15/8/14~23 #赤風車奇譚 まとめ

主に 空想の街 で展開している物語『赤風車』の登場人物が語る、真夏のちょっとひんやり特番です。ひんやりというよりもんやり。全二夜、完結。 本編など一覧はこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。 (尚、この二作は『赤風車』の公式二次創作のようなものであり、番外でも外伝でもありません。本編とは一切関わりのない、最も遠い物語です。)
0
前へ 1 ・・ 4 5
不可村 @nowhere_7

果たして足音は、ごく近くでぴたりととまった。もう俺が此処に到着してから随分時間は過ぎたろう、日が変わったかも知れぬ時刻に何なのか気になったが、声をかけられるまで黙っている腹でいた。 そこで前触れもなく、俺の影が消えた。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:27:07
不可村 @nowhere_7

解るかね。 火はその時室内にはなかったのだよ。障子戸の向こう、濡れ縁に俺の手燭が、そして屋台の火が並んでいた。部屋には煌々と照らされ、横になった俺の影が平たく存在していたのだ。 それがふうと薄くなり、どんどん消えてゆく。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:29:57
不可村 @nowhere_7

すべてがばたばた暗闇に吸い込まれる中で、本当にばたばた音がした。身を起こすまでもなく、その音は俺に手燭を渡した者の、慌てに慌てた足音だと解ったよ。 過失だろうとふんだのだが違うらしかった。手燭を床に投げつけていたからだ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:33:45
不可村 @nowhere_7

奇怪なのはその者の行動だけではない。言っただろう、すべての灯りが消えていったと。これは駄目だ、と何に対してか、まあ勘だがな、虫が騒いだので俺は荷をひっつかみ外へ出た。 そこでまた、悔しいことに面食らったのだ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:37:09
不可村 @nowhere_7

何か変化があるのだと、予想していたがな―― 屋台の者たちが全員、手を蠢かせ、何かを追っていた。追う先は、あの俺の手燭を消した者だ。投げつけ、暴れていた者だ。そいつは俺がずらかろうとしているのにも気付かず、逃げ惑っていた。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:42:04
不可村 @nowhere_7

手の揺らめき、まるで焔の先の如し。気味が悪かったが、それこそ長居はいけない。 屹度、寝る前に言われた「消してはいけない」というのは彼らの掟だったのだろうね。言った本人が消してしまった理由は何なのか、それは与り知らぬがな。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:44:55
不可村 @nowhere_7

本人に訊かなければ、わからぬことも多かろう。ただでさえ問われたもの自身が自覚していないことだって大半なのだ。人間などそういうものではないかね。 さて俺は混乱に乗じ、隙を縫って表のほうへ走った。そこでまた、変化が起きた。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:47:30
不可村 @nowhere_7

大勢でひとりを追いかけまわしていた者たちが一斉に呻き始めたのだ。最初はなだれのように――次第に地響きになり――、呻きは声になった。声はこう言っていた。 「消してはならぬ、消してはならぬ」、と、こう、繰り返し繰り返し。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:49:39
不可村 @nowhere_7

その呻きを俺が聞き取ったあたりで、小路をうろついていた者どもが一斉に発火したのだよ。 丁度ひとりひとりが先ほどの蝋燭の芯だ。炎は見上げるうちに巨大な山となり、社を呑みこみ、屋台の小路まで押し寄せてきた。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:52:10
不可村 @nowhere_7

誰かこの火を消してくれないか。 口と鼻を羽織で覆い、しゃがみつつ這うように炎の小路に追われた俺はそう思った。併しここまで膨れ上がった炎を消すのは容易いことではない。大雨でも降ってくれれば、 ――そう思ったところで、雨だ。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:54:46
不可村 @nowhere_7

小路やあの者たちの正体もその頃にはどうでもよくなっていたね。何を言っても人間自分の命が肝心、一番大事なものだ、はて、それは俺だけか。 それはそれだな。やっとのことで小路を抜けた俺は、咳き込みつつ表通りで自分の体を払った。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:57:08
不可村 @nowhere_7

……ところでお主、何も言わんがこちらでよいのかね。 ――表で自分の着物を払った俺は、狐につままれた顔をしていたろうよ。確かに体は濡れていた。燃えていなかったのが奇跡のようだ。だが、表通りのほうは雨など降っていなかった。 #赤風車奇譚

2015-08-22 23:59:43
不可村 @nowhere_7

何で濡れていたかというと、ここまで言えばまあお主は分かるだろうな、 ――あぶらだよ。 なんともべとつくあぶらだったな。これはまた着物を替えねば、と俺は頭の隅で冷静に考えていたが、はて、あれはなんのあぶらだったのだろうね。 #赤風車奇譚

2015-08-23 00:02:06
不可村 @nowhere_7

それは消えるはずもあるまい。あぶらの雨が炎の山に降っていたのだ。あれ以来、小路は燃え続けているのだろうよ―― 時にお主、何故そう顔色を蒼くしているのだ。俺はただ、みちを気紛れに曲がっただけだがね――何か見えるか。 #赤風車奇譚

2015-08-23 00:04:14
不可村 @nowhere_7

そう怯えることもないだろう。 ここはお主が俺に手燭を渡した小路だろうが。お主の庭のようなものの筈だ、何を恐れることがある? 俺は残念ながらお主の事情になどこれっぽっちも興味がないが、これ以上の災難は御免だからな、併し―― #赤風車奇譚

2015-08-23 00:06:53
不可村 @nowhere_7

すまないが俺には何も見えないよ。ここにはただの小路しかない。 今のお主に何が見えているとしても――火の山のような人々であれ、今までしぼりとった旅人のあぶらあめであれ―― すべてはお主の起こしたことだ。 #赤風車奇譚

2015-08-23 00:09:02
不可村 @nowhere_7

……さて、火事に洪水、夏は台風、暑気あたり、とな。 気をつけねばならぬことは旅人でなくとも仰山あるぞ。この惨状を横で聞いているお主らも、明日は我が身と思い精々気を付けたまえよ。俺の話の所為で何か起きても寝覚めが悪い。 #赤風車奇譚

2015-08-23 00:12:33
不可村 @nowhere_7

冬は火が恐ろしいというが、夏の火も恐ろしいのだ。ゆめ忘れることのないよう、今宵は涼しく過ごされよ。 俺もそろそろ戻って寝るとしよう。 ……ああ、手燭には、十分に気を付けてな。 #赤風車奇譚

2015-08-23 00:17:17

                      全二夜

前へ 1 ・・ 4 5