氷下の天使#3 天使の眠る場所◆3(最終話)
_ベルシルムは遺跡の中で天使を見つけた。死んだ天使ではない。生きて、呼吸している天使だ。かつて、彼女は死霊だった。 今は違う。呼吸する胸が動き、頬には血が通う、生きている天使だ。そして、今まで見たどんな天使よりも美しい天使だった。 81
2016-02-25 17:21:27「ごめん、待った?」 待っていないと言うはずだったのに、こちらから声をかけてしまったことに気付くベルシルム。彼女は目を開けて、ゆっくりと起き上がる。遺跡の天井の穴から差す光で、舞台のスポットライトを浴びたように輝いていた。天使ではないのに、人間なのに、神々しく映る。 82
2016-02-25 17:25:54「20分だけね」 彼女はそう言ってくれた。花の匂いが舞う。彼女の周りを取り囲むように、白い花が咲いていた。 そして彼女は、どの花よりも可憐に咲いていた。生まれ変わったのだ。彼女は、20分前に、人間として! 83
2016-02-25 17:32:00_ベルシルムは目を閉じて言った。 「ありがとう……みんなに、ありがとうを言いたい」 約束は守られた。それは、彼一人ではなすことができなかっただろう。たくさんのひとの流れの中で、たどり着いた場所なのだ。 84
2016-02-25 17:37:39「ダメな男だよ。皆に助けられて、流れに乗っからなきゃ……女の子一人、迎えに行けないなんて」 ベルシルムは照れて言うが、レッドが背中を強く叩く。 「何言ってんだよ。流れに乗るのだって、素人じゃできないぜ!」 85
2016-02-25 17:42:25_フィルも静かに付け加える。 「僕らはただの流れにすぎないさ。それ自体に意味は無いのです。僕らのやったことって、結局、観光して酒飲んで美味しいもの、食べてるだけじゃないですか」 思い返せば、ベルシルムも不思議に思う。 86
2016-02-25 17:47:28_レッドは彼女の手を取り、ベルシルムの手に添えてやった。二人は照れて、なかなか視線を合わそうとしない。 「丁度いい場所だぜ、ここは。古代神秘帝国の礼拝堂だ。結婚式を挙げたりするところだぜ?」 遺跡を見上げるレッド。天使の翼の形に、切り取られた天窓。 87
2016-02-25 17:52:59「人類帝国成立より前、古代エシエドール帝国の興る前に、存在した忘れられた文明さ。この遺跡も待っていたんだよ。森の中でひっそりと、流れが来るのを。さぁ、今日はいい日だ! 行こう、フィル」 「ああ」 フィルとレッドは、二人を置いてどこかへと行こうとする。 88
2016-02-25 17:56:41「二人とも、どこへ……?」 ベルシルムは不思議に思って聞いた。人間となった娘はそっと彼の隣に寄り添う。 「いや、これからの二人の邪魔をしちゃいけないと思ってね、俺らはただの観光客だし、それに……」 レッドは笑顔で言う。 89
2016-02-25 18:01:42【用語解説】 【神秘帝国】 濁積世の初めに、灰土地域で興った最初の国家。魔法を中心とした国家で、この時代に濁積世で使われた魔法の9割が開発された。しかし、最後は時を超えて現れたスムートハーピィの一族によって滅ぼされることになる。一部の国民は山奥や辺境へと逃げ、後に魔女になる
2016-02-25 18:11:30