アルパイン・サンクチュアリ
「ようやく名前通りになったな」ニンジャスレイヤーは腕を放り捨て、代わりに奪い取った情報素子を己の胸元に収めた。「バ……カ……な……!」いまやフローズンは首から上を残し氷漬けとなり、身動き不能の状態であった。「ハイクを詠むがいい、フローズン=サン!イイイヤアアアーーーーッ!」 92
2016-02-05 17:30:13ニンジャスレイヤーの繰り出したポン・パンチが、フローズンの体を包む氷を粉砕する!KRAAAAAAASH!氷片が全方位に爆発的飛散!「グワーーーーッ!」フローズンの体もまた氷とともに粉々に砕け散り、落下してゆく!「サヨナラ!」インガオホー!フローズンは壮絶な爆発四散を遂げた! 93
2016-02-05 17:36:04ニンジャスレイヤーは細い足場の上でゆっくり息を吐き、ザンシンを決めた。襤褸布めいた装束の間から、ぽたぽたと血が滴った。この作戦を敢行するにあたり、彼とて無傷では済まなかったのだ。そしてセスナも。彼方、白銀の峰へ、対空防衛システムの射撃を受けたセスナが落下し、爆発炎上した。 94
2016-02-05 17:43:18嗚呼!赤黒のセスナはソード・マウンテンに消えた!だが全て、覚悟のうちである!彼はこの戦いを止めるつもりなどないのだ!ブガー!ブガー!施設内に自爆秒読みアラートが鳴り響く!DOOOM!敵の武装ヘリが一足先に自爆する!「イヤーッ!」死神は連続側転を打ち、メイン電算機室へ急いだ! 95
2016-02-05 17:49:13ズズズズズズズズズ……この世の終わりのような地鳴りが施設全体を包んでいた。ハイデッカーたちが自爆装置を作動させていたのだ。間もなくこのデータセンターはその秘密を守るため、支柱部が爆破され、崩落する。もはや、それを止める手段は無い。リケにさえも。 97
2016-02-05 17:54:51リケは電算機室の床に力無く座りこみ、各所の監視カメラ映像を見上げながら、己の聖域が静かに崩壊してゆくのを見ていた。イチバンの残骸を抱き抱えながら、幼い頃に聞いた子守唄を口ずさんでいた。そこへ、死闘を終えたニンジャスレイヤーが姿を現し、静かにマザーUNIXの横へと歩み寄った。 98
2016-02-05 17:59:28「……君は何者だ」リケはイチバンの残骸を守るようにだき抱えながら問うた。死神は彼を見据え、言った。「私はニンジャスレイヤーだ。そして、指名手配中のテロリストだ」「君は……私を助けるために、ここへ来てくれたのか?」「……」ごく短い沈黙ののち、死神は老人に対して首を横に振った。 99
2016-02-05 18:03:52「私は死蔵IPを手にするために来た。オヌシが30年守ってきたものを奪いに来た。無慈悲にも」彼はそう言い、魔女に託されたフロッピーを挿入した。彼には時間が無かった。死蔵IPを手にできねば、ナンシーは死に、アルゴスへの対抗策も失われる。それだけではない。全てが。無に帰すのだ。 100
2016-02-05 18:14:22フロッピーの中のウイルスが自動的に作動し、施設に残された全てのIP定義情報を吸い出し始めた。リケは静かに問うた。「……何のためにだ?カネか?」「ニンジャを殺すため」フジキドは続けた。全てを説明するための時間など無かった。「そして、この戦いが無意味などではないと、示す為だ」 101
2016-02-05 18:25:12それからフロッピーがすべてを吸い出すまでのわずかな時間、彼らは短い言葉を交わした。聖域の揺れは激しくなり、やがて、何も聞こえなくなっていった。 102
2016-02-05 18:29:47ZGOOOOOM……。デンワ社の秘密データセンターは、驚くほど奥ゆかしく、静かに、まるで穏やかな聖域の日々の秘密を包み込むかのように、内側に向かって崩落していった。青空は消え、ソード・マウンテンのブリザードがあたりを覆っていた。あとに立っていたのは、四つの墓標だけだった。 103
2016-02-05 18:38:07崩落で巻き起こった凄まじい雪の帳を背に、ニンジャスレイヤーはソード・マウンテンの急斜面をスキーで下っていった。シュッ。シュッ。シュッ。シュッ。右、左、右、左。雪がエッジに切断され、舞い上がる。彼は見事なパラレルターンを決め、視界ゼロのブリザードの中、死の斜面を滑降した。 104
2016-02-05 18:42:42死神の背には、防寒具を着込んだリケと、ショーギ・ロボットの残骸が背負われていた。老人は自らの意思で、己の聖域を後にした。イチバン修理の希望を、外界に求めたのだ。西暦2037年のネオサイタマは、彼が想像している以上に過酷であろう。そもそも、彼自身の体力がそこまで持つだろうか。105
2016-02-05 18:51:17シュッ。シュッ。シュッ。シュッ。ニンジャスレイヤーの滑走は速度を増した。リケはニューロンに残るイチバンの声を反芻した。死なせるものかと彼は祈った。なにひとつも無駄ではない。無駄ではないのだと。やがてブリザードの中、リケの視界は完全なる灰色へと染まってゆき、彼は目を閉じた。 106
2016-02-05 19:00:27