黄昏町(九板)二十九日目

vs竜(三度目)。果たして今回は……? 初日/一日目→http://togetter.com/li/883761 前日/二十八日目→http://togetter.com/li/899047 翌日/三十日目→http://togetter.com/li/899722
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@hiiragi_r_t_d

【二十九日目】 【魂6/力7/探索3】 【喪失】名前(後ろ半分)、感情「楽」 【異形】三ツ目(力+1、探索+2)、牙(力+2)、鱗(水耐性、力+1)、角(力+2)、猫目(探索+1、力+1) #hollytk

2015-11-12 21:34:52
@hiiragi_r_t_d

わたしは靴箱の並ぶ生徒玄関で目を覚ます。スニーカーの紐を結び直し、履き慣れたローファーを靴箱の上に置いた。 「さて、行きますか」 ガラス戸を開け、玄関を出る。以前わたしが整えた花壇には、小さな花が咲いていた。 01 #hollytk

2015-11-12 21:35:10
@hiiragi_r_t_d

校庭へ踏み出す。竜の姿は見えない。額の眼にも、何も見えない。 ぎょろぎょろと、額の眼が油断なく周囲を警戒する。生い茂る雑草の上を、鳥が数羽飛んでいる。 少しづつ、わたしは前進する。校門が近付く。 鳥達が、不意に飛び去った。風がパナマ帽を攫った。 02 #hollytk

2015-11-12 21:37:12
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嫌な予感にわたしが振り向こうとした時には、丸太のような竜の尾がわたしの背中にめり込んでいた。 「かっ……ハッ」 肺から空気が押し出される。背骨が嫌な軋みを上げる。そのまま水平に振り抜かれた巨大な尾は、わたしをファウル方向に吹き飛ばした。 03 #hollytk

2015-11-12 21:39:30
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地面に数度バウンドしながら吹き飛ばされたわたしは、鳥小屋だったと思しきフェンスの塊に激突し、その扉を突き破って止まった。 「ゴ……ホッ」 錆びて穴の空いたトタン屋根が衝撃に耐えかねて崩れ落ちる。頭の上に落ちてくるそれを左腕で払いながら、わたしは立ち上がる。 04 #hollytk

2015-11-12 21:41:36
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「ゲホッ、ゲホッ」 立ち上がると足元が僅かにふらつく。口の中の砂と錆を吐き捨てて、わたしは竜を睨みつけた。 土煙が晴れ、竜がわたしを見つける。 竜の尾を見つめる。わたしの左側、宙を漂う尾が、霞む。 05 #hollytk

2015-11-12 21:43:13
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わたしは腰を落とし、ボクシングのように左腕でガードを固める。 次の瞬間、極大の衝撃が左腕を襲った。鱗が容易く砕け、骨が軋みを上げる。 「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁっ!」 雑草と表土を巻き上げ、スニーカーが校庭に深い轍を刻む。 鈍い音と共に左腕の感覚が消失する。 06 #hollytk

2015-11-12 21:45:09
@hiiragi_r_t_d

永遠にも感じられる数秒間の後、竜尾が引き戻された時……わたしは、まだ立っていた。ぶらりと垂れた左腕は、ありえない方向に曲がっている。痛みは既に無かった。 左腕をぶら下げたまま、わたしは竜に向かって走り出す。片腕だけではバランスが保てず、足元がよろめく。 07 #hollytk

2015-11-12 21:47:30
@hiiragi_r_t_d

よろめき、膝を突いたわたしの背後で破砕音が響く。 振り向くと、鳥小屋と思しき建造物は完全に破壊し尽くされていた。もしあそこでよろけていなければ、ああなっていたのはわたしの頭だっただろう。 冷や汗を拭い、震える足を鞭打ってわたしは走る。 竜はもう、目の前だ。 08 #hollytk

2015-11-12 21:49:12
@hiiragi_r_t_d

竜が頭を下げ、わたしと目線を合わせる。それはまるで、ようやくわたしを「敵」と認めたようだった。 「ふ、ざ、けるなぁっ!」 怒りのままに、額の眼を見開く。竜の動きが、一瞬鈍る。 わたしは立ち止まり、至近距離で竜と睨み合う。額の眼が致死の呪いを放つ。 09 #hollytk

2015-11-12 21:51:12
@hiiragi_r_t_d

額の眼が真円まで見開かれ、くろぐろとした瞳が広がる。小鳥が飛び去っていなければ、即座に心臓が止まり冷たくなっていただろう。 しかし竜は倒れない。皿のように大きな金色の瞳に、縦長の瞳孔が開く。鏡のように輝く竜の目が、わたしの呪いを跳ね返す。 10 #hollytk

2015-11-12 21:53:12
@hiiragi_r_t_d

わたしは目に……額ではなく、元から備わる二つの目に力を込める。 あの男は、わたしに目を寄越すと言っていた。ぶっつけ本番だが、竜に呪いが返された以上は、使えなければ死ぬだけだ。 返された呪いがわたしに届く。冷たい手が、わたしの心臓を鷲掴みにする。 11 #hollytk

2015-11-12 21:55:20
@hiiragi_r_t_d

「……開け……ッ!」 左目の視界が歪み、金色に染まる。不意に冷たい感覚が消え、わたしは荒く息をつく。 「アッ、ハハ!」 笑いがこぼれる。爽快な気分だ。竜の目に映るわたしの左目は、縦長の瞳孔で竜を睨みつけていた。 12 #hollytk

2015-11-12 21:57:13
@hiiragi_r_t_d

わたしは踏み込む。額の眼からとめどなく溢れる致死の呪いが、竜とわたしの金色の目の間を行き来しているのを感じる。 「その目……邪魔、ですね」 わたしは右手を伸ばす。突然の事に驚いているのか、呪いを返すことに必死なのか、竜は動かない。 13 #hollytk

2015-11-12 21:59:06
@hiiragi_r_t_d

ぶちゅり。 何の力も持たない、ごくごく一般的な人間の腕が、竜の目玉を潰した。 14 #hollytk

2015-11-12 22:01:17
@hiiragi_r_t_d

「グアァァアアアァァァァアアァア!」 竜が吼える。空気がビリビリと震え、反射的に額の眼が閉じる。 竜の口が開く。一本がわたしの腕ほどもある、鋭い乱杭歯がずらりと生え揃った顎がわたしに迫る。 回避は間に合わない。 わたしは歯を食いしばり、更に前へと跳んだ。 15 #hollytk

2015-11-12 22:03:12
@hiiragi_r_t_d

あえて閉じ切る前の口に飛び込み、スニーカーで牙を蹴る。鋭い牙がスニーカーの靴底を突き破り、足を貫く。 更に跳んだわたしは、左腕を竜の牙にかけて竜の顔に張り付く。 至近距離で、竜の血走った目を見てわたしはニヤリと笑った。 右腕を、竜の残された片目に突き込む。 16 #hollytk

2015-11-12 22:05:24
@hiiragi_r_t_d

ぐちゃり。 竜の目が潰れる音と、わたしの左腕が噛み千切られる音は重なって聞こえた。 竜が唸る。何も見えていなくても、わたしが……目障りな敵が顔に貼り付いているのは分かるのだろう。 竜の角がバリバリと音を立てて発光する。 次の瞬間、わたしの体を電撃が貫いた。 17 #hollytk

2015-11-12 22:07:05
@hiiragi_r_t_d

「ぐっ、がああああああああああああああああ!」 体中からバシリ、バシリと放電音が響く。電撃はわたしの手から竜の頭へも流れ、一人と一匹は全身を焼かれながらもつれ合った。 文字通り、脳がスパークする。唇がズタズタに裂ける。左の眼球が膨らみ、音を立てて破裂する。 18 #hollytk

2015-11-12 22:09:18
@hiiragi_r_t_d

白目を剥きながらもわたしは竜にしがみつく。この手を離せば、全てが水泡に帰すだろう。 「ぎいいいいいいいいいいいいっ……ッ!」 右手を竜の潰れた目にかけたまま、ガクガクと身体を震わせる。 脚が痙攣し、竜の顔を蹴る。竜の尾がのたうち、巨大な顎から苦悶が漏れた。 19 #hollytk

2015-11-12 22:11:26
@hiiragi_r_t_d

感電の痛みに耐えられなくなったのか、電撃がぱったりと止まる。力が抜け、わたしは竜の顔から剥がれ落ちた。 「ま……ず、い」 力が入らない。雑草の上に落ちたわたしの全身は焼けただれ、投げ出された四肢は不規則に痙攣を起こす。視界は霞み、額の眼も半ば炭化していた。 20 #hollytk

2015-11-12 22:13:27
@hiiragi_r_t_d

残った右目で天を仰ぐわたしの視界に、竜の頭が映る。 竜も満身創痍だ。眼球を喪った眼窩は黒い煙を吹き上げ、鱗はあらかた砕け剥がれ落ちている。半開きの顎から、焦げた乱杭歯が抜け落ちた。 21 #hollytk

2015-11-12 22:15:18
@hiiragi_r_t_d

「づっ、ああっ!」 でろりと垂れた竜の舌から、唾液がわたしの体に垂れる。焼けた皮膚に酸性の粘液がまとわりつき、シュウシュウと煙を上げる。 「アッ……ハハ……痛い、ですね……ぐぅっ!」 わたしは地面に右腕を立てる。 「でも……おかげ、で……目が覚めました」 22 #hollytk

2015-11-12 22:17:16
@hiiragi_r_t_d

わたしは地面に膝立ちになって、竜を見上げる。 焼け焦げた額の眼が、一度だけどくんと脈打った。 呪いが届いたのか、限界に達したのか。 巨大な頭を支えきれず、竜が倒れ込む。 わたしに向かって。 23 #hollytk

2015-11-12 22:19:12
@hiiragi_r_t_d

竜の柔らかい喉元に、角の先端が触れる。 ずぶり。 竜の喉元に深々と角が突き刺さる。 「ア、ッハハ」 わたしは笑った。竜の重みが、次はわたしを押しつぶす。 「ハハ、ぐえっ」 ボロボロのわたしとボロボロの竜は、校庭の焼け焦げた雑草の上に倒れ込んだ。 24 #hollytk

2015-11-12 22:21:09