アンヴェイル・ザ・トレイル #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオカブキチョ。重金属酸性雨は今宵も温い音をたてて降りしきり、月は雨雲を通して弱々しく光る。その輝きは消えかかったボンボリよりも暗かったが、そのすぐそばに浮かび、自転する、冷たい黄金立方体の輝きは不変だった。

2016-03-15 23:04:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「健康診断を受けましょう」「ノイズ風はあなたの身体に一切影響は無い現象であることが確かめられていますが、重金属汚染には常に備えましょう。健康診断は貴方の日頃の健康を保証します」「全権委任」「家族に帰ろう!」「市民……」ネオン看板とコンクリートの隙間を01の風が吹き過ぎる。

2016-03-15 23:08:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

職務質問からの逮捕の恐れが増したといっても、それで大通りを走るビークルの数が減るわけでもない。ただ、ネオン傘をさして歩道を歩く市民の数は少なくなっている。01の風の気味の悪さもあるが、やはりハイデッカーが恐ろしいのだ。やがて、裏通りの「馬肉」の建物から、一人の半裸の男が滑り出た。

2016-03-15 23:13:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」半裸の男は両手を揺らしながら道路の端を滑るように走った。ビークルが泥水を撥ねても、少しも気にかけない。「……」男はやがて交差点で右を見る。道路の先にはニチョーム・ストリートの、グラフィティされた隔壁があった。今もあるだろうか?「ペケ、ペケロッパ!」男は目を見開き、叫んだ。

2016-03-15 23:15:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それから男は不意に走り出す。「ペケロッパー!」男は両手をバンザイし、ますます速度を上げる。男の走る先には……おぼろな闇がある。0と1が滝のように流れ落ちる、濡れた壁、オーロラじみた歪みが……「ペケロッパー!ペケ00ロ010011」男はノイズに呑まれ、消えた。左腕と左足が転がった。

2016-03-15 23:18:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

いわばこの地点は行き止まりのようなもの。車は入ってこない。近隣の住人がすぐに自殺行為の気配を嗅ぎつけ、PVC袋を手に、しめやかに現れた。数時間以内に「残骸」を生体屋に持ち込めば、なかなかのカネになる。「ちッ、末端部位か」スカベンジャー市民は毒づいた。そして眉根を寄せる。蠢く人影。

2016-03-15 23:23:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あン?」スカベンジャー市民の表情が険しくなった。周囲にハイデッカーのおとり捜査が無いことを確かめ、伸縮警棒を構える。「テメッコラー!ここは俺の餌場ッコラー!?」蠢く人影はノイズ壁の付近にうずくまったまま、罵声にも反応しない。スカベンジャー市民のこめかみに血管が浮いた。

2016-03-15 23:25:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アッコラー!臓器オラー!隠し持ッコラー!?」スカベンジャー市民はうずくまった人影に襲いかかった。棒で叩く!「アッコラー!」「アイエエエ!」「スッゾオラー!」「アイエエエ!」「ザッケンナコラー!」「アイエッ!」その者は怯えながら棒を手で押さえ、掴んで止めた。「あン?」「ヤメテ」

2016-03-15 23:28:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何?」「ちょっとやめないか、ね、君」上目遣いに見上げるのは、頬かむりを被った、年齢不詳の浮浪者である。汚れた着流しがはだけ、胸元に「禅」の漢字が垣間見えた。スカベンジャー市民は唾を呑んだ。なにか異常だ。「これ。いわばカラテ鉱石だよ。やめないか」浮浪者は地面の黒い結晶を示した。

2016-03-15 23:32:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こんな場所にこんな生成物が。これは……結晶物だよ。この場所がこうなる前はきっと無かっただろう!そうでしょう!ね?」「え……な……」スカベンジャー市民は何一つ意味がわからず、そして警棒を掴む手の力も意外に強く、狼狽えた。「アイエエ!」力任せに振り払い、浮浪者を殴りつけて逃走!

2016-03-15 23:35:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

うつ伏せに倒れた浮浪者は、やがて身を起こし、先程まで行っていた作業を再開した。つまり、ノミとハンマーで、黒い結晶物の根本を掘り始めたのだ。「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」筋張った腕に血管が浮き上がり、見開かれた目が超自然的な輝きを帯びる。頬かむりはざわざわと揺れ、口元を覆う。

2016-03-15 23:38:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」KRACK!微細な破片を01拡散させながら、砕けた黒い結晶物はウミノの手に宝石めいて収まった。ウミノは満足気に目を細めた。それから、恐怖とともに、0と1が無限に流れ落ちる濡れた壁を見つめた。壁の向こうに何かが見える。見えるようで、見えない。「御用!御用!」その時だ。

2016-03-15 23:41:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

御用サイレン電子音と雨水を蹴散らすタイヤの騒音が勢い良くドリフトし、接近してきた。「アイエッ!」ウミノは尻餅をついた。たちまち横付けしたハイデッカー車両のドアが開き、同じ顔をしたハイデッカーがぞろぞろと降りてきて、素早くウミノの腕を掴み上げた。「スッゾ市民!IDを提示オラー!」

2016-03-15 23:44:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「わ、私は、ウミノだが」ウミノはひきつった笑みを浮かべた。「ザッケンナコラー市民協力!」警棒で殴る!「アイエエエ!」そして引きずり込もうとする!「怪しいので逮捕権行使!」「アオオオーン!」その時だ。犬の吠え声。否、狼?否……コヨーテが車両を飛び越え、ハイデッカーに襲いかかった。

2016-03-15 23:48:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「グワーッ!」ハイデッカーの首筋から緑の血が噴き出した。爪攻撃だ!「GRRRR!」「ザッケンナコラー犬!」BLAMBLAMBLAMBLAM!ハイデッカーが拳銃と電子警棒で応戦!捉えられない!「GRRRR!」「グワーッ!」更に一人が緑の血を噴いて倒れる!重金属酸性雨が洗い流す!

2016-03-15 23:50:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アッコラー!」一人は電子警棒をナガドスに変形させた。ヤクザ!「スッゾオラー!」車内から更に一人が飛び出し、ショットガンを向ける!コンマ2秒後、彼らの後頭部に桜色に光るオリガミが衝突、「「グワーッ!」」炸裂して仕留めた。雨を散らし、小柄な若い女が走ってくる。瞳の桜色の光が鎮まる。

2016-03-15 23:56:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「大丈夫?」「ウーフ!ウーフ!」コヨーテは鳴き声をあげた。若い女は周囲を見渡した。「……いない」「さッすが逃げ足速いぜ」コヨーテがいた場所にはいつの間にかかわりに長い黒髪の男がアグラをかいて座っていた。「参ったなあ……本当迷惑だな、ハイデッカーは……働き過ぎ……」男は溜息をつく。

2016-03-16 00:01:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

若い女の名はヤモト。男の方はフィルギア。見ての通り、どちらもニンジャである。「この雨の勢いじゃ、どっちに行ったか……」「どうだろうな」フィルギアは呟き、地面に生えた黒い結晶を手で触れた。「ともあれ、アイツで間違いないよ。目撃情報通りだ。ニチョームの周りで、何か掘ってるッて……」

2016-03-16 00:08:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二言三言、言葉をかわしてから、彼らは走りだした。走りながら、フィルギアはコヨーテに姿を変えた。裏路地から裏路地へ、彼らはジグザグに移動し、徐々にニチョームの壁を遠ざかった。やがてコヨーテが足を止め、ヤモトも従った。フィルギアは再び人の姿を取り、首を振った。「惜しい」

2016-03-16 00:11:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうか……」ヤモトは俯き、革製ライダース・ジャケットのポケットに手を入れた。腰に帯びたひとふりのカタナの銘は、カロウシ。首元の桜色の超自然のマフラーがひとりでにほどけ、宙に散った。「だけど希望はある」フィルギアは言った。「実際、噂が真実だった事が確かめられたし、もうすぐさ」

2016-03-16 00:18:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そうだね」ヤモトは相槌を打ったが、その声はやや沈んでいる。「元気出しなよ」とフィルギア。「ホームシックにはまだ早いさ。なる奴はなるだろうけど」「大丈夫」ヤモトは頷いた。フィルギアは歩き出した。「ま、壁まで近づくと、どうしてもなァ」2人は路地裏を抜け出し、繁華街の雑踏に紛れる。

2016-03-16 00:22:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「安い、安い、実際安い」「我が家の警察!プロパトロールチャン!」「そのお金、我が社に預けてみよう」広告音声、ネオン看板、行き交う人々。繁華街の人の波は絶えていない。今はまだ。そして、少なくともニチョームは無事だ。恐らくは。だが、それを確かめる手段が無い。手段を作らねばならない。

2016-03-16 00:32:23