フォロウ・ザ・コールド・ヒート・シマーズ #5

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オイ……」サンライザーは遮ろうとするユージを睨んで黙らせた。そして続けた。「レースの運営はゲバタに先回りした。そして、迂回ガイド標識をねつ造した。フジサンの火砕流により全面通行不可、こちらのルートを使用せよ、とな……ゲバタは<枯れ野>に迷い込み、消えた。地獄に厄介払いだ!」21

2015-09-27 00:33:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

デッドムーンはカキノタネの手を止めた。「……なぜそんな真似を」「よせ、サンライザー=サン!」「俺以外の者が勝たれては困るからだ。優勝賞金は所詮、見せ金。俺はハシリ・モノの兵隊。優先的に試作パーツの供給を受け、提供企業にテスト機会を与え、レースでは他者を圧倒。親の総取りとする」22

2015-09-27 00:36:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「い、いい加減にしろ!」ビッグユージが懐からマグナム銃を引き抜き、サンライザーのこめかみに向けた。「黙れ、サンライザー=サン!許さんぞ」「許す許さぬを決めるのは俺だ、ユージ。勝負を汚した豚はただ土下座し俺の情けを請え」「ククーッ……」ユージのマグナム持つ手が震え、下りた。 23

2015-09-27 00:41:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アンタらの確執は知った事じゃないが、よくまあ、そこまで俺に話した……」デッドムーンは言った。「続けな」「<枯れ野>について、どこまで知っている?デッドムーン=サン」「なにも」彼は首を振った。「婆さんがそこに消えたッてのは間違いが無いようだがな。何しろ、走ってやがったから」24

2015-09-27 00:50:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「走っていただと?」サンライザーは眉根を寄せた。「ゲバタがか」「少なくとも、婆さんのクルマはな」とデッドムーン。「イチロー=サンは、それを確かめに行った」「あのニンジャは何を知っている」「さあな。俺よりは詳しいだろ……あの手のおかしなジツと、よくやりあってる。俺は知らんさ」25

2015-09-27 00:56:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サンライザーはビッグユージを睨んだ。「何か付け加える事はあるか。この俺に隠し通してきた事は」デッドムーンへの情報開示は、この哀れな大会主催者に対する言外の圧力だ。「信じてくれ」ユージは震え声で釈明した。「俺も被害者なんだ。あ……あんな自然現象、あるわけない。あっちゃいけない」26

2015-09-27 01:02:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「レースの規定コースがいきなり<枯れ野>に呑まれちまった。入った奴は、出られない。業者も、調査人も、帰ってこなかった。すげえカネをかけたッてのに……俺達はコースの変更を余儀なくされちまったんだ。もしレース中の衆人環視下でそんな事が明るみに出たらパニックだからな」27

2015-09-27 01:09:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「<枯れ野>を避けてコースを作り直した?」「そうだ!だから、通常の既定のコース範囲内でそんな……ありえねえんだ。いいか、その……ゲバタ=サンにはかわいそうな事をした……なあ、俺からも謝るさ……だけど、彼女が消えたのは、そっちに向かったからであってよォ。何で今年はコース内に?」28

2015-09-27 01:11:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺に訊くなよ」デッドムーンは首を振った。「ま、俺のほうは、<枯れ野>に接触できたおかげで実りある旅になったさ。俺達やホット・チックは深追いはしなかった。ゲバタの婆さんにしろ、イチロー=サンにしろ、アンタらの雇った連中にしろ、<枯れ野>に深く入って行った奴らは、消えた」29

2015-09-27 01:18:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「戻らんのだぞ、お前のクルーも」サンライザーはデッドムーンの平静が気に入らなかった。デッドムーンはやや間をおいて答えた。「3日目は来た道を逆戻りだ。その時、俺は件の場所をもう一度走る。そうすりゃ何かわかるさ……あとは色々考えたところで、時間の無駄だ」 30

2015-09-27 01:20:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴーン……ゴーン……陰気な灰色の空、濃い影、転がる藁束、そしていかにも気味の悪い鐘の音はどこから聞こえてくるものか。彩度の低い、寒々とした土地だった。ニンジャスレイヤーは打ちひしがれた男の横に座り、男が焚火の跡の灰を手すさびにかき混ぜるのを、辛抱強く眺めていた。 32

2015-09-27 22:44:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それで。なんだっけ」男は生気に乏しい目でニンジャスレイヤーを見た。ニンジャスレイヤーは答えようとしたが、男は一人合点して頷いた。「ああ……俺は現地調査の為に、ここへ来た」「そこまでは、既に聞いた」「ああ……そうだっけ?」男の目が曇った。「よくわからないんだ。ここにいると」33

2015-09-27 22:46:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何の調査だ」「そりゃあ……安全の確認だよ。レースをしなきゃいけないんだから。ええと……つまりさあ、何だっけ」男は灰をかき混ぜる。ニンジャスレイヤーは尋ねた。「いつからここにいる?」「いつ?」男は顔を上げた。「いつ……か。ぼんやりしてしまうんだよな。俺は現地調査の為に……」34

2015-09-27 22:48:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「邪魔をしたな」ニンジャスレイヤーは会話を切り上げ、立ち上がった。「いや、いいさ」男は呟き、灰をかき混ぜる作業に戻った。ゴーン……ゴーン……。不吉な鐘の音は絶えず鳴り続けている。吹き付ける風は異様な冷たさだ。ニンジャスレイヤーはヒースがまばらに生える荒野を歩いた。 35

2015-09-27 22:53:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

この世界は異様だ。空には太陽も何もない。遠くに見える薄ぼんやりした山はフジサンなのだろうか?ニンジャスレイヤーは歩き続ける。あてもなくさ迷っているわけではなかった。彼は定まった方角に確かなニンジャソウルの実在を感じていた。それがいわばこの薄暗い航路における北極星であった。36

2015-09-27 22:56:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おや。また旅の人かね」コメ畑で鍬をふるっていた男がニンジャスレイヤーを振り返った。「珍しいね。この村に」「また?」「おや。さっきの人たちと、違うのか」「どんな人々ですか」ニンジャスレイヤーは尋ねた。男は顔をしかめ、記憶を手繰っているようだった。「いや……調査がどうとか」37

2015-09-27 23:00:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴーン……ゴーン……「レースの件ですか」「レース?ああ、そうだ」男は不愉快そうな表情になった。「奴ら、そうだった!思い出したぞ。レースの下調べだとか……全くふざけた話ですよ。ワシらはこの村で生まれ育ち、死ぬんだ。生涯この村でね。立ち退きませんよ、レースのコースなんかのために」38

2015-09-27 23:04:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「村の名前は?」ニンジャスレイヤーは尋ねた。ハシリ・モノに参加するにあたり、レースコース周辺の土地の情報は事前にある程度調べてある。このような村の存在は覚えがないが……。「名前……俺たちの村の名前ね。あれ?いや、思い出せますよ、どうも最近いけないね……あなた珍しいですよ」 39

2015-09-27 23:06:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「珍しい?」「そうだよ。今日は旅の人が良く来る。あんたも調査がどうとか言ってるクチですかな?」「いや」「違うのかね?そうだ、思い出した。レースの下調べだとか」「そうですか。この先にはあなたの村が?」「ああ、村か。そうそう、このまま坂を上って行きなさい。よい村だ。立ち退かんぞ」40

2015-09-27 23:10:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「オタッシャデー」ニンジャスレイヤーは会話を切り上げ、坂を上がる。無人のコメ畑。しだれ柳。寒々しい光景である。「オン!」犬小屋につながれた犬が吠え、尻尾を振った。「かわいいなあ、犬が」道を挟んだ向かいに男が立ち、にこにこ笑っている。その身なりは焚火の男に似ていた。「ドーモ」41

2015-09-27 23:14:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ。貴方も外から?」「ええ」ニンジャスレイヤーは頷いた。「そちらは……やはりハシリ・モノ関係の方ですか。土地の調査の」「お詳しいですね。そんなところですよ」男は頷いた。「ちょっとした調べものでして」「そうですか」ニンジャスレイヤーのニンジャ洞察力は、はぐらかしに気づく。42

2015-09-27 23:16:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何の調査ですか?さきのレースの一件では?」ニンジャスレイヤーはかまをかけた。男は落ち着かなげに見返した。「何です?あなた、関係者じゃないですよね……」「主催者側ではなく、出場者の関係者です」ニンジャスレイヤーは単刀直入にやってみた。「ゲバタ=サンの」「エッ!」男は狼狽えた。43

2015-09-27 23:21:13