【「お前のお前」の責任⑤】「二人称の関係」に入らない者は、その責任を糾弾される日本教の世界/~自分の純粋性を証明すると共に「二人称の関係」に入ろうとするのが日本人の「責任」の取り方~

イザヤ・ベンダサン『日本教について~あるユダヤ人への手紙~』/「お前のお前」の責任/純粋人と責任/137頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【純粋人と責任】さてここで、日本人にとって「責任」とは何かという前述の問題に入るところまできました。<『日本教について/イザヤ・ベンダサン』

2016-05-04 14:38:56
山本七平bot @yamamoto7hei

②二人称の関係に入らなかった事が、その者の責任として糾弾さるべきだ(一度も農民と話し合わなかった政府の責任だ)という日本教独特の考え方を一つの疑問として最初に取り上げたのは、私の知る限りでは有名な作家夏目漱石です。 彼の初期の作品『坊っちゃん』に次のような描写があります。

2016-05-04 15:09:15
山本七平bot @yamamoto7hei

③坊っちゃんが赴任して間もなく、宿直の夜、寄宿合の生徒たちが集団で、彼をからかって騒動を起すのですが、この生徒への処罰を合議する教職員の会議で、校長の「狸」が次のような意見をのべます。

2016-05-04 15:38:54
山本七平bot @yamamoto7hei

④【学校の職員や生徒に過失のあるのは、みんな自分の寡徳(かとく)のいたすところで、何か事件があるたびに、自分はよくこれで校長が勤まるとひそかに慚愧(ざんき)の念に堪えんが、不幸にして今回もまたかかる騒動をひき起こしたのは、深ぐ諸君に向かって謝罪しなければならん。】

2016-05-04 16:09:14
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤【しかし一たび起こった以上はしかたがない、どうにか処分をせんければならん、事実はすでに諸君の御承知のとおりであるからして、善後策について腹蔵のないことを参考のためにお述べください】

2016-05-04 16:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥これに対して「坊っちゃん」は次のような感想を抱きます。 【おれは校長の言葉を聞いて、なるほど校長だの狸だのというものは、えらいことを言うもんだと感心した。】

2016-05-04 17:09:14
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦【こう校長が何もかも責任を受けて、自分の咎だとか、不徳だとかいうくらいなら、生徒を処分するのはやめにして、自分からさきへ免職になったら、よさそうなもんだ。 そうすればこんな面倒な会議なんぞ開く必要もなくなるわけだ。 第一常識から言ってもわかってる。】

2016-05-04 17:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧【おれがおとなしく宿直をする。生徒が乱暴をする。わるいのは校長でもなけりゃ、おれでもない、生徒だけにきまってる。 (中略) 人の尻を自分でしょいこんで、おれの尻だ、おれの尻だと吹き散らすやつが、どこの国にあるもんか、狸でなくっちゃできる芸当じゃない。】

2016-05-04 18:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨【彼はこんな条理にかなわない議論を吐いて、得意気に一同を見回した。 ところがだれも口を開くものがない。】 まことにその通りと思われますが、しかし坊っちゃんのこの感想は、日本教では誤りです。

2016-05-04 18:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩校長の狸が言っていることは 「自分は(寡徳で)純粋度が足りなく、生徒との『対話』が不完全で『二人称』の関係に入りえなかった事は、自分の責任だ」 と言っているのですから。

2016-05-04 19:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪そして「それは私の責任だ」という事によって、逆に自分の純粋性を証明すると共に「二人称」の関係に入ろうとしているのですから―― これは、西欧の「責任」という言葉とは全く無関係です。

2016-05-04 19:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫「責任」という日本語には「応答の義務を負う=責任(レスポンスビリティ)」という意味は全くないのみならず、「私の責任だ」といえば逆に「応答の義務がなくなる」のです。

2016-05-04 20:09:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬従って、もしこれに対して責任を追及すれば(応答の義務の履行を要求すれば)、逆に 「相手は自分の責任を認めているのだから追及するな」 といわれ、追及する方が逆に非難されます。

2016-05-04 20:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭これは非常に面白い状態ですが、このことの特異性は日本人も気づいているらしく、外国旅行の案内書などには 「外国では絶対に軽々しく『私の責任だ』などと言ってはいけない。そんなことを言ったら、とんでもない目に会う」 という注意書きが載っております。

2016-05-04 21:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮これは考えてみれば二人称の世界では当然のことで、「私の責任」とはつまるところ「お前のお前の責任」ですから、この場合、応答の義務を負うのは「お前」の方になります。

2016-05-04 21:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯従って 「相手が私の責任だと言っているのだから(すなわち『純粋人として対話の関係に入ろうとしているのだから)お前も何とかいったらどうだ(それに応答すべきだ)」 ということになります。 この関係が全日本的な規模で非常に明確に出ているのが「天皇の戦争責任」という問題です。

2016-05-04 22:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

①私の入手しました様々の記録によれば、天皇自身は最初から自らの戦争責任をはっきりと認めております。 特に戦争直後に、東条元首相以下の戦争責任者を日本側で(占領軍に裁判される以前に)裁判すべきだという意見があり、時の内閣がこれを上申しておりますが、(続

2016-05-04 22:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

②続>天皇はこれに対して 「誰の名で裁くのか、私の名でか?それは出来ない」 とはっきり拒否しており、占領軍の戦犯裁判にも自ら出廷する意向をはっきりのべております。<『日本教について/イザヤ・ベンダサン』

2016-05-04 23:09:17
山本七平bot @yamamoto7hei

③この天皇の意向は逆に占領軍側から拒否されるという結果になったわけですが、これには、日本に帰化し戦争中も日本に住み続けた米人宣教師ヴォーリス氏の意見(マッカーサー元帥への直接の)が、大きな比重をもっていたようです。

2016-05-04 23:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

④氏は 「天皇制がなくなれば(これは必ずしも『天皇個人』という意味ではなく)日本は大混乱に陥る」 と言ったといわれております。 生涯の大部分を日本で送り、日本人と結婚していた氏は、天皇制で表徴される二人称の世界をよく理解していたと思います。

2016-05-05 08:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤天皇は自分の「責任」を認め、ついで全日本を巡幸して各地で「対話集会」を開き、国民はこれに対して「一億総ざんげ」で応答し、「天皇は国民のため、国民は天皇のため」という「お前のお前」すなわち二人称の世界は、再びここで確立しました。

2016-05-05 08:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥当時の日本は恩田木工が登場したとき以上にあらゆる面で破産状態でしたから、これこそ実に見事な「対話方式」による再建でした。 もちろん、あらゆる意味の「債務」はこれで帳消しですが、「誰一人お上をうらむ者なく」と木工が言ったのと全く同じ状態が現出したわけです。

2016-05-05 09:09:18
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦そして木工が『日暮硯』で称揚されているように、日本人は今でも、当時のことを非常になつかしげに回想します。 当時の日本には共産党を中心とする広範な反天皇グループがありました。 そしてこの人たちのとった行動が、また非常に面白いのです。

2016-05-05 09:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧彼らは「天皇は純粋でない」「天皇の行為は純粋でない」ということを証明することにのみ熱中しました。

2016-05-05 10:09:06
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨そして「朕ハタラフク食ッテイル、汝臣民餓エテ死ネ」といったプラカードを掲げて宮城に乱入し、厨房の冷蔵庫を調べてその内容を公表するという笑劇(私の創作ではありません)まで演じ、また、そのグループのある雑誌は、天皇に隠し子がいるという捏造記事を執拗に流したりしました。

2016-05-05 10:38:52