勉誠出版創業50周年記念出版 中野幸一氏『正訳 源氏物語 本文対照』講演会「源氏物語を書き終えてー源氏のことばと表現」レポート

◎日時: 2015年11月24日(火)19時~ ◎講師: 中野幸一氏(早稲田大学名誉教授。「正訳 源氏物語 本文対照」の訳者) ◎場所: 続きを読む
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まとめレポート本編。
「正訳」するうえで留意した点

きき @1oving_rabbit

これから連投レポします。うるさい方はミュートお願いしますー。→世界に誇る『源氏物語』を「正しく」訳す―勉誠出版・創業50周年記念出版 - お知らせ : 勉誠出版 bensei.jp/?main_page=wor…

2015-11-24 22:43:43
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点① 従来の“源氏物語の現代語訳“は「である調」で訳されていることが多い。源氏物語は語りの物語。人に語りかける時に「である」「であった」とは言わないでしょう?語りの姿勢を尊重するために「ですます調」で訳すようにしました、とのこと。

2015-11-24 22:48:52
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点② 現代語訳を読んでいると「こんな表現あったかしら?」という表現に出くわすことがある。代表的な現代語訳といえば、谷崎潤一郎、与謝野晶子、円地文子、瀬戸内寂聴……どれも「作家」による訳であり、「作家」である限り、表現の追求のため、本文から飛躍してしまう。

2015-11-24 22:53:01
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点③ 飛躍した表現も、それは作家なりの理解であり作家ならでは。しかし本文から離れてゆくことも事実。中野先生の「正訳」では、できるだけ紫式部が書いた「物語の本文」を尊重し、忠実に訳した。過も不足も無いよう、どの詞がどの言葉に対応しているのか、分かるように。

2015-11-24 22:58:00
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点④ どの詞がどの言葉に対応しているのか、分かるように。これを実現するために苦労した点は、なんとページの文字割り構成とのこと。文字は何ポイントにするか、一行に何文字入れるか……編集の方は大変だったと思う。しかしこれは、初めての試みであったと思う。

2015-11-24 23:02:07
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点⑤ その他、主語や和歌の歌い主の名を適宜補った。また、人物を分かりやすくするために官職名や女性の呼び名の下に、小さい文字で(夕霧)とか(紫の上)とかという語を補った。だだしやりすぎるとうるさくなるので、ほどほどに。

2015-11-24 23:05:17
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点⑥ 例えば「いと」「おどろく」「かなし」。岩波古語辞典の用例数でさえ事足りないくらいの訳語が必要になる。訳語が重複して単調になることをさけるべく様々な表現を工夫して訳した。古語は懐が深さ、幅の広さがある。テキスト化するときにも漢字に直しては、ダメです。

2015-11-24 23:10:44
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点⑦ 源氏物語の特徴のひとつが「文章が長い」こと。紫式部は筆が乗ってくると、挿入句的に文章が増えて冗長になる癖のある、おしゃべりな作家。ただ短い文章に切ると特色がなくなってしまうので、わざと長いままに。読みにくい場所があれば、それは紫式部のせいです(笑)

2015-11-24 23:18:41
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点⑧ また、草子地を特に大切に訳した。草子地は、作者の対読者意識のそのもの。草子地は作者のツッコミであり、コメントであり、読者の物語内容への意識や評価は草子地に引かれてしまうもの。草子地は、読者を前提に書かれているのだ。ところが草子地の定義は曖昧である。

2015-11-24 23:24:57
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点⑨ 草子地とは「物語内部の虚構の語り手あるいは書き手が、いわゆる物語の地の文において、感想・注記・批評・説明など、みずからの感懐や姿勢を示していると認められる部分」と、一応の規定を設ける。これを受け、説明・批評・推理・省略・伝達の五分類に分けて考えた。

2015-11-24 23:30:51
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点⑩ 特徴的なのは、省略の草子地。「人々多くよみおきたれどもらしつ」みたいなヤツ。実は宇津保物語で、最後の方に「うたわれど書かず」のような表現が少しだけ出てくる。省略の草子地は、宇津保の発明かも?しかし源氏では、語り手の女房の口調にするなど、凝っている。

2015-11-24 23:39:41
きき @1oving_rabbit

「正訳」するうえで留意した点⑪ その他の気をつけたところは、敬語、引き歌、有職故実など……でも全部話していると時間がなくなってしまうので、これで終わります。ということで講演の本編は喝采のうちに終了したのでした。

2015-11-24 23:42:29

まとめレポートおまけの小話。

きき @1oving_rabbit

小話① 質問より。この本を出し終わったら、紫式部論をまとめてみたい。紫式部の容貌は?本邦三美人の記述もあるが、目立たないながら知的な風貌をしていたのでは。紫式部の性格は?良妻賢母型と言われてきたが、『紫女七論』水戸学派の影響。紫式部日記を見ると、いじめの中心になったということも。

2015-11-24 23:52:20
きき @1oving_rabbit

小話② 質問より。敬語表現について。敬語とは人と人の対話で生まれるもので、生きた会話で生まれる表現。だからこそ、発言者の感情が入るので、階級だけで機械的に付くものではないから難しい。源氏物語では作者(語り手)と同等か少し上をターゲットにしている。

2015-11-24 23:57:36
きき @1oving_rabbit

小話③ 質問より。古代語の読み方について。金田一春彦先生の古代語読みの音源があるが、あのようなスローなスピードで全編読んでいたというのは違うだろう。いま参考になるなら、歌の読み方、宮内庁大歌所の朗詠。

2015-11-25 00:03:23
きき @1oving_rabbit

小話④ 質問より。源氏物語は貴族文学であり、そもそも庶民に分かるものではない。「花」は桜、「山」は比叡山、「寺」は三井寺。そういう認識が常識として分かっている人でないと、分からないように、書いてある。

2015-11-25 00:06:10
きき @1oving_rabbit

小話⑤ 中野先生がむかし体験されたお話。宮内庁書陵部にて「源氏物語を勉強している?そんなものは辞めておしまいなさい。庶民に分かるものではありません。」と言われたそうな。言い放ったのは、当時の宮内庁侍従(次)長。※侍従長か次長か、聞き逃しました。すみません。

2015-11-25 00:13:05
きき @1oving_rabbit

小話⑥ 例えば、夕顔巻、車から「すこしさし覗きたまへれば」。頭を出しているなんて思ってはダメ。御簾をちらっと上げているだけ。惟光が「近うよりたまへば」。ただ近づくのではない。乳母子といえど五位風情、当然膝行している。そういうことが当たり前に分かる人に向けて、書かれているのだと。

2015-11-25 00:23:16
きき @1oving_rabbit

小話⑦ 清少納言は「この後コーヒーでもどう?」というと付き合ってくれる。紫式部は付き合わない。しかも「なぜ他の人もいる中で私に声をかけたのか」と考えてしまうような面倒臭い女。自己回帰性が強く、何を見ても自分に結びつける。付き合うの嫌ですね(笑) だけどずっと付き合っています、と。

2015-11-25 00:30:47
きき @1oving_rabbit

小話⑧ 桐壺巻冒頭「『いづれの御時にか』女御更衣あまた……」は古代仮構という。いうなれば時代小説。 橋姫巻冒頭「『その頃』世にかずまへられ給わぬ古宮……」は近代仮構という。いうなれば現代小説。 冒頭の一言目で、物語の性格が分かれていると。

2015-11-25 00:35:21

個人的な感想など

きき @1oving_rabbit

今回のご本、個人的な感想としては、現代語訳であって現代語訳にあらず、かといって岩波や小学館の全集とも異なる、ちょっと面白い立ち位置だなぁと思います。スタンスは林望先生の謹訳源氏に近いかもしれません。比べてみたい。姿勢と立ち位置はアカデミカル、読み感はカジュアルという印象。

2015-11-25 00:47:09
きき @1oving_rabbit

より学問的な訳のものが読みたいけどガチガチに硬いのはちょっと怖い、というひとには、口当たりやわらかめの表現がいい感じなんじゃないでしょうか。向こう2年間かけて刊行、単行本10冊、1冊2500円という、なかなかの鈍器なわりには(学術書として見るならば)お安めなのも嬉しいところです。

2015-11-25 00:53:50