「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 #2

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

バリキドリンク、ザゼンドリンク、コブラ8、タノシイドリンク……様々なドリンク剤が並んでいる。ヨロシサン製薬の滋養強壮ドリンク剤には麻薬様成分が含まれておりオーバードーズは危険だが、1日1本ならば何も問題はない。「ではザゼンで」とフジキド。「奇遇ですね、私もザゼンだ」とスガワラノ。

2011-01-07 23:01:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ストローでザゼンドリンクを吸い上げながら、フジキドは先程から気になっていた事を、横に座っている老人に尋ねた「怖くないのですか? ニンジャが隣に座っているというのに」。老人は静かに答える「この歳になると、大概の事では驚かなくなるものです。それに、悪い人ではないと解っていましたから」

2011-01-07 23:11:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

日本においてニンジャは神話的存在であり、その恐怖は日本人の遺伝子レベルに刻み込まれている。市民の間では、ニンジャは吸血鬼と同じくフィクションの産物だ。万一、ニンジャに遭遇したら……それはほとんどの場合、死を意味する。それは本物のニンジャか、或いはニンジャの格好をした狂人だからだ。

2011-01-07 23:16:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そんなニンジャが隣にいるというのに、スガワラノ老人は嫌な顔一つしない。この温かみが、家族を失い、師匠ドラゴン・ゲンドーソーを失い、殺人の上に殺人を重ねて凍りつき始めていたフジキドの心臓を大いに癒したであろう事は、疑いようがなかった。センセイは至る所に居るのだ、とフジキドは思った。

2011-01-07 23:21:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「見てください、私の家族です」とスガワラノは胸ポケットから携帯IRC端末を取り出す。写真データが選ばれ、数十年前の日付の色褪せない画像が映し出された。スガワラノ・トミヒデと妻、そしてまだ幼い男の子が写っている。「この頃が一番幸せだった。妻はすぐ他界し、息子は家を飛び出しました」

2011-01-07 23:25:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ではもう息子さんとは連絡も取っていない?」「いえいえ、話すと長くなるのですが……実のところ、息子はセンタ試験に失敗してから、キョート・リパブリックに行くといって家を飛び出し、数年間音信不通でした。でもその後、キョートのムラサキシキブ化粧品で働いているという電話がありまして」

2011-01-07 23:29:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ムラサキシキブ化粧品といえば、カチグミではないですか」「ええ、そうらしいですね。それ以来、時折お金が私の口座に振り込まれているんです」「できた息子さんだ」「本当はね、お金よりも……一緒に暮らしたいと思ったこともあるんですが、それが仕事の邪魔になってはいけないと思い、諦めました」

2011-01-07 23:33:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その後彼らは、しばし当たり障りの無い世間話をした。外を見ると、ネオサイタマの空はもう、いつもの黒雲で覆われていた。ニンジャスレイヤーは休憩室の時計を見ながら、最後に一つ、こう質問する。「何故あなたは、こうも穏やかで、殺気の欠片もないのか? もしや、チャドーを実践しているのでは?」

2011-01-07 23:44:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハッハッハ、私にはチャドーなんていう高尚な趣味はありません。茶壷一つ持ってないですよ」老人は屈託無く笑った。太古の暗殺術チャドーは江戸時代に禁止され、そのメンタルトレーニングであるザゼンとオチャの要素だけが残った。スガワラノ老人が言っているのは、こちらの一般的なチャドーの事だ。

2011-01-07 23:47:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうですか、自分の思い違いでした……。さて、スガワラノ=サン、今度こそお別れです」ニンジャスレイヤーは立ち上がって別れのオジギをする。他の清掃員が来るという時間まではまだまだあるが、油断はならないからだ。「ニンジャスレイヤー=サン、いつもこの時間に屋上にいるのですか?」と老人。

2011-01-07 23:52:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

実際、スガワラノ=サンとの会話は心温まるものだった。それに、この老人からは学ぶべき点が多そうだ。だが、慈悲無き殺戮者である自分が、このような安寧に浸ってもいいのか? 何か良からぬインガオホーが起こるのでは? そうだ、フジキドよ、答えは一つだ。 「……いいえ。ではオタッシャデー!」

2011-01-08 00:03:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オタッシャデー」と老人がオジギを返し、顔を上げると、もうニンジャスレイヤーの姿はどこにもなかった。窓の外では、陰鬱な重金属酸性雨がしとしとと降り始めていた。

2011-01-08 00:05:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

次の日、午前6時。マルノウチ・スゴイタカイ・ビル屋上にて。

2011-01-08 00:11:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

黒いレインコートを着たスガワラノ老人は、いつもより2時間早く屋上に姿を現した。彼は、タイフーンが過ぎ去った後にここから素晴らしい青空が臨めることを知っていたから、昨日は午前6時にここに来たのだが、今日は違う。今日、彼が午前6時にここに来たのは、ニンジャスレイヤーに会うためだった。

2011-01-08 00:15:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

おそらく彼は、キョートに居るという息子とニンジャスレイヤーを重ね合わせていたのだろう。ゆえに、彼は今日もニンジャスレイヤーに会えるのではないかという淡い期待を抱いて、ここに姿を現したのだ。だがどれだけ探してみても、屋上には鴉たちしかいない。昨日ニンジャを見たのが、夢のようだった。

2011-01-08 00:19:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「やはり、ニンジャスレイヤー=サンは居ないか…」と、老人は溜め息混じりに呟く。 「……ニンジャスレイヤー=サンだと?」おお、ナムアミダブツ! 何たる理不尽! 数十メートル離れた上空に、偶然にもその声を聞きつけた者がいたのだ! ソウカイ・シックスゲイツの斥候、ヘルカイトである!

2011-01-08 00:26:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

巨大な凧を操るニンジャは、獲物を狙うイーグルのごとく急降下をくり出す!「イヤーッ!」「アイエーエエエエ!」おお、ナムサン! 老人の体がニンジャロープで吊り上げられる! 異変を感じて鴉たちが喚いた。悲鳴が遠くなった。持ち主を失った竹ぼうきが、燃え尽きたセンコのようにぱたりと倒れた。

2011-01-08 00:40:34