「解雇規制の正体は企業の人事権である」by野川忍(@theophil21)

ささきりょう弁護士(@ssk_ryo)が「解雇規制緩和で若者の雇用が増えるとか、転職がしやすくなるという論調があるけれど、その中身によって色々話が違ってくるんじゃない?」と問いかけたことに対し、野川忍・明大大学院教授(@theophil21)が緩和が論議されている「解雇規制」は実は企業の人事権の一つであると解説。
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ささきりょう @ssk_ryo

解雇規制緩和で若者の雇用が増えるとか、転職がしやすくなるという論調があるけれど、この規制緩和は何をどう緩和するっていうのか。現行では規制にも、解雇にも、色々種類があるんだが。抽象論による具体的帰結を、それが真理かのように語り、理解しない者を謗るようでは、話にならないと思う。

2011-01-17 09:40:31
theophil21 @theophil21

(1)同感です。周知のように日本の法制度は、ドイツなどと異なり「正当な理由がない解雇は違法」というルールを設けてはいません。先進国ならどこでも違法である差別解雇や、期間を定めたにも関わらず期間途中で解雇する場合を規制しているほかは、労契法16条があるだけです。@ssk_ryo

2011-01-17 10:09:17
theophil21 @theophil21

(2)労契法16条は、「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」がない場合は権利の濫用として無効である、と規定していますが、これも「どのような権利でも濫用は許されない」という一般原則を解雇についても及ぼしただけの規定です。ではどこに緩和しなければならない解雇規制があるのか。

2011-01-17 10:11:30
theophil21 @theophil21

(3)それは、労契法16条の背景にある判例法理が、「実際には、めったなことで客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性は認められない」と思われる厳しい内容であることと、整理解雇についての判例法理が非常に厳しく見えるからです。しかし、これをもって解雇規制が強いというのは誤解。

2011-01-17 10:14:07
theophil21 @theophil21

(4)以前もツイートしましたが、裁判所が、実際に訴訟となった解雇の多くにつき、「使用者は権利を濫用しており解雇は無効」と判断してきた中心的な根拠は、「使用者は信頼を不当に裏切るな」という趣旨であって、厳しい判断を生み出した原因の過半は使用者側にあります。

2011-01-17 10:17:53
theophil21 @theophil21

(5)つまり、高度成長期に確立した長期雇用慣行を適用されてきた正規労働者は、新入社員のときはどんなに働いて成果を上げても給与は低く、逆に出世して管理職になれば成果よりは地位に応じて高給を保障されるという賃金制度が普及していました。

2011-01-17 10:20:15
theophil21 @theophil21

(6)この制度は、定年まで勤めて労働成果と報酬としての賃金の帳尻が合う、という内容ですから、「長期に雇用する」ことが労使双方に了解されていて初めて正当化されます。そこには、「めったなことでは解雇しない」という使用者のメッセージがあり、労働者はそれを信じて粉骨砕身していました。

2011-01-17 10:23:13
theophil21 @theophil21

(7)しかも、使用者はこの「雇用保障メッセージ」を条件に、諸外国には見られないほど広汎で絶対的な「人事権」なるものを主張し、恒常的残業、家族を引き裂く遠隔地配転、キャリア形成を切断する職種転換なども「命令」として一方的に可能であるというシステムを構築するのに成功しました。

2011-01-17 10:25:55
theophil21 @theophil21

(8)わかりやすく言えば、「雇用は保障するから企業に服従せよ」という使用者側の提示に労働者側も応じていた、というのが実態でした。したがって、それにもかかわらず使用者が「めったなこと」も生じていないのに解雇することは、約束違反になるので、裁判所はこれを「裏切り」と判断してきました。

2011-01-17 10:28:29
theophil21 @theophil21

(9)この「雇用保障と絶対的人事権」との取引関係は、もちろん、大企業の正規労働者が中心的対象ですが、企業グループ内での子会社や関連企業にも普及して、日本の雇用社会における社会慣行として定着していました。だからこそ、「解雇はめったにできない」という社会ルールも一般化したのです。

2011-01-17 10:30:39
theophil21 @theophil21

(10)これに対して、濱口桂一郎先生が強く指摘されているように、中小零細企業では、「解雇の自由」という原則がずっと定着しており、国際的にみてもそれほど日本が異質なわけではありません。 他方で労働者の移動も頻繁であり、雇用保障と絶対的人事権の取引関係は希薄です。

2011-01-17 10:33:22
theophil21 @theophil21

(11)これも繰り返しになりますが、「解雇規制緩和」は、以上のような日本の実態に照らせば、企業側が人事権を手放して、人事を労働者との合意のもとに行っていく度合いに応じて実現していくでしょう。実際、外資系企業や最近のベンチャー系企業ではそのような傾向が見られます。

2011-01-17 10:36:06
theophil21 @theophil21

(11)以前、同様のツイートをした折には、「経営者は人事権を手放すことなど考えないから、今の状態でよい」という企業人事の方々からのご指摘をいただきました。解雇規制緩和を主張する方々はこのような事情を踏まえたうえで、現実的で実効性のある方向をぜひ明確に示して頂くようお願いします。

2011-01-17 10:38:39
theophil21 @theophil21

(続)「お前は解雇規制をどうあるべきだと考えているのだ」という質問に対しては、「雇用社会における契約ルールの普及、それに応じた人事権の縮減、労働組合機能の強化、周到な職業訓練システムの徹底、転職市場の確立を前提として、解雇と辞職は同等に扱われるべき」と回答することになるでしょう。

2011-01-17 10:48:54
野中健次(特定社労士/M&Aシニアエキスパート) @ponaken

@theophil21 労働組合と労働者代表制の役割について、先生のご見解はいかがですか。

2011-01-17 11:50:57
theophil21 @theophil21

日本の労働組合が、企業別単位でないことが一般化すれば、個別企業・事業所ごとの問題を扱う従業員代表制と、横断的に労働条件を扱う労働組合との機能的な併存が可能になるでしょうね。@ponaken 労働組合と労働者代表制の役割について、先生のご見解はいかがですか。

2011-01-17 11:58:14
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野中健次(特定社労士/M&Aシニアエキスパート) @ponaken

授業員代表制の再設計に期待していますが労働組合の領域を侵害しない事が難しいです。RT @theophil21 日本の労働組合が企業別単位でないことが一般化すれば、個別企業・事業所ごとの問題を扱う従業員代表制と横断的に労働条件を扱う労働組合との機能的な併存が可能になるでしょうね。

2011-01-17 12:20:00
theophil21 @theophil21

かつて連合の依頼で日本型の従業員代表法案を作成したことがありますが、まさに日本の企業別労働組合は従業員代表と労働組合との役割を併任しており、法整備には役割分担が最大の課題になります。ただ、労働組合は今のままでは持ちませんから、おのずと土壌が整うかもしれません。@ponaken

2011-01-17 12:26:14
野中健次(特定社労士/M&Aシニアエキスパート) @ponaken

歴史に名を残すような労働組合の出現に期待します。RT @theophil21 まさに日本の企業別労働組合は従業員代表と労働組合との役割を併任しており、法整備には役割分担が最大の課題になります。ただ、労働組合は今のままでは持ちませんから、おのずと土壌が整うかもしれません。

2011-01-17 13:11:34
theophil21 @theophil21

(1)いくつかの点についてご指摘ありがとうございます。まず、人事権の承認と雇用保障を労働者自身が「実質的対等性を確保された上での交で合意するならば」、規制すべきではないでしょう。また、解雇と辞職とが同等、と言う趣旨は、同じように自由であるべきということです。@sy_mc

2011-01-17 14:30:53
theophil21 @theophil21

(2)「周到な職業訓練システムの徹底」は、現在も公共機関が提供してるような一般的なものばかりではなく、労使の共同設置や民間の機関(専門学校、大学、協同組合、NPO等)の多彩な展開を促し、また制度的サポートによって横断的な連携や成果支援を進めることが考えられます。@sy_mc

2011-01-17 14:35:24
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