げた時だった。郵便配達の者が通りの向こうから駆けてきて、一枚の封書を渡してきたんだ。父の仕事の件だろうと思って差出人を見た私は少し驚いた。学校でいつも会っている相手だったからだ。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:33:13
不可村 @nowhere_7

休暇と言っても私たちにはやることが山のようにあってね。習い事だの家で身に付けるべき教養だよ。 手紙の差出人は櫻子だったんだ。文通、流行ってはいたけど、急になんだろうと、その時はちょっと不思議に思うだけで部屋に戻った。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:39:18
不可村 @nowhere_7

櫻子は私より上流の家の娘だからな。たとえ末子と言えどやることはわんさとあった筈だ。それなのに前置きもなく手紙なんて、差し迫ったことでも、と部屋でふと不安になった。 何しろ、同学年で唯一仲良くしてくれた相手だったからな。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:43:44
不可村 @nowhere_7

手紙の封を切ると、また畏まった白い便箋が出てきた。癖のある櫻子の字は、まあ、差し迫ってはいた。どうも捉え方がまだ判然としていなかったけど。それがこういう文面だったんだ、 ――今直ぐおいでなさい。角を曲がって、一ツ、二ツ。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:47:53
不可村 @nowhere_7

今すぐおいでと言われても、いや、実を言うとその頃私は結構家を抜け出して櫻子と遊んでいたんだけど、それにしたってどうしたらよいか困る文面じゃないか。でも放っておけなくてね、ほら、字が差し迫っていたから。 だから家を出た。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:53:51
不可村 @nowhere_7

そこですぐ途方に暮れた。君がもし我が家の前を一度でも通ったなら分かると思うのだけど、我が家はまっすぐ商店街に面している民宿だろう。 角と言われてもどこの家だか店だか分からない。仕方なく、とぼとぼ櫻子の家のほうへ歩いたよ。 #赤風車奇譚

2015-08-14 22:58:02
不可村 @nowhere_7

直接訊くしかないと思ったんだ。こんな手紙を出すくらいなら、余程困っているか、もしくは余程遊びたいか。 でも普段私たちは、その、学校ではいつも三人でいたからね。同学年では櫻子だけが友人だったけど、うん、もう一人いてね。 #赤風車奇譚

2015-08-14 23:02:36
不可村 @nowhere_7

仲間はずれというのが厭だったんだ。自分がされたときにどんなに寄る辺ないか分かっているからこそ、櫻子に会うならもう一人の、その、先輩なんだけど、そのひとも呼ばないとと。そのひとが一番多忙だとは知っていてもね、性分だよ。 #赤風車奇譚

2015-08-14 23:04:14
不可村 @nowhere_7

気づけば商店街の端で、でもここからそのひとのお屋敷にまで行くには時間が、と空を見た。所々に入道雲があって、ああ夏だ、とそれだけばか正直に思った。まだ昼日中で、暑かった。 ――そこで顔を前に戻したら、いたんだよ。櫻子が。 #赤風車奇譚

2015-08-14 23:07:12
不可村 @nowhere_7

……君は私の話を聞きたいのか結論を出したいのかどっちなんだ。ここで櫻子が白く透き通ってたりしたら私は多分今ここにいない。 まあいいんだけど。櫻子はいつも通りの格好だったよ。それは、真夏だし、登校日でもないから、浴衣で。 #赤風車奇譚

2015-08-14 23:09:55
不可村 @nowhere_7

それを言うなら夏は皆浴衣だったよ。あの頃は私だってただの小娘だったし、姉さんのお古だったけど、白に蝶の舞う浴衣でね、いや、それはいいか。 折角会えたのだから訊こうと思った時、額をそっと拭った櫻子のほうから声が飛んだ。 #赤風車奇譚

2015-08-14 23:13:38
不可村 @nowhere_7

あのお手紙、届きまして? ――うん、こんな感じだった。暑さや体調の話もさらりとできる、いつもの櫻子だ。上品な話し方。だから私もいつも通り素直になって、届いたこと内容がちょっと分からなかったことを明かすと、櫻子は微笑んだ。 #赤風車奇譚

2015-08-14 23:18:43
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