満開の桜に包まれて安らげ!#1 古城の法則◆2
_山城を埋め尽くすように咲く桜の花。観光客は思い思いに春を楽しむ。彼らに死霊の少女は見えていない。なので、フィルとレッドは奇異な目で見られないように人の少ない場所に移動して、三人でベンチに座った。 少女は得意顔で言う。 「城跡に桜が咲く理由を考えたことがある?」 11
2016-06-01 17:19:08_同じく得意顔で考え込むレッド。 「ちょっとまって、いま最高に詩的な理由を考えるからよ……」 「ブッブー。現実はもっと泥臭くて、汗臭くて、地道な努力なのです。正解は、城跡を巡って桜の苗を植えたひとがいるということでした!」 「へぇ、それがさっき言っていた鎮魂なのかな」 12
2016-06-01 17:25:16_少女は満開に咲き誇る桜の向こうに、その人物を思い浮かべた。 「そう、ただ鎮魂のために……名も忘れられた兵士のために一人黙って桜を植えたひとがいるのよ……それって凄いことじゃない? でも、それは誰も知らない。桜を褒めるひとはたくさんいるけれど……そのひとも讃えたいの!」 13
2016-06-01 17:30:41「つまり、そのひとを宣伝すればいいわけだ。君はそのひとのことを知っているの?」 「ふふ……すべてはこの古文書に記されている!」 得意げに懐から古い巻物を取り出す少女。そこにはアヅマネシアの言葉で何かつらつらと書いてある。フィルとレッドはこの言葉を話せるが読めない。 14
2016-06-01 17:36:35_少女が言うには、桜の木を植えた伝説の人物が書いた手記のありかが、この巻物に記されているという。 「さぁ、あたしの願いを聞いてよね、助けてよね、協力してよね! 手記を一緒に探しにいきましょう!」 レッドは不思議そうな顔で古文書を見る。 15
2016-06-01 17:42:54「これどっから手に入れたの? ほら、信憑性とか……」 「の、農家の蔵から発見されたの! 確実だよ!」 「それを君はどうやって……」 「譲り受けたのよ!! 協力するの? しないの? どっちなの!」 少女の身体がガタガタ揺れる。 「フィル、これも観光だよね」 16
2016-06-01 17:47:22「ああ、観光ですね!」 フィルとレッドはそんなボロボロの説明でも快く引き受け、3人は古文書の情報を元に手記を探すことにした。 「古文書の情報によれば、この城のどこかに埋まっていることが確実なの!」 「手記って、埋めるもんか?」 「個人情報でも書いてあったのかな」 17
2016-06-01 17:52:54_少女は死霊の怪力で二人を引っ張り、城の怪しい地点に連れていく。目星はついているようだった。 「個人情報とか生活感のあるワードは禁止です! 伝説なんですから! 桜に殉じた伝説のひと!」 目的の場所は城の影になっており、雑草が生い茂っている。観光客の気配はない。 18
2016-06-01 17:57:13「げっ……こんなとこを掘り返すのかよ。スコップも魔法も持っていないよ」 「スコップなら用意しています!」 少女が草むらからスコップを取り出す。 「一流ホテルのサービスより用意がいい!」 「場所は分かっているんだから、準備していたの! 悪い!?」 19
2016-06-01 18:02:20_そのとき、フィルは誰かの存在に気付いて振り返った。桜が咲いている。その木の下に数人が固まって何かをしている。フィルとレッドも怪しいが、彼らも怪しい。互いの怪しさを紛らわすため、互いに挨拶をした。 「やぁ、こちらは宝探しです」 「ほう、こちらは伝染病の調査でして……」 20
2016-06-01 18:06:58【用語解説】 【濁積世の言語】 ベルベンダインによって創世された濁積世には、6つの言語体系が存在する。それぞれ女神が創造した5つの種族ごとにインペリアル語系、エシエ語系、エルフェン語系、アヅマ語系、オルカ語系があり、先の文明からの伝承である灰積世語系が加わる
2016-06-01 18:15:05