黄昏町(九板)十九日目

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@hiiragi_r_t_d

【十九日目】 【魂7/力4/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2)、牙(力+2)、鱗(水耐性、力+1) ?? #hollytk

2015-10-28 21:32:48
@hiiragi_r_t_d

[ハンドアウト]チャイム音に、君の意識は浮上する。西日に照らされたピアノが、低い地鳴りに弦を震わせる。《開始地点[学校]shindanmaker.com/541542#黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541552 #hollytk

2015-10-28 21:33:00
@hiiragi_r_t_d

キーンコーンカーンコーン、カーンカーンキーンコーン。 「……」 わたしは目を開ける。蛍光灯のない天井に、陽光が映し出されている。 ここは音楽室。大きなピアノが、夕陽を天井に反射している。 不意に地鳴りが響いてガラスがビリビリと震え、ピアノが低い音を立てた。 01 #hollytk

2015-10-28 21:33:12
@hiiragi_r_t_d

音楽室。つまりは学校。そして先程の地鳴りは、きっと竜のせいだ。 「……ツイてないですね」 竜に殺されるのは嫌だ。アイツに殺されても、異形は貰えないし。 わたしは、左腕を見る。指先から肩、背中と首までの広い範囲を、白い鱗が覆っていた。 02 #hollytk

2015-10-28 21:35:04
@hiiragi_r_t_d

「緋上とおそろいですねー、ふふふ」 彼女の鱗は黒で、右腕なのだけれど。 きっと彼女も、この町のどこかで頑張っているのだろう。 「さて、行きましょう」 わたしは立ち上がり、音楽室を後にした。 また地鳴りが響いて、ピアノが高い音を鳴らした。 03 #hollytk

2015-10-28 21:37:26
@hiiragi_r_t_d

わたしは階段を降りる。ローファーが階段を叩く音だけが、閑散とした校舎に響く。 窓の外には、隣の校舎。そちらにも、人影はない。 わたしの足音と、どこかにいるのであろう竜が起こす地鳴りだけが、存在を主張している。 わたしは一階まで、階段を降り切った。 04 #hollytk

2015-10-28 21:39:15
@hiiragi_r_t_d

目の前には、生徒玄関と思しき空間が広がっていた。いくつもの列に分かれて、おびただしい数の靴箱が整列している。 ふとわたしは、「四年生」と書かれた列に立ち入った。手前から一組、二組、三組と並んだ靴箱は、六組まであった。 一番奥、六組の靴箱をしげしげと眺める。 05 #hollytk

2015-10-28 21:41:11
@hiiragi_r_t_d

五十音順に並べられた靴箱を、硬い鱗で覆われた左手でなぞる。赤坂…天野… 「どこかで聞いたような名前ですね……?」 …菊池…北野…九板。「九板 真筆」と書かれた靴箱で、わたしの指が止まった。 「え……わた、し……?」 九板真筆。くいたまひつ。わたしの名前だ。 06 #hollytk

2015-10-28 21:43:15
@hiiragi_r_t_d

「わたし……わたし?」 九板真筆。「九板」は「わたし」だ。でもわたしの下の名前は「真筆」だっただろうか?そもそもこの名前、どう読むんだ?しんぴつ? わたしの名前は、何だ? わたしは額に手を当てる。吐きそうだ。角の欠片が鱗と擦れあって、耳障りな音を立てた。 07 #hollytk

2015-10-28 21:45:24
@hiiragi_r_t_d

胃液が喉まで上がってくる。わたしはしゃがみこみ、食道の焼ける感覚と込み上げる不快感を堪えた。 「ゲホッ、ゴホッ……わたしは」 九板家の長女。家族構成は両親と年の離れた兄が一人。父さんの名前が硯蔵で母さんは香墨。兄さんは孝紙。思い出せる。……わたしを除いて。 08 #hollytk

2015-10-28 21:47:58
@hiiragi_r_t_d

「……キッツい……ですね、これは……」 頭がぐらぐらする。自分の名前がない、というのがこれほど不安に思えるなんて、考えもしなかった。 わたしはよろよろと歩き出す。ここから離れよう。ここにある大量の名前が、名前のないわたしを責めているように思えてしまうから。 09 #hollytk

2015-10-28 21:49:19
@hiiragi_r_t_d

わたしは玄関のガラス戸を開き、外へ出る。赤く燃える夕陽は今にも沈みそうだ。 振り返ると、ガラスにわたしの姿が映っていた。額に開いたくろぐろとした眼。荒い息を吐く口から覗く、鋭い牙。左手から腕を覆い、首まで伸びる鱗。 「ア……アッ、ハ」 ふと、笑いが漏れる。 10 #hollytk

2015-10-28 21:51:29
@hiiragi_r_t_d

そうか。 わたしは「わたし」。それでいい。 わたしを区別し、定義するのは名前なんかじゃない。この力が、わたしなんだ。 「アッハハ、アッハハハハハ!」 わたしはとても晴れやかな気分になって、大声で笑った。竜に見つかるなどという懸念は欠片も思い浮かばなかった。 11 #hollytk

2015-10-28 21:53:27
@hiiragi_r_t_d

「アッハハハハハ!!アッハハハハ!!……下らない。名前なんて、人間としての名残でしかない。そうですよね」 わたしは誰かに問いかける。誰に?緋上?牙爵?額の眼をくれた、あの男? 夕陽が沈んで、わたしは糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。 12 #hollytk

2015-10-28 21:55:23
@hiiragi_r_t_d

──────── 【十九日目】 【生存】 【魂-1/名前の後ろ半分を喪失】 【魂6/力4/探索2】 【喪失】名前(後ろ半分) 【異形】三ツ目(力+1、探索+2)、牙(力+2)、鱗(水耐性、力+1) 13 #hollytk

2015-10-28 21:56:04
@hiiragi_r_t_d

[学校]君の名前の靴箱があった。だが、本当にこの名前だったか、君には確信が持てない。《名前の後ろ半分を失くす【魂-1】(既にない場合効果なし)、名前を全て忘れたor忘れている場合【魂-2】》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541542 #hollytk

2015-10-28 21:56:14