ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ 【3:ザ・ファイアスターター】
KMCレディオによる非LAN通信扇動、ローニンの地下抵抗活動、ニチョーム潜伏者のイレギュラーな動き。「フジキド・ケンジ組織」の点と線。首謀者すなわちニンジャスレイヤーを排除すれば、反抗組織は瓦解し、均一化される。ニンジャスレイヤーは注意深く立ち回っているが、年貢の納め時は近い。
2016-06-22 14:23:45カスミガセキにはサーヴィターを始めとする精鋭ニンジャが配備され、ハーヴェスターが本営を作り、水も漏らさぬ防備を敷いた。そして成田宇宙港。ネオサイタマ支配の戦力を維持しながら、最大限割ける限りの戦力を成田にも配備した。
2016-06-22 14:26:48「発射10分前」アルゴスのニューロンがレポートを受け取る。システムはすべて緑。クロフネはアンタイ・ニンジャ装甲で覆われている。アーチニンジャ級ニンジャソウル憑依者のジツであっても破壊することは不可能だ。乗組員は全てニンジャであり、通常の人類が耐えられない発射スケジュールに耐える。
2016-06-22 14:32:21成田宇宙港。旧世紀の国際空港は再び旧世紀を開始する出発点として生まれ変わった。等間隔で配置された黒いトリイは四方八方へサーチライトを投げかけ、武装マグロツェッペリンとUAVが飛び、守護ニンジャとハイデッカーが定時巡回を続けている。
2016-06-22 14:36:00発射5分前。当然ながら、既に乗組員の搭乗は完了している。アガメムノン。そしてドラゴンベインとスワッシュバックラー。彼ら二人のハタモトは鷲の一族であるアガメムノンを地上において再び見出し、潰えかけた未来を繋いだ英雄であり、遺伝子レベルの忠誠を誓った戦士である。
2016-06-22 14:40:21クロノスはオナタカミの粋を集めたニンジャだ。モダンエイジとプロボットは宇宙作業の訓練を積んだニンジャ。不測の事態に備える。更に二名、ペケロッパ・カルトのシーカーとキルナイン。アルゴスを神として崇める彼らがアルゴスの月基地メインフレームのエンジニアとなる。この八名が乗組員である。
2016-06-22 14:48:00航空部隊が放射状に退避を開始した。発射1分前。ググン…グゴゴン…巨龍の唸り声じみた重低音が空気を震わせる。発射10秒前。カウントダウン開始。システムは全て緑。アルゴスはネオサイタマ市街を、ジグラットを、宇宙港を並列監視する。5秒前。「来なさい。アガメムノン=サン」アルゴスは呟く。
2016-06-22 14:55:594秒前。クロフネが震動し、煌くパーティクルが立ち込める。宇宙港配備ニンジャのジャガンナートが交戦信号を伝えてきた。成る程、ニンジャスレイヤーは宇宙港を選んだか。UAVカメラが映像データを提供する。ずんぐりした宇宙服を着込んだニンジャが地上でジャガンナートにカラテを叩き込む瞬間を。
2016-06-22 15:01:53宇宙服は赤黒にペイントされ、頭部に「忍」「殺」とショドーされている。ニンジャスレイヤーだ。彼の出現経路のレポートがアルゴスに後追いで提供されてくる。出現自体は想定内。ゆえに遡って吟味する行為は無意味である。ジャガンナートは爆発四散し、彼の着込んだ重UNIX装甲が爆裂した。3秒前。
2016-06-22 15:04:49爆発衝撃で赤黒の宇宙服は垂直に空高く飛び上がった。2秒前。パトリアークが対空カラテミサイルで迎撃を試みる。ニンジャスレイヤーはスリケンを投げ返して相殺し、退避するマグロツェッペリンにフックロープを投擲する。1秒前。ニンジャスレイヤーはロープの巻上げ力を利用し振り子めいて運動する。
2016-06-22 15:07:46ゼロ。クロフネが垂直上昇を開始。クロフネはアンタイ・ニンジャ装甲でコーティングされており、外部からの攻撃による撃墜は不可能だ。アマクダリの黒い矢は鷲の一族の継承者を乗せ、天をめがける。ニンジャスレイヤーにもはや干渉の手段は無い。宇宙港の警備は極めて厳重であり、突破は遅きに失した。
2016-06-22 15:12:54遅きに。失した。振り子運動。ニンジャスレイヤーはツェッペリンに取り付き、旋回する。回転が速度を乗算する。「イイイイイ……イイイイイイイイヤアアーッ!」ニンジャスレイヤーはツェッペリンからロープを切り離し、飛んだ。ツェッペリンはパトリアークのカラテミサイルを受けて墜落してゆく。
2016-06-22 15:14:43アルゴスは垂直上昇するクロフネとニンジャスレイヤーの跳躍軌道を計算する。目的は撃墜ではないのだ。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは飛行方向にフックロープを投擲し、アンタイ・ニンジャ装甲の継ぎ目に鉤爪を引っ掛け、巻上げ機構を働かせ……しがみついた。スペースシャトルのブースターに。
2016-06-22 15:19:25ブースター側面に張り付いたニンジャスレイヤーは、蜘蛛めいて横へ這って行く。目的は明白だ。大気圏突入後のブースター切り離しの巻き添えにならぬよう、シャトル本体へ移動しているのだろう。アルゴスは船体カメラを動かしてニンジャスレイヤーを追うが、どちらにせよ現時点での干渉は不可能……。
2016-06-22 15:28:21……「イヤーッ!」ポルダリングめいて、ニンジャスレイヤーは装甲の継ぎ目から継ぎ目へ指先をかけ、ニンジャ握力で己の身体を移動させていく。「イヤーッ!」少しずつ。少しずつ!(((でかしたぞフジキド!たかが打ち上げ花火、何ほどのものか!)))ナラクの声がニューロンに木霊した。
2016-06-22 15:35:33(((だがこの速度はちと骨だ。モタモタしておれば、オヌシは消し炭となろう)))(ならば黙っておれ、ナラク)ニンジャスレイヤーは集中力を高めた。一挙一投足の誤りが犬死にに直結する。大気圏突入が近い。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーはシャトル本体にしがみつき、身体を引き上げた。
2016-06-22 15:39:30第一宇宙速度!ゴウン……巨大なブースターが切り離され、洋上へ落下してゆく。ニンジャスレイヤーは己を凝視するカメラアイを掴み、引き剥がして棄てると、その継ぎ目に手を挿し込み、ゆっくりと力を込めた。「イイイヤアアーッ……!」微かな庇めいて歪んだ装甲の陰に、彼は潜り込むようにした。
2016-06-22 15:45:00全てのものが熱を帯びて赤く輝き始めた。ニンジャスレイヤーの目も燃えていた。決断的な憎悪と殺意にだ!庇めいて歪んだ装甲の陰で、彼は一心に耐えた……宇宙服の中の彼自身が宇宙速度を克服せねば、目的達成は無い!「ヌウウウウウーッ!」(((フジキド!)))ナラクの叫びがニューロンに響いた。
2016-06-22 15:48:44クロフネは大気圏を突破!本来はメインエンジンをここで切り離すが、極短時間で月へ到達するクロフネは通常のシャトルとシーケンスを異にする。安心はまだまだ先だ。チャドー。フーリンカザン。そしてチャドー。「スウーッ!ハアーッ!」ニンジャスレイヤーは呼吸を深める。宇宙をフーリンカザンせよ!
2016-06-22 15:51:31「スウーッ!ハアーッ!スウーッ!ハアーッ!」宇宙服が赤熱してゆく。アンタイ・ニンジャ装甲を庇としたが、まだ足りぬか?崩壊は間近なのか!だがその時、宇宙服の継ぎ目にマグマめいた赤黒の火が脈打ち、輝き始めた。(((フジキド!)))「ナラク!」おお……ゴウランガ……ゴウランガ!
2016-06-22 15:56:37重量バランスの崩れたシャトルを、墜落を免れるために小型のブースターの細かい駆動によって滞り無く制御するのは、他でもない、アルゴスである。アガメムノンを月へ運ぶために、ここはアルゴスが尽力せねばならないのだ。アルゴスが通常の感情と呼べるものを持たなかったのは幸いであった。
2016-06-22 16:01:01アマクダリのスペースシャトル「クロフネ」は地球の重力を突破した。ニンジャスレイヤーを乗せて。地上では、そのような事をつゆ知らぬオイラン・キャスターが、シャトル打ち上げ成功を伝える高揚的なニュース原稿を読み上げていた。
2016-06-22 16:02:54