女騎士ハラミを焼く#2 肉の暴力◆3

コテコテの中編ファンタジーツイッター小説です。 予備知識必要なし。バトル、戦略、そしてバトル! 主人公はカワイイ女騎士!  対するは異形の怪物。戦いの行方は……ただしこの女騎士、少々戦いが嫌いなようで。 前↓ 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

女騎士ハラミを焼く #2 肉の暴力

2016-01-16 17:34:36
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_月明かりの下、ツンドラの荒野を家畜の行商が行く。先頭をゆったりと進むのは2頭立ての馬車。交易路は東西に長く延び、人類帝国によって綺麗に整備されている。  縄で引かれる山羊の群れは大人しい。各地でよく見られる光景だ。とくに、家畜が殺され需要が高まっている今なら。 51

2016-01-16 17:39:46
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_セリマは夜の闇に紛れ、ひとの歩く速度で行く行商を遠くから並走していた。待ち伏せをするのだ。行商の警備には逃げるように言っている。  セリマは、肉鎧が肉を食う間無防備になることを知っていた。そこをクロスボウで狙う、安全で確実な作戦。 52

2016-01-16 17:45:12
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_月が高く上り、行商は夜の行進をやめた。道端に停車し夜営を始める。金に目がくらんで、夜更けまで道を急いでいるように見えるだろう。  行商の警備はかがり火をたき、夜襲に備えている。セリマは十分な量の暗視の魔法を持ってきた。クロスボウのボルトも抜かりはない。 53

2016-01-16 17:48:32
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_準備がすべて整ったときにすべきことは決まっている。待つ。ただ待つことだ。夜風は恐ろしいほど冷え込み、身体の震えが止まらない。  手をすり合わせて息をかける。月が厚い雲に隠れた。闇が濃くなり、かがり火の夜営地がぼんやりと浮かび上がった。 54

2016-01-16 18:02:52
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(戦っている君が好きだよ)  不意に技師の言葉を思い出す。戦いは嫌いだ。みっともないし、血なまぐさいし、涙と汗と鼻水まみれだ。どこに好きになる要素があるんだ。 (寒さならいつまでも耐えられる。こっちの方が好きだ)  セリマはコートの襟を立てる。夜風が強くなってきた。 55

2016-01-16 18:06:23
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_あの若い技師は負けても好きでいてくれるんだろうか。あいつは勝ち負けについて言っていた。勝ち負けって何だろう。あいつが変なこと言うから、勝ち負けの定義が揺らいでしまった……セリマは寒さを紛らわすために、気晴らしで考え事に耽っていく。 56

2016-01-16 18:11:30
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_セリマは肉を信じていた。勝てば肉が食える。だからがんばる。勝利を求める。ここで騎士団の惨状について思い出す。肉なんか腹いっぱい食べて苦しい思いをしても、食あたりを起こすだけじゃないか。 (どうしよう。肉の価値観まで揺らいできた) 57

2016-01-16 18:15:56
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(何が変わるんだろう。食べれる自分、食べれない自分。勝てる自分、負ける自分。そこにどんな差があるんだろう。何を得て、何を失うんだろう。本当に掴むべきものってなんだ?)  セリマの価値観が揺らいでいく。 58

2016-01-16 18:19:20
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_風の音にかき消される足音。気づかないセリマ。彼女は深く考え込んでいた。視線はのんきに鳴いている家畜の方へ。 (いいよなぁ、山羊は気楽で。草さえ食べてれば幸せなんだから)  しばらく時間が経過した。セリマは状況の変化を確認しようとする。 59

2016-01-16 18:22:36
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_セリマは気まぐれに生命探知の呪文を起動した。もしかしたら近くに来ていたりして……そんな気まぐれだった。しかし、生命探知はセリマの後ろに大きな影を映していた! 思わず振り返って、彼女は絶句する。  その瞬間、強い風が止まった。 60

2016-01-16 18:27:44
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女騎士ハラミを焼く#2 肉の暴力 (了) #3 肉の死闘 へ続く

2016-01-16 18:28:00