風車よ回れ、春をもたらす風を受け!#3 生まれ変わる風◆2
_少年は静かに、自分の中で答えを考えていた。びゅうびゅうと吹き付ける雨風が、彼の短い前髪をべったりと額に張り付ける。ずぶぬれの服で、震えながら立っていた。 そして、ふっと笑った。 「街を滅ぼすサンダーシルフは、もういない」 静かにシルフに歩み寄る。 71
2016-04-03 14:35:57「堅麦ってさ、最初は誰も食べれるなんて思ってなかった。どこかの物好きがさ、風車で挽いてみて、水でこねて、発酵させて、焼き上げて……ようやく食べれることに気付いたんだ。そして、みんなに笑顔をもたらした。それもこれも、風車があったから気づけたんだ」 72
2016-04-03 14:42:08「僕は君の一側面しか知らなかった。硬い麦の殻しか知らなかった。でも、本当は、街のことを考える優しいシルフだったんだ」 少年はやりきれない思いを抱えていた。少年も、シルフも、街を救いたいという思いは同じだった。それが、些細なことで衝突している。 73
2016-04-03 14:47:47_少年はゆっくりと抱えるしぐさをする。それは赤子を抱くしぐさ。街に伝わる、古い挨拶の形。 「街は君を育ててきた。僕らを育てて、あなたも育ててきた。この街はゆりかごだよ。同じ夢を抱き、同じ愛をはぐくむ。僕らは一つなんだ」 雨粒はまるで初夏の雨のように温かだった。 74
2016-04-03 14:56:44_まるで熱い涙を全身に浴びているように、少年はずぶぬれになっている。 「最初は悲劇だった。でも、僕らはシルフと共に生きて、あなたもまた、街に育てられ、優しくなった。いつしかすれ違うようになっていた。避雷針の迷信が生まれ、言葉を交わす呪文まで忘れてしまった」 75
2016-04-03 15:04:53「いままで力を暴走させたからってなんだよ、過ちを犯したからってなんだよ、それが永遠に続くわけないじゃないか。あなたはこんなにも優しく変わった。これからも変わっていけるんだ。何度でも、生まれ変わっていけるんだ。凶暴で、荒れ狂う身を捨てて、新しい自分へと……」 76
2016-04-03 15:09:35「その方法が分からない……わたくしには」 「ぶつけてみなよ、力をさ」 ちらりと背後を見る少年。レジルは避雷針の隣で、親指を立てた。避雷針が完成したのだ。 「あなたが優しくなったのと同じだけ、僕らは強くなったんだ」 階下では、たくさんの男たちが補修を頑張っている。 77
2016-04-03 15:19:48「僕らは強く成長したんだ。君が思うよりもずっと……雷を放て! 過ちを犯した、幻想を打ち砕け!」 サンダーシルフの目が一斉に閉じられる。迸る、致死量の電圧、すさまじい光を帯びた稲妻! それらは全て避雷針に吸収された。 78
2016-04-03 15:25:16_吸収された電流は、長く伸びたアースへ向かって流れていき、はるか下の地面へと消えていった。 レジルも、ミレウェも、少年も無事だった。ミレウェはびっくりして目を皿のようにしていたが。 「ほら、大丈夫だ」 79
2016-04-03 15:30:24「嵐は……嵐はどうするんだ」 「それはあなたの目の前で、すでに示されているよ」 少年はそう言って塔の縁から身を乗り出し、階下を指さした。そこには修復を終えて、腕を掲げる男たちが勢ぞろいしていた。 彼らは直すのだ。壊れたら、何度でも! 80
2016-04-03 15:37:29【用語解説】 【シルフ】 かつて魔力なき世界に、魔力が満ちて世界が滅んだ際、最初に魔力から生まれた生命。身体は全て魔力で出来ていて、あらゆる場所に生息している。特に有名なのは大気シルフと、鉱石シルフと、海流シルフ。それぞれ気体・固体・液体の性質を持つ。地球で言う妖精や精霊の類
2016-04-03 15:47:57