黄昏町(九板)二十五日目

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@hiiragi_r_t_d

【二十五日目】 【魂9/力4/探索2】 【喪失】名前(後ろ半分) 【異形】三ツ目(力+1、探索+2)、牙(力+2)、鱗(水耐性、力+1) #hollytk

2015-11-07 00:23:34
@hiiragi_r_t_d

わたしは、足早に歩いていた。いい匂いがしたからだ。 血の匂い。それも新鮮で健康な、異形を持たない人間の血。 「ええっと……こっちでしょうか」 風上へ、風上へ。匂いを辿って進む。 01 #hollytk

2015-11-07 00:24:23
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段々と血の匂いが濃くなり、わたしは数人の死体が転がる路地裏で足を止めた。 パナマ帽を脱ぎ、曲がったスカーフをきっちりと整える。 深呼吸して、わたしは電柱の上に立っている男……牙爵に声をかけた。 「こんにちは!」 「む……ああ、君は」 02 #hollytk

2015-11-07 00:26:25
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わたしの事を覚えていてくれたようで、牙爵は電柱の上からひらりと飛び降りた。血染めの燕尾服の裾が翻る。 「久しぶりだね、マドモアゼル。その後の調子はどうかな?」 「ちょっとずつですけれど、強くなっているつもりです」 わたしは左腕の鱗を見せる。 03 #hollytk

2015-11-07 00:28:21
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「ほう、良い異形を貰ったな」 牙爵はわたしに歩み寄り、青白い指で鱗をなぞった。 「牙も気に入ってますよ?」 「嬉しい事を言ってくれるねマドモアゼル……おや?」 牙爵の指がわたしの額に伸びる。ひんやりとした指が、髪の間から顔を覗かせる角の欠片にそっと触れる。 04 #hollytk

2015-11-07 00:30:13
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「これは……角、かね」 「はい。角、でした」 わたしは牙爵に、病院で遭った事について説明した。動く死者の外科医と、異形を取り除く手術について。傷を治す怪しい注射について。……鬼について。 「ふむ……鬼には会った事があるが、そのような奴等は見たことがないな」 05 #hollytk

2015-11-07 00:32:26
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牙爵は顎に手を当て、髭を捻りながら思案する。 「ふぅーむ……」 沈黙。わたしは何をするでもなく、牙爵の横顔を眺めていた。長いまつげ。深い黒をたたえる瞳。かっちりと整えられた、血染めの正装。 そして口元に覗く、鋭い牙。かつて、あれがわたしの命を絶ったのだ。 06 #hollytk

2015-11-07 00:34:09
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しばらくの沈黙の後、牙爵はぐしゃぐしゃと髪を掻き回した。 「分からぬな。分からぬものは仕方ない。マドモアゼル、さしあたって食事でもいかがかな?」 彼はそこら辺に転がっていた死体から、腕を一本もぎ取って差し出す。 「喜んで頂きます、おじさま」 07 #hollytk

2015-11-07 00:36:12
@hiiragi_r_t_d

「おや、以前は食べなかったのに。心境の変化かね?」 「食わず嫌いだったみたいです。……うん、美味しい」 初めて食べた時のあの官能には劣るが、十分に鍛えられ適度に脂の乗った上腕二頭筋に舌鼓を打つ。 わたしはあっという間に腕を一本平らげ、そこら辺に放り投げた。 08 #hollytk

2015-11-07 00:38:42
@hiiragi_r_t_d

「今宵はバイキングだ。好きな部分を、好きなだけ食べていくと良いだろう」 「ありがとうございます」 わたしはとりあえず、手近な死体から腕を一本もぎ取ろうと手をかけた。 「あれっ、意外とっ、硬いっ」 「ああ、硬かったかね?」 09 #hollytk

2015-11-07 00:40:08
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牙爵がやすやすと腕を引き千切り、わたしに差し出す。 「すごい力ですね……それも、異形ですか?」 牙爵は頷き、華美な装飾を施されたボタンの付いた袖をまくり上げて腕をかざした。青白い肌が、そこだけ浅黒く変色している。 「鬼の腕を見るのは初めてかね?」 10 #hollytk

2015-11-07 00:42:06
@hiiragi_r_t_d

「はい、初めてです……もぐもぐ」 わたしは受け取った腕を齧りながら、左手でぺたぺたと牙爵の腕に触れる。今食べている腕より細いのに、触れるとその内に込められた力が感じ取れる。額の眼に、周囲を圧せんばかりの深淵の黒が映る。 「どうすれば貰えるんですか?」 11 #hollytk

2015-11-07 00:44:20
@hiiragi_r_t_d

「ああ、あれは幾年前だったかね……そう、我輩が初めて病院に行った時だったから数十年は前か……」 そんな昔からあるのですね、この町は。というか彼はいくつなのでしょうか……パッと見では三十代、大目に見ても四十代ほどにしか見えないのですが。 12 #hollytk

2015-11-07 00:46:20
@hiiragi_r_t_d

「まあ、そこは重要ではなかろう。そこで我輩は鬼を倒し、その肉を喰らったのだ」 「あの鬼を殺したんですか!?」 あいつ、殺せるのですね。いえまあ生きているならば殺す方法はきっとあるのでしょうけれど。 「……まあ、そういう事だ。そういえば最近は行っていないな」 13 #hollytk

2015-11-07 00:48:23
@hiiragi_r_t_d

牙爵は懐かしむように髭を撫でる。 「最近はなかなか死ぬことも無くてな。こうも退屈が続くと食事も享楽足りえぬ。まったく、困ったものだ」 「食べ方を工夫してみたらどうですか?焼いたりとか」 わたしは思いついた事を口にする。それを聞いた牙爵の耳がぴくりと動く。 14 #hollytk

2015-11-07 00:50:28
@hiiragi_r_t_d

「むむ……焼く、か。参考にしよう。やはりマドモアゼルとの会話は楽しいな」 「ふふ、ありがとうございます」 わたしは骨だけになった腕を放り投げて軽く一礼する。 牙爵が腕をもう一本もぎ、投げてよこす。 「どうせ互いに逝く当ても無い身、もう少し話していきたまえ」 15 #hollytk

2015-11-07 00:52:24
@hiiragi_r_t_d

それからわたしと牙爵は、日が沈むまでとりとめの無い話をした。 美味しい肉と、楽しい会話。高かったはずの夕陽は、あっという間に沈んでしまった。 16 #hollytk

2015-11-07 00:54:31
@hiiragi_r_t_d

──────── 【二十五日目】 【生存】 【魂±0】 【魂9/力4/探索2】 【喪失】名前(後ろ半分) 【異形】三ツ目(力+1、探索+2)、牙(力+2)、鱗(水耐性、力+1) 17 #hollytk

2015-11-07 00:55:04
@hiiragi_r_t_d

[町]「牙は実に便利だ」男爵風の男は得意げに話す。「あの厄介な人間共を食ってしまえるし!君が欲しいなら分けて差し上げよう」《男の誘いに乗るなら、君は戮され異形を得る【魂-1/『牙(力+2)』入手】》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541547 #hollytk

2015-11-07 00:55:27