空想の街・ハンツピィ'15 最終日 #赤風車

#空想の街 ( http://www4.atwiki.jp/fancytwon/ )ハンツピィの宴最終日(15/10/26) #赤風車 纏め。 過去本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。 公式様参加者様、お疲れ様でした。有難うございました。何か御座いましたらご一報頂けると幸いです。
1

目覚めはいつも

不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

酷く――ひどくなつかしい夢をみた。 いつものことではあるのだが、寝ている間もかけたままの伊達眼鏡をずらしながら一文字は廃屋の壁に上半身のみを起こし、凭れている。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 13:40:09
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

一昨日の姿見といい実による変化といい、商売をして世話になった面々にも会えたというのにこれでは台無しだ。或る意味ではこれもまたひとつの宴か、とも思ったが、それにしてはたちが悪い。この街が悪いのではなく己が―― 恐らく水が合わないのだ。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 13:41:33
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

一年も居続けておいて、更又こちらから持ち掛けた友人もいるというのに、それでも長くは住めない、そう思ってしまうのは生来の根無し草気質の所為であろうか。 一文字は昨晩、飴売りの青年から贈られた琥珀の鳥を見つめた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 13:47:10
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

花式図の如く入り組んだ街で、この三日間また出会った人々は誰も彼も、新しい顔をしていた。馴染みの者にも再会したが一文字の色素の薄い目にはそう映った。 己は何か変ったろうか、客に声をかけられるほどには纏う空気が和らいだのやも知れぬが、 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 13:52:37
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

結局のところ、去年徒華に偉そうに事実を突きつけたあの頃と何も変わっていないのではないか。 反対に何も言えず、言わずに千草と共にいた期間とも、細胞すら入れ替わっていないのではないか。 ――僅かに隙間の開いた戸から流れ込む秋の空気に、すん、と鼻を鳴らす。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 13:54:39
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

ともだちになってくれ、 そんな言葉をかけられても、嬉しいだの嫌悪ではない、ただ戸惑う。孔雀荘の少年にはそこまで昨夜気づかれなかったようだが、まさか一年前街商の男性に己がかけたものを今度は己がかけられるとは思ってもみなかった、そんな日はもう永遠に来ないのだと。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 13:57:25
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

食堂ですれ違った、親子のようにも見える三人組、どこか覚束なく話す飴渡りの少年、そして生まれついての優しさが染み出す手をもって仕事をする街商の男性、飴売りの青年、――己と深い関係があろうとなかろうとどうしても、この腐りきった心は彼らから今を読み取れないらしい。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:01:13
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

宿の少年と別れて、己はいつからあんなに饒舌になったのかずっと考えていた。少なくとも少年期はそうではなかった、そもそも一人で放浪していたからであり、話し相手など客か己を囲う者か、たまに泊まる宿の主人くらいしかいなかったのだ。それでも最低限しか交わさなかった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:04:52
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

名も碌に名乗ったことさえなかった、そんな己が何故ここまでよく回る舌を隠さぬようになったのか、 ふと焦点の合わない視界に黒く長いものがよぎる。そうか、あの町で出会ったあれのせいか、と薄く笑いつつ、それに手を振った。あれはもういいのだ、離したことは正解だった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:08:58
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

向こうはこちらを、何でも言い合える気の置けない相手だとみていたようだが、こちらは何も明かしていない。精々出合い頭のあの一言くらいだろうと思う、が、それでも己がここまで話す人間だとは己自身でも知らなかった。 出身や過去を話さずとも、己もまた心を許していたとは。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:12:38
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

琥珀色の飴を回し考える。あの飴売りの青年の、そして己の髪のような色だ。瞳が緑なのが幸いだった、暗闇で笑顔を向けられると一文字にはもうどれが彼で己なのか判別がつかない。 街商の働く手に己も近づけているだろうか、本当に働く、ということに、一文字は拘る。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:18:20
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

一文字は徐にそこで立ち上がり、襤褸の畳を踏みしめ流しへ向かった。 小さな器で小魚が泳いでいる――筈だった、昨夜寝つく前はそうだった。川から数匹掬い、そのまま入れておいたのだ。 薄赤くなった水の中で、魚は全て腹を見せて浮かんでいた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:21:14
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

これでも随分薄くなった。できれば無論、こんな無駄な殺生はしたくないのだ、一文字は夕べ寝る前に刺し直した左腕を櫨染の着物の上から押さえる。 たった一滴だった、それでもまだこんなことになる。一文字は瞑目し、魚を申し訳程度の庭に埋めてやった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:24:05
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

廃屋へ戻った一文字は一本歯下駄を隅に置き、また座り込んで壁のほうへと寄りかかる。祭りはもう終わったのだ、今日は休みだ。 休もう、そう決めて、眼鏡をしたままで樺色の羽織を引っ被り、また瞼をおろす。 #赤風車 #空想の街

2015-10-26 14:27:07

おちばさま

不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 ――初めの記憶を思い出すことは容易かった。 目を閉じた瞬間甦る、よもや産道ではあるまいが、視界は赤黒く染まる。誰かがどこかでまた産まれたのだ、己のように。誰かが己を見ている、生まれたばかりのこちらを見ている、己が己を見て指をさしている。 いつの記憶だろう、齢など忘れた。

2015-10-26 14:32:54
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 一つ、名から逃げぬこと。一つ、名から逃げぬこと、一つ、一つ、一つ、――訓示といったものなどは大抵その字から始まる。 併し己の知るものは全て内容が同じだった。一つ、名から逃げぬこと、それだけだ。それだけの言葉が山のように屋敷中の壁に書かれていた、あの風景を忘れていない。

2015-10-26 14:39:49
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 違和感を初めて覚えたのは、これはいつのことだろう。まだ随分と目線が低い頃だった筈だ。 己がしがみつくように抱えている筆を見て、書きづらい、と思った。紙を巻かれているのだが中身が何かは当時分からなかった。周囲にされるがまま白い衣を纏い、濁った赤の帯を前で結び、字を書いた。

2015-10-26 14:44:04
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 何も考えず、目の前に正座する誰かに言われた通りに、一、一、と只管書いていたのだ。そこで突然、全身で抱え込むように持っていた筆が真ん中から曲がった。折れたのではない、曲がったのだ。一の字がぶれ、無感情に筆である筈のそれを見上げた己に、正座した者が声をかける。

2015-10-26 14:50:02
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 ――おちばさま、どうなされました。さあ続きを。 曲がって書きづらいのだと訴えれば、ややして同じように白い衣の者たちが新しい筆を運んできた。広い座敷からまだ出たことがなかった己には、それがどこから来たのか知らなかったし、幼さ故に知ろうとも特に思わなかった。その時は、まだ。

2015-10-26 14:52:41
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 そこから出たいという意思さえなかった。言われるまま来る日も来る日も字を書き続け、出された膳のものを食べ、違和感など何も感じず赤い湯を浴びた。 奇妙だと先に思ったのは外のほうだ。厠から座敷に戻る際、生茂った垣根の向こうで聞き慣れぬ物音が響き、付添う者の目を盗んで外を見た。

2015-10-26 14:56:55
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

#赤風車 物音は声であるらしかった。屋敷の外の山道を、騒々しく誰かが通り抜けていく。見たことのない服装に見たことのない表情、声、そこで外はおかしいと思ったのだ。なんだあれは、と、悠然と追ってきた付添人に問う。 ――おちばさまがお気にかける程の価値もない物。我らの餌で御座います。

2015-10-26 15:00:15
1 ・・ 7 次へ