ニンジャスレイヤー二次創作【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】#3

◆無名のサンシタ @MMMwithbe 第一作◆公式と関係が一切ない◆身勝手◆ #1:http://togetter.com/li/963105 #2:http://togetter.com/li/963850 #3:このまとめ 続きを読む
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プロキオン @MMMwithbe

【テンダー・ホワイト・ドラゴン・アンド・ブルタル・レッド・ブラック・ドラゴン】#3

2016-05-01 15:45:02
プロキオン @MMMwithbe

第9回TKグランプリの2日後、日暮れ前の夕刻。コクボ・ストリートの大通りから一本奥に入ったところにある「ペク・ファラン・テコンドー・ドージョー」。やや広い前庭を抜けた先、ドージョーの玄関口で、フジキド・ケンジはペク・ファランと相対した。

2016-05-01 15:45:32
プロキオン @MMMwithbe

「ドーモ、はじめましてペク・ファラン=サン。日刊イカサマ・スポーツのヤマモトと申します。ヨロシク・オネガイシマス」スーツにネクタイ、黒縁セル眼鏡にシチサン・ヘアー。典型的サラリマン新聞記者に変装したフジキドは、90度オジギとともに偽造名刺を差し出した。胸元には偽造社員ID証。

2016-05-01 15:45:46
プロキオン @MMMwithbe

「ドーモ、はじめましてヤマモト=サン。ペク・ファランです。名刺というものをあまり使わない生活なもので、スミマセン。こちらこそ、ヨロシク・オネガイシマス」襟元を黒く縁取ったジュー・ウェア姿のファランは、名刺を礼儀正しく両手で受け取り、爽やかな笑顔とともに60度オジギをした。

2016-05-01 15:46:01
プロキオン @MMMwithbe

「重そうなカバンですね」「別のところで録音が必要な取材をしてきて、そのままこちらへうかがいましたもので。大事なものですからウカツに車の中に置いてはおけません」名刺交換の際にフジキドが足元に置いたバイオ皮革のビジネスバッグからは、武骨な録音機材の取っ手やスイッチがのぞいている。

2016-05-01 15:46:15
プロキオン @MMMwithbe

それは実際、録音機材としての機能も有している。しかし今回の「取材」でこの機材が担う役割は、盗聴器の電波を探知すること。これはマッポ無線傍受装置やIRCニンジャ情報探知プログラムと同様、暗黒非合法探偵のシークレット・アイテムの一つ。耳に入れた骨伝導イヤフォンと無線LAN接続済みだ。

2016-05-01 15:47:24
プロキオン @MMMwithbe

一昨日、TKグランプリへの潜入調査が空振りに終わった夜、フジキドは次の手を打った。ペク・ファラン本人とそのドージョーへの直接取材。ナンシーの手を借りてスポーツ新聞社記者の偽造IDを電子的に仕込んでもらい、翌日にはファランへの取材申し込みと物理IDカードおよび名刺の偽造を済ませた。

2016-05-01 15:47:48
プロキオン @MMMwithbe

ジアゲ・ビズを行うヤクザクランが、内部情報を得るために電話やドージョー内部の盗聴を行っているかもしれぬ。ニンジャが関与しているなら、サンシタであろうとも一般の建物への侵入など容易い。よしんばニンジャの関与がなくとも、ファラン本人から何らかの事情を聞き出せる可能性もある。

2016-05-01 15:48:08
プロキオン @MMMwithbe

一般的にプロ格闘技の選手は、試合の翌日は休養に充て、試合で受けたダメージの回復を図るものだ。いわば完全プライベートの時間。その日の朝一番に取材要請のIRCメッセージを送るという、フジキドのややシツレイな行動にも、ファランは快く応じた。翌日の夕方に取材がセッティングされた。

2016-05-01 15:48:21
プロキオン @MMMwithbe

ファランのドージョーは昨年新築されたばかりの真新しい建物だ。カワラ屋根の両端には堂々たる鬼瓦。メイン練習場はタタミ10枚四方の広さがあり、一辺には木人やサンドバッグなどのカラテ・トレーニング・アイテムが並ぶ。別の一辺の棚にはケンドーめいた形状の胴体防具や透明フェイスガードが多数。

2016-05-01 15:49:00
プロキオン @MMMwithbe

この日はカラテ・トレーニング・ジムとしての営業日であり、ジュー・ウェアを着た30人ほどの男女が、メイン練習場でテコンドーのファンダメンタル・ムーブの練習を始めたところだった。学校を終えた小中学生の姿も多い。構え、チャギ・キック、チルギ・パンチ。ひとつひとつの動作を丁寧に繰り返す。

2016-05-01 15:49:14
プロキオン @MMMwithbe

「イヤーッ!」「「「イヤーッ!」」」「イヤーッ!」「「「イヤーッ!」」」等間隔に並んだ男女の前で手本を示すのは、カラテカのイメージにはいささか似つかわしくない、太鼓腹で禿頭の中年男性。だが、動と静がはっきり切り替わるキレのあるムーブは、確かに十分なカラテを積んだ者のそれだ。

2016-05-01 15:49:30
プロキオン @MMMwithbe

「彼はドージョーの師範代、チャン・ヨンソン=サンです。運営の実務などもやってもらっています。私と妻、そしてヨンソン=サン。このドージョーは3人で始めました」ドージョーの隅にアグラしたファランが、トレーニングの様子を見ながら説明する。フジキドは逐一メモを取るふりをする。

2016-05-01 15:50:51
プロキオン @MMMwithbe

「TKグランプリで毎月ファイトしながら、ドージョーでの指導も続けているのですか? 大変では?」フジキドは尋ねる。「イイエ。今は格闘技振興連盟やTVに持ち上げられていても、格闘家ペク・ファランとしての人生は長く続けることはできません。引退後に家族を養うことも考える必要があります」

2016-05-01 15:51:25
プロキオン @MMMwithbe

「それに、カラテカにとってドージョーとは、ただの生活手段ではありません。己のワザとスピリットを磨く場所であり、テコンドーをもっと日本社会に広めるためのベースキャンプであり、地域の人々と交流を持つ拠点でもある。また、打ち込めるものを子供たちに提供することは、非行防止にもなります」

2016-05-01 15:51:58
プロキオン @MMMwithbe

「非行防止、ですか」退廃と諦念が広がるマッポーの世に、管理のための欺瞞でなくそのような言葉を使う者がいることに、フジキドは驚いた。「ハイ。センタ試験が人生を大きく左右する学歴社会の上、親御さんたちも仕事に忙殺されていることが多く、子供たちの心には淀みが溜まる。発散の場が必要です」

2016-05-01 15:52:11
プロキオン @MMMwithbe

「最初は身体を動かすことが苦手でも、子供から少しでも話を聞ければそれでいいと思っています。似たような環境にある他の子たちと出会い、建前でないユウジョウというものが現実にあるのだと、彼らには知ってほしい。――私自身も二人の息子を育てている今、改めてそう思うのです」

2016-05-01 15:52:22
プロキオン @MMMwithbe

フジキドはメモを取るふりをしながら、内心で感嘆していた。ファランの話す内容とその表情に、誇張や嘘は微塵も感じられない。だが、この退廃都市ネオサイタマにおいてそのような真摯な想いを保ち続けることがいかに難しいか、それを痛感させられる多くの事例をフジキドはこれまで見てきている。

2016-05-01 15:52:35
プロキオン @MMMwithbe

フジキドは話題を展開させた。「あなたがTKグランプリへの出場……いえ、そもそも『トーシン・ドラゴンズ・デン』への出演を決めたきっかけは何ですか?」『トーシン・ドラゴンズ・デン』とは、現在シーズン4がNSTVで放映中の、TKグランプリ出場を目指す格闘家たちのリアリティ・ショーだ。

2016-05-01 15:52:49
プロキオン @MMMwithbe

ペク・ファランは、TKグランプリ本戦大会シリーズ開始前に放映されたTDDシーズン1の優勝者である。打撃技のみのカラテであり、人格的にもキマジメに過ぎてTV的面白味の薄いテコンドー使いは、シーズン1開始当初は泡沫的存在であったが、その実力でアイキドー8段の猛者との最終決戦を制した。

2016-05-01 15:54:28
プロキオン @MMMwithbe

「お恥ずかしい話ですが……端的に言って、マネーです。以前のドージョーは老朽化が激しかった。建て直すためのローンを組むには、頭金と信用が必要でした。ドージョー運営で妻やヨンソン=サンには迷惑をかけ続けてきましたから、自分でそれを用意する手段が他に思いつかなかったのです」

2016-05-01 15:54:40
プロキオン @MMMwithbe

はにかんで軽く頭を掻き、ファランは続けた。「実際危険なチャレンジでした。途中で脱落すれば、まだ1歳の息子二人を抱えて路頭に迷う恐れもありました。そして、それまでにユウジョウを交わした仲間も、リングに立てば倒すべき相手。あの番組がなければ今の私はありませんが……複雑です」

2016-05-01 15:54:51
プロキオン @MMMwithbe

「弊紙の情報では、ヤマ統括本部長はTKグランプリの今後を背負うスターとして、貴方に大変強い期待を寄せているようです。それについては?」「……どうでしょうか。一昨日のような無茶なマッチングは容赦願いたいところですが」ファランの表情にわずかな陰が差したのをフジキドは見逃さなかった。

2016-05-01 15:55:08
プロキオン @MMMwithbe

手帳にペンを適当に走らせながら、フジキドは骨伝導イヤフォンの反応にずっと耳を澄ませていた。録音をしていると見せかけて傍らに置いた機材は、周辺の電波をサーチし続けている。しかし、盗聴器の電波らしき反応は皆無。少し迷ったが、フジキドは不自然な流れを承知の上で切り出した。

2016-05-01 15:55:26