- android_girls
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Type:Generic/Home Sex:Female Name:Kokona Era:B/Middle
2016-05-05 18:15:11ここはとある町の商店街。止まることなく続く人間の技術・文化の進歩による副次的な作用として発生した懐古主義に上手く助けられ、随分昔からありがちな「シャッター商店街化」を免れた商店街の一つである。
2016-05-05 18:19:51この商店街に一つの喫茶店がある。名前は「喫茶 ジュン」。懐かしさを感じさせながらも時代に取り残されないモダンさを有するその喫茶店は、この商店街の中でもなかなかの人気店舗だった。
2016-05-05 18:22:19人当たりのいいマスターと、看板娘のアンドロイドの二人で経営されている喫茶ジュン。これはその喫茶ジュンの、なんでもない日常のおはなしである。
2016-05-05 18:24:23その日は、日差しが暖かい日だった。午前6時。「……ん」喫茶店の二階、つまりこの店のマスターと看板娘の居住スペースにある部屋のベッドの中で、二つの塊がもぞもぞと動いていた。そのうち片方の塊がゆっくりと起き上がる。
2016-05-05 18:26:13クリーム色のセミロング。眠たげな茶色の目。厚手のパジャマのボタンは襟元までしっかりと閉められている。やや余り気味の袖から覗く、細く白い指。その指で自分の頬を少し撫でた後、隣の塊に言った。「マスター、起きてください」
2016-05-05 18:28:22彼女はこの店の看板娘アンドロイド、「ここな」である。彼女の言うマスターとは喫茶店のマスターを指すのではなく、自分を所有している人物を指していた。結局同じ人物である事には変わりないのだが。
2016-05-05 18:30:29「……あと5分」ベッドに張り付いたままの塊が寝ぼけた声を上げる。「ダメですよ。マスター、いっつも5分って言って10分寝るじゃないですか」「5分で起きてるよ」「じゃあ、残りの5分は?」「ゴロゴロしてる」「もう」ここなが肩を落とす。
2016-05-05 18:32:44「それじゃあ10分寝てるのと変わりませんよ」「違う、絶対違うもん」「違わないです。ほら早く起きて……」ここなが言いかけた時、塊から男性の腕がぬっと出てきてここなを優しく抱き寄せた。愛する人に対するような優しさ。
2016-05-05 18:35:31されるがままに、いや寧ろ初めからそうしたかったかのように、ここなは塊に飲み込まれる。中にはこの喫茶店のオーナー—名を宏和と言う—が、優しく微笑みながら寝転んでいた。ここなが近づく。互いの額と鼻が触れ合う。「おはよう」「おはようございます、マスター」
2016-05-05 18:37:12「今日、何日?」「5月の5日ですよ」「祝日だよね?」「はい」「じゃあさ、今日お休みにしない?」この喫茶店は不定休である。もちろん、店主がこんなだからだ。「ダメですよ」「ダメかあ」「ほら、起きましょ?」「もうちょっと待って」
2016-05-05 18:39:25至近距離で額を触れさせあいながら、言葉も交わさずにただ互いを見つめあう。「…………」「…………」「……あ」「どうしたの?」「目やに、ついてますよ」ここなの手が宏和の頬に触れる。親指で目尻を優しく擦り、目やにを取る。その親指はゆっくりと下に降り、宏和の唇をなぞった。
2016-05-05 18:41:51「顔洗わなきゃ」「あと、歯も磨いて」「服着て」「下降りて」「カウンターで寝る」「ダメです」「……やっぱり?」「はい」「仕方ないか、起きよ起きよ」触れ合っていた額が離れる。宏和は上体を持ち上げ、ベッドから降りた。それにここなも続く。
2016-05-05 18:44:00午前11時。そろそろお昼時ということもあって、店内が少しずつ混み始めた。6つあるカウンター席は2つ埋まり、3つのボックス席のうち一つはカップルが着席。不思議と「1グループが来て、出て、また1グループ来る」という事が多い喫茶ジュンでは、3グループが一斉に来るのは珍しい事だった。
2016-05-05 19:17:56カウンターでは宏和がのんびりとコーヒーを淹れ、その奥の厨房では三角巾を着けたここながせっせとチキンカツサンドを調理していた。泡が幾度も連続して弾ける音とパン粉が熱せられ徐々に揚がっていく時の香ばしい香りが厨房に立ち込める。
2016-05-05 19:19:58「はい、どうぞ」宏和はカウンター席の客に食後のコーヒーを差し出した。今日のブレンドは食後にぴったりのさっぱりとした甘みと酸味を前面に出したもの。ある種フルーツ的な、果実のような味わいのブレンドだ。客がコーヒーを楽しむ間に、宏和が厨房へと入る。
2016-05-05 19:22:56「ここー」ここ、というのは指示語ではなく、ここなの愛称である。「はーい」「鶏サンドもう一個出せる?」「追加オーダーですか?」「んーん、俺の分」「はーい」サンド用のキャベツを千切りにしながら、ここなはこの厨房を管理するシステムへとアクセスする。
2016-05-05 19:25:06今の時代、厨房を一つのネットワークと見なし専用のシステムで管理する事はそう珍しい事ではない。IoTの技術が発達した事により、キッチン用品のほとんどは専用インターフェース越しに管理できるようになった。この厨房の場合、インターフェースはここなである。
2016-05-05 19:27:10アンドロイドであるここなにとって、何らかのシステムにアクセスし専用の指示を出すという事は言ってみれば人間が身振り手振りでコミュニケーションを取るほど造作もない事である。身振り手振りが2進数の羅列に置き換わっただけなのだ。
2016-05-05 19:29:24今この瞬間もここなはキャベツを切りながらガスレンジの火力を調節し、素材の残量を見極め、今日の仕事終わりに何を発注するか確認しながら夕飯後のデザートは何にするかを考えていた。ティラミスとエクレアどっちにしようか。
2016-05-05 19:31:06