【「お前のお前」の責任①】「天秤」と「二人称」の世界には”議論”はありえない/~現実(実体語)に基づく弱気を口にした人間が全責任を負わされ、口をつぐまざるをえない日本社会~

イザヤ・ベンダサン『日本教について~あるユダヤ人への手紙~』/「お前のお前」の責任/日本人の「責任」/123頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【「お前のお前」の責任】桂首相の「独り言」を岸首相の「独り言」に書き替えるのは、戒厳令発布を自衛隊治安出動に替え、講和を安保に、責任問題を強行採決に…大観艦式…やらをアイク訪日歓迎にというように替えて読めば、それだけで完全な書き替えになるといっても過言ではありません。

2016-05-01 19:38:50
山本七平bot @yamamoto7hei

②いわば同じものですから、ここにわざわざその書き直しを再録する必要はないと存じます。 この場合、当然に、すべての人に起る疑問があります。 一体なぜ政府は、実情を率直に国民に知らせないのだろうか、という疑問です。<『日本教について/イザヤ・ベンダサン』

2016-05-01 20:09:24
山本七平bot @yamamoto7hei

③桂首相は、あのような「ひとりごと」を言っていないで、日本はすでに動員力はゼロ、予備の師団もゼロ、戦費もゼロ、否それどころか戦線を維持するため必要な最小限の銃砲弾さえゼロに近いこと、(続

2016-05-01 20:38:57
山本七平bot @yamamoto7hei

④続>そしてこの機会を逸して長期戦になったら、恐怖すべき逆転が起ることは議論の余地のない自明のことであると、細かい資料を揃えて民に提示すれば良いではないか。 それさえすれば、バイカル博士の夢物語などは、一編の笑話として逆に国民の嘲笑を買い、自然に消滅するではないか。

2016-05-01 21:09:09
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤そのようにわかり切ったことをなぜしないで「ひとりごと」などを言っているのか、という疑問です。 これは実に不思議に見えますが、そういう現実を口にした時、どういう反論(または反発)が起るかは、日本人にはわかり切ったことなので、それが口にできないのです。

2016-05-01 21:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥反論?反論が起る筈はない。 しかしもし起ればそれを論破するのは非常にたやすい筈だから、反論が起るなら、その方が桂首相にも(また岸首相にも)有難い筈だ、 という考えは「天秤」と「二人称」の「世界」以外の世界の論理です。 pic.twitter.com/yDfFeUE3k9

2016-05-01 22:10:38
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山本七平bot @yamamoto7hei

⑦日本人はこの際、打てばひびくように、次のように言うのです。 「そういう弱気だからこそ、今日の屈辱講和を招いたのだ、その弱気が悪いのだ、政府が悪い、桂首相が悪い」と。 そして新聞も民衆もこの反論に組することは人を見るより明らかなのです。 この論理をどうお考えになりますか。

2016-05-01 22:38:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧実に奇妙な論理ですが、日本教徒はこの論理に反論できないのです。 前々便で申し上げました「北森教授殴打事件」の際に私が集めました資料にも、次々にこれと同じ論理が出てきます。

2016-05-01 23:09:16
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨日本人はよく、日支事変から太平洋戦争にかけて、軍部が言論を統制して国民に事実を知らせなかったからあのような結末になったのだと主張します。 しかしこの主張は偽りです。 もし偽りでなければ自己欺瞞です。

2016-05-01 23:38:53
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩と言って、もし誤りなら、政府は「ひとりごと」を言うのが精一杯で、それ以外には何も言い得なかった、というべきでしょう。 しかしそれでも、国民には何もかもわかっていたはずです。

2016-05-02 08:09:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪政府が発表しようがしまいが、中国の戦線は膠着状態、また日常生活の最低限の必需品は次々と姿を消し、前途には何の見通しも立っていない。

2016-05-02 08:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫日本軍が中国で保持しているのは点と線に過ぎないことは、南京の汪政権にやらせた「清郷(せいごう)工作(一定地域を掃討して面を確保しようとする政策)」に関する当時の新聞記事を見れば、だれの目にも明らかです。

2016-05-02 09:09:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬しかも大陸から復員して来るおびただしい数の兵役を完了した老兵士たちは、その実状を知人・友人・親戚等にはありのまま語っていましたから、すべての日本人は、驚くほど正確に実状を知っておりました。

2016-05-02 09:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭実状を知りかつ見通しは全くつかないが故に、国民の全員がこの事変について非常に強い不安感をもっており、従ってこの早期解決を、いらだたしいまでの焦燥感をもって待望しておりました。 それでいてだれひとりその「実状」を「ひとりごと」以上には口にできないのです。

2016-05-02 10:09:05
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮口にしたら最後、 「そういう弱気なやつがいるから今日の事態を招いたのだ」 という反論(?)に会い、その「弱気を口にした人間」が今日の事態の全責任を負う結果になるからです。

2016-05-02 10:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯日本人が太平洋戦争を自分の方から開始したのは、この論理の帰結ですが、非常に不思議なのは、この場合の「責任」とは何か、いや、日本人が「責任」という場合、それがどういう事柄を指しているかという点です。

2016-05-02 11:09:23
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰これについては後述しますが、 この論理(論理といいうるならば)がなぜ通るのか、 そして、 なぜ有識者・学者・言論機関がほぼ一致してこの論理に同調するのか、 という問題です。 これは応答できない論理ですから、議論は不可能です。 従って日本人には議論はありえません。

2016-05-02 11:38:52
山本七平bot @yamamoto7hei

⑱従って議論のかわりに、日本独特の「対話」という不思議な方法で事態を収拾することになります。 すなわち言葉を、二人称だけの関係に入るための手段として使う一定の方式です。

2016-05-02 12:09:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲これは勿論「空体語」と「実体語」の天秤の論理に基礎づけられていますが、二人称の世界と天秤との相互関係を今述べますと却って混乱すると思いますので、問題を一応「二人称だけの世界」に限り、その世界の不思議な対話方式をまず説明します。 pic.twitter.com/qFZHaowWNy

2016-05-02 12:45:22
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山本七平bot @yamamoto7hei

⑳これが明確になりませんと、日本人のいう「責任」の意味が理解できませんから、どうしてもまずこれを取り上げねばなりません。

2016-05-02 13:09:06