不知火に落ち度はない2016　お正月SP　その３　『不知火特務大佐との日々』

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

「おはようございます兵頭特務中尉。今日の作戦指揮は以下の通りですのでどうぞよろしくお願いします」 「おはようございます、ビッグマム」 「相変わらず馬鹿にしていませんか？」 「してません、ビッグマム」 心の中で立てた中指は、そっとしまい込む。 #不知火に落ち度はない

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「それなら、おかしな呼び方はしないように」 「了解、不知火特務大佐」 「次からは、口頭だけでは済まないので気をつけるように」 鞭があれば振るうと言わんばかりのご様子で、中学生ほどの体躯の娘が睨み上げてくる。 信じられるか？　これ、俺の上司なんだぜ。 #不知火に落ち度はない

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身長１４０cmちょいのほっそい手足。 アニメキャラみたいなピンクの髪の毛をした、人形みたいな肌の色と顔立ちの、まだ十代半ばぐらいの小娘。 『艦娘』と言われる特権階級の軍人。 それがこの不知火という名前の、俺の上司であった。 #不知火に落ち度はない

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『不知火特務大佐との日々』 #不知火に落ち度はない

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深海棲艦の出現以後通常の兵器は連中には通用しなくなり、まず戦地に『艦娘』という特殊装備の少女達が送られた。 彼女らは艤装という装備を身につけ、戦地に降り立ち深海棲艦どもを撃破した。 元来は彼女らは『兵器』という枠に組み込まれていた──。 #不知火に落ち度はない

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しかしそこには、やはり大きな不満が存在していた。 艦娘側からの、兵器として扱われるという不満。 扱う側の、精神的な負担。 その解決策は、ないと思われていた訳だが──。 その問題は、ある新兵器の開発によって、一気に解決を見る。 #不知火に落ち度はない

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元来艦娘以外使えなかった『艤装』を、一般兵でも運用できる形へ変えて運用できる兵器。 艤装模倣型強化外骨格──正式名称はそんな名前だが、俺達一般兵の間では『回天』と言われるいわゆるパワードスーツである。 なんで回天かって？ #不知火に落ち度はない

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この装備には致命的な弱点が１つあった。 主に防御面である。 元来ブラックボックス部分であった、エンチャントフィールドがこのパワードスーツには付いてない。 機械式で防御力を高めてあるだけだ。 逆に、地上だと艦娘より強いことあるそうだけどな。 #不知火に落ち度はない

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さらに『艦娘』は艤装が完全破壊されない限り海の上に浮いていられるが、『回天』はホバー用の燃料電池が切れたらそのまま海に沈む。 回天の稼働時間はフルチャージで１２時間仕様。 なお、この数字は『通常出力での交戦』を前提としている。 #不知火に落ち度はない

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そこから割り出す戦闘時間を見誤れば、そのままドボンする羽目になる。 緊急用の浮き輪はついてるが、戦闘中にそんなもん膨らましたまま暢気に戦えるか？　最後の希望である脱出装置が上手く働く事を祈りながら助けを待つしかない。 鉄の棺桶で泳げれば別だがな。 #不知火に落ち度はない

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基本装備は、いわゆる豆鉄砲と言われる12.7cm砲レプリカと、酸素魚雷レプリカが4門。 つまり駆逐艦をベースに作られた量産型モデルなんで、戦艦相手にゃ魚雷当てろっつー代物である。 現在戦艦型の大型砲を積めるやつも開発中とのことだが、いつになることやら。 #不知火に落ち度はない

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それで乗ったら死ぬ確率急上昇の、武器付き鉄の棺桶のことを、海兵の間じゃ皮肉をたっぷり込めて『回天』と呼ぶようになった。 艤装型強化外骨格駆逐艦型なんとかなにがしと、正式名称が長すぎっつー話もある。 あ、ちなみに回天乗りは最近敬称に変わってるんだけどな。 #不知火に落ち度はない

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ま、その話題はさておいて、話を戻そう。 新兵器の開発により、艦娘は兵器として扱われることが無くなった。 一方戦地に出られず不満を抱えた兵も、出撃できるようになった。 双方の不満は解決出来た──かに見えたんだが。 そうはならないのがこの世の常だ。 #不知火に落ち度はない

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大本営殿がとった方針は、こうだ。 『強化外骨格の運用時における指揮官は、原型となった艤装を扱う艦娘であるべき』 『彼女らの指揮を行っていた物は後方へ転属、その後評価の下再配置を行う』 つまりボスは艦娘になり、指揮官のほとんどはヒラになって部下。 #不知火に落ち度はない

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命令系統も一新され、提督という言葉の重みが再び帰ってきた。 俺ですか？ 元々俺は船乗りで、回天乗りにいっちゃん先に志願した結果、特務中尉というありがたい階級もらっとります。 わかりやすく言えば、男どものまとめ役。 あと、このちっこい指揮官殿の腰巾着。 #不知火に落ち度はない

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多数の艦娘を指揮してた奴はそのまま、艦娘のまとめ役になってるんでそうそう変わらないわけですが。 あと、戦線で活躍していた艦娘を昇進させるのも、まあ理にはかなってる。 かなってるんだが──なあ。 良い戦闘員が、良いリーダーになるってのはそうそうないわな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

あんまり、話題に出したくないが。 この大幅な再編成に伴い、辞職する艦娘が何人も出ちまった。 脳筋マッチョな連中の手綱を握ろうとして、大火傷したという大変胸糞物のニュースです。そいつらは当然軍刑務所行きで、娑婆に出る時は決死作戦にぶち込まれるのだとか。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

良かった探しをするなら、艦娘を兵器運用してる中で、セクシャルハラスメント三昧してた奴は回天に乗って爆散したことか。 当時の扱いに不服があった艦娘が、報復と言わんばかりにあれこれやってるトコもあるらしい。 そして一方で── #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

艦娘は作戦指揮を行いつつ、自らも戦闘に参加するわけで。 負荷が増えて給料も増え、階級がマシマシになるとかいう変な状況になっちまったわけだ。 するとサポート役が必要になる。 秘書艦と言われてた制度が、今度は回天乗りの隊長にくっついてきたわけ。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

つまり、俺の仕事ですそれ。 回天のメンテやら、船やヘリの手配やらの交渉役、むっさい連中の不満とかを一手に引き受けつつ、このちっこい上官殿のご機嫌を取る仕事なんすわ。 この時点でやってられない度うなぎ登り中です。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

もちろん、俺の例がたぶん特殊なんだろうけどもな。 俺の知ってる長門って女は、持てるカリスマ力をフルでブン回してオスゴリラどものタマを握ることに成功してたし。 少数精鋭の回天部隊を率い南海を大暴れして、巣窟をいくつも攻略してるご様子。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

長門の率いる回天隊は、通称『マリーンブラッド小隊』と呼ばれてる。 深海棲艦どもの返り血を浴びに浴びて、機体が真っ青に染まってるという噂がまことしやかに語られ、戦歴がそれを裏付けていた。 実際、連中の回天の塗装は綺麗な濃いブルーだしな。 #不知火に落ち度はない

不知火に落ち度はない @otinui_yamoto

その真相を知る俺は笑いをこらえるのに苦労してる。 長門の好きな色は濃い青なんだ。 迷彩色にもなると好きな色を塗った結果がそれ。 噂を知った時は大変ご立腹で、電話越しに二時間も愚痴られた。 初デートの時もその色の服着てたもんな。水族館なのに。 #不知火に落ち度はない