東浩紀さんによる小鷹信光さん追悼文(20151208)

省略
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ほしおさなえ @hoshio_s

今朝8時45分、父、小鷹信光、永眠いたしました。癌でしたが、最後まで自宅で過ごし、先週まで仕事をし、なすべきことはすべて終えたと言っていました。父と関わってくださった皆さまに感謝いたします。

2015-12-08 12:53:37
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

妻から報告がありましたように、義父のミステリー翻訳家、小鷹信光氏が今朝永眠いたしました。春に告知を受け、長い闘病を経て眠りにつきました。親族である以上に、同じ物書きとして教わることが多い方でした。またあとでツイートいたします。 twitter.com/hoshio_s/statu…

2015-12-08 16:57:26
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

翻訳家・作家の小鷹信光さん死去 「探偵物語」の原作者:朝日新聞デジタル asahi.com/articles/ASHD8…

2015-12-08 18:08:15
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

少し時間ができたのでツイートします。小鷹信光氏のことです。

2015-12-08 18:51:49
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

小鷹氏は有名なミステリ翻訳家であり『探偵物語』の原作者であり、ほか若いころはポルノ翻訳や匿名ライターを含めさまざまな仕事をしており、アメリカ文化を貪欲に取り込んだ戦後日本の生き証人のような方です。1万冊に及ぶペーパーバックの蔵書はいまは早川書房に寄付され一般に公開されています。

2015-12-08 18:54:44
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

というわけで、小鷹氏は大物なわけですが、恥ずかしいことに、ぼくは最初にご挨拶に伺ったとき、氏の名前を知りませんでした。ぼくはハードボイルドは苦手で、早川でもかなり仕事をしてるんだけどなあとぼやく氏に対して、SFのひとならよく知ってるんですが・・と失礼にも答えていた記憶があります。

2015-12-08 19:00:29
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

そんなぼくも、のちにはハメットなどを読み、それなりに知識を得ました。けれども、小鷹氏のハードボイルドに対する執着は、文学の好みではなく生き方そのものであり、それはぼくにはとても追いつけないものでした。というよりも、それはある世代以下の日本人には失われた何かだったように思います。

2015-12-08 19:08:05
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

今年春に癌の診断を受け、余命半年と告げられたあとも、氏は仕事の美学を変えませんでした。現在発売中のミステリマガジンに印象深いインタビューが載っています。ある映画の紹介を書くため原作を取り寄せたところ、西部劇とハードボイルとの関係について新たな発見があったという話なのですが、(→)

2015-12-08 19:12:12
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

(→)それを余命数ヶ月の身体で語っていたかと思うと、本当に頭が下がります。なんども見た映画の紹介など、小鷹氏なら記憶でいくらでも書けたはずです。時間も体力もない。それでも邦訳のない原作を取り寄せ、読破し、新しい事実を発見する。これこそ研究や批評のあるべき姿です。

2015-12-08 19:14:25
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

10日ほどまえ最後にお会いしたときも、氏は出版を控えた翻訳ゲラを前にして、酸素吸入器越しの掠れた声で、「あと3時間あれば再校に全部目を通せたのに、できなかった」と悔しそうに語られていました。いまは再校なんてろくに見ないひとも多い。そういうなか、彼は最後まで絶対に手を抜かなかった。

2015-12-08 19:19:53
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

もうひとつ印象に残っているのは、妻との結婚式で、浩紀もつぎは就職だなと漏らしたうちの両親の横で、大学なんてつまらんから止めとけよと囁いていた氏の悪戯坊主のような笑顔です。ハードボイルドのハの字もわからない不詳の義理の息子だったぼくですが、その忠告だけは活かし、いまに至っています。

2015-12-08 19:25:55
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

ほかにも語りたいことはあるのですが、ここらへんにしておきます。いずれにせよ、小鷹信光氏はもうこの世にいません。彼のハードボイルドの魂をぼくのようなオタクがどのように引き継げるのか、はなはだ心許なくありますが、氏の教えはこれからも範となり続けると思います。ご冥福をお祈りいたします。

2015-12-08 19:32:08
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

小鷹さんの霊前に参りました。よいお顔をされていました。

2015-12-09 20:32:25
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

スポーツ報知ではずいぶん大きく報じられたようだ。 pic.twitter.com/2NV16grV7P

2015-12-09 20:47:11
拡大
東浩紀 Hiroki Azuma @hazuma

こういう追悼の表現もあるのだと、感銘を受けました。→ 一度だけ読んだハメット | 片岡義男.com kataokayoshio.com/essay/hammett/

2015-12-10 01:13:01
ほしおさなえ @hoshio_s

ようやく一段落いたしました。メッセージや@ツイートをくださった方、RTしてくださった方、ありがとうございました。春に癌が判明してから、抱えていた仕事をすべて世に送り出したところで力尽きた形となりました。先週まで仕事をしていましたし、苦痛の少ない穏やかな死を迎えました。

2015-12-08 21:48:20
ほしおさなえ @hoshio_s

ミステリマガジンの特集は3回目もあります。そちらも自分の原稿はきっちりと仕上げていました。探偵物語の新作メモも掲載の予定です。ほんとうはこれを完成させたかったのだろうと思います。

2015-12-08 21:55:39
ほしおさなえ @hoshio_s

一夜明けまして、お線香をあげたところです。母も元気にしております。父より通夜、葬儀はできるだけシンプルに、後日よく準備して偲ぶ会を行うように言われています。どなたでも来られるような、楽しい会にしてください、と言っていました。その折にはまたご案内をいたします。

2015-12-09 08:58:09
ほしおさなえ @hoshio_s

ハードボイルドはひとつのスタイルだが、スタイルにこだわるのではなく、社会のなまの姿をえぐり出すような作品全般に惹かれていたのだろう。暴力、殺人、性などがあらわに描かれた通俗小説のなかに真実のようなものを見てとっていたのかもしれない。

2015-10-28 22:29:31
ほしおさなえ @hoshio_s

今日会ったときに「ハードボイルドよりこちらの方に惹かれるよ」と話したら、「でもあれは流行らなかった、全然定着しなかった」と笑っていた。この連載はこれまで本にまとまっていない。

2015-10-28 22:33:12
ほしおさなえ @hoshio_s

それにしても、この連載は61〜63年なので、わたしが生まれる前。自分が生まれる前の若い、血の気の多い父の姿が見えるようで、面白い。そのころの父と出会って対話しているような不思議な気持ちになる。

2015-10-28 22:34:49
ほしおさなえ @hoshio_s

いま、父・小鷹信光の過去の仕事をまとめるため、60年代、マンハント時代の著作を読んでいる。いつごろからか、父はハードボイルドの人ということになっているが、デビュー時に父が注目していたのは「行動派探偵小説」というもので、本格とは異なる、リアルな生を追求した通俗小説だったようだ。

2015-10-28 22:27:29