【こじあけ恩返し】福間健二 #k2fact142
ちがう理由、ちがう季節、ちがう逃げ方。全部、宿題になるのかと思った。光る目がふりむく。怖くはないけど、胸が熱くなって、門の外、忘れられている傘の言い分を聞く。風に抗議した。骨折した。本体はどうなってもいいと「心の死」を舞いあがらせたのだ。(こじあけ恩返し1)#k2fact142
2016-04-18 17:34:08なのに、空は何も語らない。何も撤回しない。地面を見る。地面には少なくともさまざまな表情がある。とくに雨に残された黒いシミがなにか言いたげだ。もとはどういう汚れでも、いまは絵をつくる。人々よ、見るだけで満足しなくていい。踏んでいいってこと。(こじあけ恩返し2)#k2fact142
2016-04-20 08:17:45徐々に城ができてくる。いつでも壊せると思いながら、濃い目のハイボールを飲みつづけた。つまみは、高菜、蕗、タケノコ。醤油味。何を拒否し、何に抵抗しているのか。月曜日の光る目がまだ怖い。黒い種子を散らばらせて死のうとする二人の女性の目だった。(こじあけ恩返し3)#k2fact142
2016-04-21 08:50:00芯を昂ぶらせる。芯にエネルギーをもつ。同じではないとしたら、どちらが濃い黒を走らせるか。ぼくは悩みながら絵を描く。乗り換え駅を通りすぎて、目を閉じて。人の気配の残る地面とそうじゃない地面。どちらも揺れる。古びた黒板の文字。数字だけが青い。(こじあけ恩返し4)#k2fact142
2016-04-22 11:35:46さらに目を閉じて見る。処分を保留されて消え去ることのできない「人間以後」へと開く窓。そうだったのか、あなたは。まぶた、鼻、口、あご、どこからも蜜でも苦汁でもないものを分泌して、この曇った社会のだれの「人間以前」を立ちあがらせようというのだ。(こじあけ恩返し5)#k2fact142
2016-04-23 10:19:06闇に落ちていく長靴を見送りながら、体、とくに右足の、秘密、バレてるんだなと思う。このぼくの途中状態が出ていく地上は、迷路の省略が次々におこり、もったいぶった休憩所への標識などとっくに消えた荒れ放題の庭。草の生命力、あたりまえのことを言うな。(こじあけ恩返し6)#k2fact142
2016-04-25 09:54:17復元不可能なものが折れた本体を光と埃のなかにさらに折る。何を憎まないための、ゆるやかな意外性だろう。概念と場所を奪われ、獲物の通る道もわからなくなって、長靴研究所の悪漢たち、それでもどうでも地面の拾えるものを拾い、小さな花はもう踏まない。(こじあけ恩返し7)#k2fact142
2016-04-26 09:33:59あったかくなったね。うん、同時に二つ以上の場所に出没して、とくに海の近く、あるいは狭い通りですれちがいたい異性の、春の目ざめを襲うマスタード色の波動の、影の共作者。こんな境遇にいつまで辛抱できるだろう。あっ、脱いだ上着を忘れるところだった。(こじあけ恩返し8)#k2fact142
2016-04-27 13:48:48この町の未来。×をいくら付けられても、なにか言うために身を乗りだした。でも、届かない。ネズミ一匹逮捕できない。もう従うべきルールなどない。どうするか。魂をあげます。この胸から飛ぶ折鶴が舞いおりる暗がりに立ち、出会う影に自分を運ばせるのです。(こじあけ恩返し9)#k2fact142
2016-04-29 18:38:15シャツの第一ボタンを留めて。さびしい帰り道に出てくる謎の子どもがぼくだ。ほら、帽子がよく似合うでしょう。この帽子、あなたの問いへのひとつの答だとしても、あなたと同じくらい毎日の退屈な往復に疲れている。再発見、だめ。反省なしの炸裂で恩返し。(こじあけ恩返し10)#k2fact142
2016-04-30 08:31:17