黄昏町(柊)エピローグ

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@hiiragi_r_t_d

【黄昏町(柊) エピローグ】 #hollytk

2015-10-06 21:19:20
@hiiragi_r_t_d

「ああ、面倒ですね」 あれから一週間。私は自室で諸用を片付けていた。 二ヶ月の間に溜まっていた案件の処理に、不在の間のノーティスの確認。ある程度までは扇の判断に任せているが、どうしても私自身が処理しなければならないものは出てくるのだ。 01 #hollytk

2015-10-06 21:20:30
@hiiragi_r_t_d

『御主人様、まもなく三時です』 卓上のPCからいつもの声が流れる。この声の主こそ扇。私がカササギ社から引き抜いた……もとい、融資の見返りとして受け取ったAl執事である。彼女は完全にスタンドアロンで稼働していて、我が家のセキュリティと私の執事をこなしている。 02 #hollytk

2015-10-06 21:22:16
@hiiragi_r_t_d

私は書類を脇に寄せ、ゴキゴキと肩を鳴らす。 「もうそんな時間か。一旦休憩だな」 二ヶ月も机を離れていたせいで、すぐに肩が凝るようになってしまった。いや、凝りに気付けるようになった、という事だろうか? 「お茶にしよう。巳穂は?」 03 #hollytk

2015-10-06 21:24:33
@hiiragi_r_t_d

『巳穂様は離れの縁側にいらっしゃいます。お呼びしましょうか?』 「いや、どうせだから私が行くよ」 私は書類を積み上げて、部屋を出ていった。 04 #hollytk

2015-10-06 21:26:10
@hiiragi_r_t_d

私の家は母屋だけが洋風に改装されている。これは火事で母屋が焼け落ちたからなのだが、巳穂は何故か昔のままの離れにいる事が多い。 今日の巳穂は、離れの裏で植木を眺めていた。 「巳穂、お茶にしよう」 「あら、お仕事はいいのですか?」 「ちょっと休憩だ」 05 #hollytk

2015-10-06 21:28:11
@hiiragi_r_t_d

緑茶を淹れ、羊羹を切って縁側でゆっくり味わう。 「落ち着くねー」 「そうですわねー」 こうやってのんびり二人で茶を飲んでいると、まるであの町にいた事が嘘のようだ。 しかし嘘ではない。自室に山と積み上げられた書類と隣でくつろぐ巳穂が、それを証明してくれる。 06 #hollytk

2015-10-06 21:30:18
@hiiragi_r_t_d

ぼんやりとした心地よい沈黙の中、不意に巳穂が口を開く。 「あの町の正体は何だったと思いますか?」 私は羊羹の最後の一欠片を口に運びながら答える。 「うーん、多分津波が関係してるとは思うんだよね。津波で沈んだ町と住民が、まるごとどこかへ飛ばされて……」 07 #hollytk

2015-10-06 21:32:35
@hiiragi_r_t_d

「私は、あの町は『願い』だったと思うのです」 「願い?」 「自分の生まれ育った町に滅びて欲しくない……そういう願いが、あの町には込められていた。出てから振り返ってみると、そう思えるのです」 「ふうん、願い、ねえ」 「貴方様は、あの町をどう感じましたか?」 08 #hollytk

2015-10-06 21:34:40
@hiiragi_r_t_d

私はぼんやりと町での出来事を思い出す。 「この世とあの世の間、かな。……向こうで何回か、ユキの幽霊に会ったんだ。夢や幻だったけれど、確かにあれは本物のユキだった」 私が勝手に見た幻だったなら、もっと昔の彼女らしい振る舞いをするだろう。 09 #hollytk

2015-10-06 21:36:06
@hiiragi_r_t_d

「結局のところ、真実は闇の中だ……いくら金があってもこればっかりはどうしようもない」 「知らない方が良いこともきっとありますわ。それよりこれからの事を話しましょう?」 そういうと巳穂は空になった湯呑みを脇へ置いて、私にしなだれかかる。 10 #hollytk

2015-10-06 21:38:11
@hiiragi_r_t_d

私は彼女の絹糸のような髪に手を乗せ、軽く撫でる。ずっと日向ぼっこをしていた彼女の髪は暖かくて、ふわふわしている。 「貴方様、お仕事はもうしばらくかかりそうなのかしら?」 「とりあえず今週はずっとこんな感じだね。……すまない。巳穂は退屈してるんじゃないか?」 11 #hollytk

2015-10-06 21:40:15
@hiiragi_r_t_d

「今の所は大丈夫ですわ。何しろ十二年ぶりですもの。暇潰しには事足りません」 この家の中には十二年前、まだ無かった物も多い。ちょっとした浦島太郎気分だろう。 「そうか……なら、良かった。今週中には片付けられるように努力するよ。その後はどうしたい?」 12 #hollytk

2015-10-06 21:42:09
@hiiragi_r_t_d

巳穂はぎゅっと私に抱きついて、耳元で囁く。 「しばらくは、こうやって貴方様と一緒にゆっくりしていたいですわ」 「巳穂がそうしたいのなら。あと」 「何でしょう?」 「その貴方様っていうの、やめないか。同年代なんだから、私が巳穂を呼び捨てにするみたいにさ」 13 #hollytk

2015-10-06 21:44:16
@hiiragi_r_t_d

巳穂の顔が赤くなる。 「は、恥ずかしいですわ。そんな、いきなり」 「まあまあ、そう言わずに」 「じゃ、じゃあ、……い、イチジク」 耳まで真っ赤になりながらもどうにか私の事を名前で呼んでくれた巳穂を、私は強く抱き締める。 「よくできました。よしよし」 14 #hollytk

2015-10-06 21:46:15
@hiiragi_r_t_d

「もう……イ、イチジクは意地悪ですわ。いきなりこんな事言い出して……」 「でも私は、巳穂に名前で呼んで貰えて嬉しいよ」 巳穂の顔が更に赤くなる。私の首元に顔を埋めてしまった彼女の、絹のようなうなじまでもが紅潮している。 「ばか」 「お互い様だよ」 15 #hollytk

2015-10-06 21:48:29
@hiiragi_r_t_d

いつもよりも少し体の熱い巳穂と、私は日が暮れるまでずっとそうしていた。 彼女の温もりが、言いようもなく幸せだった。 16 #hollytk

2015-10-06 21:50:29