【実体語と空体語のバランス②】攘夷論者が政権を取った途端、開港した理由/~初代駐日領事タウンゼント・ハリスに「正義、真実の何たるかを知らない」と評された日本人~

イザヤ・ベンダサン『日本教について~あるユダヤ人への手紙~』/実体語と空体語のバランス/天秤の世界/28頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①もう一度申し上げます。分銅はたとえ、天秤皿の上のものと同じ材質でできていても、「もの」でなく「尺度」であり、分銅の材質が何であるかを論じても無意味で、要はそれが、天秤皿の上のものと、どうバランスをとっているかが問題だということです。<『日本教について』

2016-04-17 20:38:58
山本七平bot @yamamoto7hei

②「現実問題」という「実体語」の荷が天秤皿にのると、平衡を保つ為には、天秤ならば分銅の数を増し、竿秤ならば分銅の位置をずらして目盛りの高い方へあげて行かねばなりません。 こういう状況は、常に日本全体の問題にも一個人の問題にも起ります。 例をあげれば、文字通り幾らでもあります。

2016-04-17 21:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

③今から一世紀ほど前、日本が鎖国をやめて開港せざるを得ない状態になったと、殆ど全ての日本人(少なくとも知識人)が内心で感じた時、激烈な攘夷論が起りました。

2016-04-17 21:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

④当時の日本で、海外の事を最も良く知っていた筈の薩摩や長州の人々、特に島津斉彬のような人(彼は当時の日本で最も進歩した考え方の人と思います)や、彼から薫陶を受けた人々が、本心からの攘夷論者であったとは思えません。

2016-04-17 22:09:13
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤すなわち 「開港は必要である。だが攘夷を叫びうる状態も必要である」 という平衡の論理があったはずです。 従って「実体語=開港」は沈黙し、さらに、開港が必要になればなるほど攘夷の声は高くなってゆき、ついに、天秤の分銅は最大限、竿秤なら竿の端まで分銅があがって行きます。

2016-04-17 22:39:13
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥そして、その結果はどうなるか。 天秤ならば平衡が破れて一回転し、天秤皿の上の荷も分銅も落ちてしまう―― 御一新で、皿は空、分銅なしの平衡状態となります。 pic.twitter.com/NRO1nayv0O

2016-04-17 23:32:25
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山本七平bot @yamamoto7hei

⑦従って攘夷論者が政権をとったのに開港したということは別に不思議ではありません。 同じことをただ「空体語」で言っていたのですから。 これは革命と呼ぶべきことではありません。

2016-04-17 23:38:51
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧実によく似た事が第二次大戦の末期に起っています。即ち敗戦は避けられないと殆ど全ての人が内心で感じた時、分銅は極限まで上って「一億玉砕」になり、ついで天秤は一回転して重荷も分銅も落ちてしまうと、天秤皿は空で分銅なしの虚脱状態、即ち精神的空白の平衡が再現し、当然、言葉は失われます。

2016-04-18 08:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨そしていずれの場合も支点は微動もしていません。将来も同じ事が起こるでしょう。軍備撤廃を主張している政党もありますが、もしこの政党が政権をとったらどうなるか。議論の余地はありません。 攘夷論者が政権をとった時と同じ事が起こります。 pic.twitter.com/5Edp05MeHH

2016-04-18 21:53:51
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山本七平bot @yamamoto7hei

⑩もちろん一時的混乱はあります(明治維新であれ、第二次大戦の終戦時であれ、それはありましたから)。 が、それはすぐにおさまります。 「戦力なき軍隊」がすでにあるのですから、「人民の軍隊は軍隊ではない」ぐらいの主張は何でもありません。

2016-04-18 09:09:15
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪事実、ある国の軍隊はこうだとすでに主張しているのですから、それを自国にあてはめることを、この人びとが躊躇するとは、私は思いません。

2016-04-18 09:38:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫だが今までこの政党を支持していた人々が納得するだろうか?という御心配は不要です。 その人々の「考え方の型」も天秤の論理なのですから、この時こそ「人民の軍隊は軍隊ではない」事を…「条理をつくして諄々」と説けばよいのです。その条理がいかに論理的に破綻していようと少しも構いません。

2016-04-18 10:08:59
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬こういう場合、論理をもってそれに抵抗する者の運命がどうなったかは、いずれ実例をあげてお話ししますが、一言にしていえば破滅です。 一方、これを外部から見ていますと、何か非常に細かく計画的で、隠密に本心を隠し抜いた、実に狡猾そのものの行き方に見えます。

2016-04-18 10:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭初めて日本人と密接に交渉を重ねたタウンゼンド・ハリスが面白いことをいっています。 彼は日本人を「喜望峰以東の最も優れた民族である」という意味のことをのべると共に「正義、真実の何たるかを知らない」という意味のことを言っています。 この言葉ぐらい矛盾した言葉はありません。

2016-04-18 11:09:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮一言にしていえば、この「天秤の世界」を理解しかねたということでしょう。 以上のようなことは、日本では、問題の大小を問わず起ります。 そしてハリスと似た意見を持たざるを得なくなることが多いでしょう。 pic.twitter.com/0qkVJjA6lV

2016-04-18 12:05:15
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山本七平bot @yamamoto7hei

⑯だがこの場合、真に相手を理解しようとするなら、問題とすべきは、そういった個々の現象ではなく、この現象を起している平衡関係と、それを支えている支点なのです。 pic.twitter.com/ZZXenTgVn0

2016-04-18 12:10:20
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山本七平bot @yamamoto7hei

⑰この天秤の支点が実は「人間」という概念であり、それが私のいう日本教において「全能者的役割」を演じていることは、前便の「不思議な殉教」と読み合わせていただければ、ある程度は理解していただけると思います。 pic.twitter.com/SRwbUujqj7

2016-04-18 12:51:58
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山本七平bot @yamamoto7hei

⑱そこで、この支点を解明する事が日本教を解明する事ですが、その前にまず、この支点に支えられた天秤の両端にある「実体語世界」と「空体語世界=分銅」を解明し、同時にそれがどのようにしてバランスをとっているかを、私は二つの文書を鍵にして、できうる限り解いてみたいと思います。

2016-04-18 13:08:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑲それは日本において生存を許されなかった二人の日本人、山県大弐と三島由紀夫氏の著作、すなわち前者の『柳子新論』と後者の『檄文』です。 同時に、この二つへの反論…すなわち松宮主鈴の手紙と、司馬遼太郎氏の一文を、これと併行しつつ、分析していきたいと思います。

2016-04-18 13:38:59