フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ #3

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビッグユージは唇を湿した。イチロー・モリタは今や括目し、瞬きせずにビッグユージを凝視している。ビッグユージは失禁をこらえつつ、小さく頷く。「……その筋では有名な方……」「去年のレース」デッドムーンは低く言った。イチローが眉間に皺寄せた。ユージは付け足した。「参加していました」23

2015-09-06 00:37:07
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「成る程。そりゃ僥倖だ……」デッドムーンは言った。「勿論カネもほしいが、そっちの件も大事でね……無駄足にならずに済んだわけだ。ネットに流出していた参加者記録にも、婆さんの名前は見当たらなかったんでな……」「……」ビッグユージは脂汗を拭う。「なにか、個人的なご関係でも?」 24

2015-09-06 00:42:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「日頃から連絡を取り合う仲でもなかったんで、婆さんがいつ、どこで、何をしていたか、把握しちゃいなかった。あたりをつけるのも難儀したもんさ」デッドムーンは質問に答えず、続けた。「まあしかし、これで明らかになったわけだ。少なくとも去年この場所に婆さんは居た。それ以降はわからない」25

2015-09-06 00:46:20
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「俺は……ハシリ・モノは悪くない」ビッグユージは絞り出すように言った。オイランは目を伏せ、粛々と、デッドムーンの肩に当てた肘をスイングした。豊満なバストを背中に押し付けながら。「何かあったのだな」イチローが言った。ユージは唾を飲む。「ハシリ・モノは勝負。自己責任での参加だ」26

2015-09-06 00:50:08
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「そりゃそうさ……」デッドムーンは同意する。「別にアンタを責めちゃいないぜ。死んだのか?」「いや……つまり彼女は、説明するにも……」「だよな、死んだならそれだけの話……何があった?」「くだらん話をしているな」「アイエエ!」カメラマンをグイとどかしてエントリーしてきた男あり! 27

2015-09-06 00:55:14
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男と視線がかち合うや否や、イチローはアグラ姿勢のまま1フィート宙に跳ね、直立姿勢を取った。男は流れるような金髪の持ち主。エクステンションめいて何本ものLANケーブルが髪の中から覗く。「サンライザー=サン」ビッグユージが呻いた。「お前」「フン。教えてやろうデッドムーン=サン」28

2015-09-06 00:58:20
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デッドムーンは無言で促した。サンライザーは湯上がり。蒸気を纏い、堂々たる裸身である。「ゲバタは老いぼれの負け犬だ。名誉あるハシリ・モノの戦場からケツをまくって逃げ散らかした。それだけだ」「逃げた?」「貴様、武装霊柩車のしみったれたコミュニティから尻拭いにやって来たわけか」29

2015-09-06 01:03:11
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「弁が立つ男だ」デッドムーンは肩をすくめた。そしてオイランに指示した。「肩甲骨のあたりをもう少し強くできるか……」「ハイヨロコンデー」「挑発に乗る気概も無しか?」サンライザーは口の端を歪めて笑った。「霊柩車乗りは腰抜けの集まりと覚えておこう」「レースから逃げ、記録を抹消か?」30

2015-09-06 01:09:22
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口を挟んだのはイチローである。サンライザーは凝視を真っ向受けた。「貴様……成る程」彼は合点して含み笑いをする。「オイ」ビッグユージはサンライザーに目配せした。「ハッ!」サンライザーは踵を返す。去りゆく姿に付き人が追いすがり、ガウンを着せた。サンライザーの笑い声が遠ざかった。31

2015-09-06 01:17:23
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「ゲバタがレースに参加していたというのは本当だ」ビッグユージがあらためて説明した。「彼女はレースの最中に姿をくらませた。出場選手の把握ができていない事実は、レースの信用にかかわりかねない。死ぬのは構わんがコントロールできていないというのは。そこで、まあ、取り繕ったわけだ……」32

2015-09-06 01:22:09
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「ありがとよ」デッドムーンは言った。マッサ―ジを終えたオイランに言ったのか、ビッグユージに言ったのかは不明だ。「どこまで本当かは後で検討するさ。カメラ戻していいぜ……」「あ、ああ」ビッグユージがカメラマンに指示しようとしたその時、憤怒の形相でエントリーしたのはホット・チック!33

2015-09-06 01:27:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「聴こえたよ武装霊柩車」ホット・チックはデッドムーンに詰め寄った。「ナメた動機で走ッてんじゃない、え?」美しい顔が想像以上の憤怒で歪んだ。「レースを侮辱するってのは、アタシを侮辱するって事でもある。アタシはアンタごときには当然勝つ。だけど、勝負する気が無いなら棄権しろ!」 34

2015-09-06 01:29:42
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「こいつはまあ……入れかわり立ちかわりだぜ、旦那」デッドムーンはイチローを見た。しかしイチローは再びアグラ姿勢に戻り、メディテーションを再開した。ホット・チックはデッドムーンに食ってかかる。「何が人捜しだ!」「勝つ気はあるさ、矜持じゃ腹は膨れない……」「ザッケンナコラー!」35

2015-09-06 01:33:23
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拳を振り上げたホット・チックを、追ってきたサンダリイ・ライラが掴んで止めた。「よしなよ、チェリーベイブ!ハンドル握れなくなったら損だ」彼女は一同を見渡し、「ごめんなさいね、負けん気が強くってね!」「勝負に勝たなきゃ意味が無いンだ!」「ごめんなさいねえ!」引きずるように退出! 36

2015-09-06 01:36:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「と……とにかくそういうわけだ」ビッグユージは一息つき、中継を再開させた。「ドーモ、皆さん楽しんでるか!貴重なプライベート・トークに付き合っちまった。アンタ達にも、そのうちちょっとずつ情報開示できるかもな!だけどひとまず、夜通しのスタジアム・エキジビションを楽しんでくれよ!」37

2015-09-06 01:39:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユージはオジギを残し、スタッフと共にその場を去った。「忙しい夜だ」デッドムーンは息を吐いた。「明日のレース、どうする」不意にニンジャスレイヤーは尋ねた。「ああ」デッドムーンはあいまいな返事をした後、言い直した。「……いや、走るさ」「……」ニンジャスレイヤーは無言で頷いた。38

2015-09-06 01:45:26
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユージはオジギを残し、スタッフと共にその場を去った。「忙しい夜だ」デッドムーンは息を吐いた。「明日のレース、どうする」不意にニンジャスレイヤーは尋ねた。「ああ」デッドムーンはあいまいな返事をした後、言い直した。「……いや、走るさ」「……」ニンジャスレイヤーは無言で頷いた。38

2015-09-06 22:25:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二日目はフジサンの麓まで走破する長距離レースだ。スタートダッシュにいたずらにパワーを使ったところで、さしたる意味はない。スタート直後の競り合いも初日と比べれば穏やかなもので、キリング・マキの褒賞に煽られた下位レーサーの「ベストヒット・ガイ」が爆発して死んだだけだった。40

2015-09-06 22:30:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

電子戦争以前、無限の夢に溢れていた時代、この広大な湿地帯もおそらく江戸時代の城郭や巨大な県庁、複合施設を備えた都市のひとつであった事だろう。今や名残として残るのは、枝分かれを繰り返すひび割れた道路ばかりである。レース車両は思い思いのルートをナビの判断のもと選択し、散ってゆく。41

2015-09-06 22:39:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それら参加車両群の様子を誰よりも詳しく把握するのはおそらく上空を飛行する金箔コーティングのヘリコプターであろう。中に乗り込んでいるのはレース株主兼司会者のビッグユージその人だ。「さあて、オイラン遊びに明け暮れちまったお友達もそろそろ朝食バイキングを終えて観戦を始めた頃合いか」42

2015-09-06 22:43:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ビッグユージはカメラに顔を近づけた。「今日この俺はごらんのとおり空の上からお届け!命を張った司会者だぜ!なにしろ誰がこのヘリコプターめがけロケットランチャーをぶっ放すかわかったもんじゃない。レースマスターの皆さん、そういう褒賞はビッグユージ権限でキャンセルさせて頂きますよ!」43

2015-09-06 22:45:46
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユージは大仰なタクティカル・ゴーグルを見せびらかし、ヘリの窓から危険なほどに身を乗り出して下界の様子を覗いてみせる。「今日は長距離だ。イキがって前に出たら絶対に後半息切れする。とはいえ、やっちまう奴はいるんだ。本能ッてやつかも!だが残念ながら人間は理性を獲得した生き物だ」44

2015-09-06 22:52:26