空想の街・氷涼祭'16 二日日 #赤風車

#空想の街 氷涼祭の二日目(16/07/02) #赤風車 纏め。 二日目と三日目の間の深夜→http://privatter.net/p/1718405 過去本編など→http://fukashiten.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。コラボしてくださったかたがた、有難うございました。 続きを読む
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赤き一の字

不可村 @nowhere_7

かん、ころろ、 書かれている文字は全てが一だ。そんな賽子を振りながら、目深にハットを被った青年が、歌うように朝靄の街をふらふらと歩いている。 「――ひとぉつ、名から逃げぬこと、ひとぉつ、名から逃げぬこと」 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 01:17:04
不可村 @nowhere_7

おかしな歌、と青年の背後から言葉が届いた。 「――お嬢、歌はなんだっておかしなものだよ。この街だってほら、句がなんだとか色々やってるみたいだけど、おっかしいねぇ」 振り向きざまに青年は血の色に染まったハットを抑え、口角を上げて徐に近場の塀へと距離をつめる。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 01:20:21
不可村 @nowhere_7

あんまりおかしすぎるから、ここを狙うつもりはぜんぜん起きないんだけど、と赤いハットの青年は、今度は人差し指を口元に寄せて背後を見た。 そして、右手の甲を硬い塀へとぶつけ、一気にそこへ真っ赤な線を引く。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 01:22:45
不可村 @nowhere_7

――この街中に響く音。 「いい音だけど、ちょっと違う。音は人骨をうちならすのが一番だよ。まっしろで、火をとおしたあとのほろっとしたのが一番いい――」 薄闇の中を迸る赤い線の前、右手を真っ赤に染めたハットの青年と、廻転自動車に腰掛けた女性がじっと、佇んでいる。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 01:28:49

覚醒

不可村 @nowhere_7

ぱ、と、音を立て水面から顔を上げたように急に意識が浮上した。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:50:00
不可村 @nowhere_7

――目の前には水、見渡す限りの水、これは海だ。こんな綺麗な浜辺は近所にあったっけ、いつの間にこんな場所で立って昼寝なんか、と思いかけたところで真っ黒な書生服の裾が揺れる。 ……そうだった、自分は自分だ。 世間に何も残さずに、姉たちを置いて先に死んだ青二才。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:50:48
不可村 @nowhere_7

千草は自嘲げに笑うと自分の足元を見やる。汚れた下駄と足袋に包まれた、いつもの足がそこにあった。違うことと言えば影がよく見えないことだろうか、それに、何度波に触っても、汚れも今以上には増えない。 つまり、さいごのあの瞬間で自身の全ては止まっているのだ。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:51:56
不可村 @nowhere_7

それでも前に出たときは風車を持っていた筈だけれど、と探したところで懐には何も入っていなかった。恐らく傍目には、この時季少々蒸し暑く見えるであろう、ハイカラーのシャツ、漆黒の袷に袴。少し湿ったようになっている短い手触りの髪、 しかしやはりどこにも風車はない。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:52:33
不可村 @nowhere_7

これは憶測なのだが、前回出たとき、風車はあの廃屋に全て置いてきてしまったのではなかったか。 二年前の氷涼祭は千草にとっては昨日のような出来事である。そういえばあの時は、『記憶の無い自分が生きている証を残すというのは喜劇なのか』などと考え込んでいた覚えがある。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:53:13
不可村 @nowhere_7

あのときは、結局は何もかも意味がある筈なのだと自分に言い聞かせていたが、記憶喪失どころか真相は既に死んでいたのだ。 これでは生きている証も何もない。茶番でしかない。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:54:59
不可村 @nowhere_7

自分で自分を呼ぶという芸当をしておいて、得たものは碌でもない自覚だった。こちらが揺ぎのない死者であるという自覚だ。 それにしてもあの風車だけはあっけなく、ふたつの世界の境を超えた。今は誰が持っているやら―― #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:55:36
不可村 @nowhere_7

姉だろうか。自分を今年、ここに呼んだのも姉なのだろうか。上の姉にも下の姉にも、それぞれ大きな心配をかけてしまっただろう。年の離れた長姉はこちらのことなどふっきっただろうか。義兄といつも仲睦まじくしていた長姉の顔を思い出し、そしてすぐに下の姉へと意識を傾けた。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:56:21

“僕の姉さん”

不可村 @nowhere_7

@tos 乳母日傘で寄り添ってくれ、そしてこちらもできる限り支えた、あの物静かな姉は元気だろうか。世間の災難を一手に率いたかの如く記憶の中で俯く姉は、それでもこちらにとっては頼もしかった。もし自分を呼ぶ者がいるならあの姉ではないか、と千草はひっそり静まり返った心で思う。 #赤風車

2016-07-08 00:29:27
不可村 @nowhere_7

自分がいなかった間――いない、という感覚があまりなく、ずっとぼんやりと漂ってこの街を見ていたようでもあり、正反対に全くの無であった気もする、―― あの姉はどう過ごしていただろうか。多分、心配以外にも、きっと悲しませただろう。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 11:57:42
不可村 @nowhere_7

@tos 会うべきだと感じたし、何よりも会いたくないわけがない、と思うが、これは本心からなのかと妙な疑心に陥り、千草は波に攫われ動いてゆく砂を見ている。 ――こんな不安定な自分が確かに今は存在しているのだということを、姉と会うことで確かめたいのかもしれない。 #赤風車

2016-07-08 00:31:14
不可村 @nowhere_7

つまり、姉が目の前で喜んでくれればこちらも安心できるのだ、己は確かに死んだのだと。もうこの世にはいないのだ、と。その上で、死んでも尚、今この瞬間はここに在ると、そんな具合に心が落ち着く。 相対するものがなければ生き死にさえもう正体をなくしてしまう。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 12:00:09
不可村 @nowhere_7

@tos 両親が死んだときは、漠然とした不安と、姉を支えられない不甲斐なさでいっぱいだった。自分は確かに厭世的な人間だったが常に死を渇望していたわけでもなし、死後を想像する趣味もなかった。そしていざ死んでみて、判然としたのは只管にひとつ、己は死んだという事実だけだった。 #赤風車

2016-07-08 00:34:10
不可村 @nowhere_7

それにしても姉に会ったとして謝罪の他に何を言えばいいのだろう。 死んでしまった理由、を訊かれるだろうか? 死んだとき、どういう状況だったのか、だとか、そんなことよりそもそも何を思って家族に黙って外へ出ていたのかなんてことを――説明したほうがよいのだろうか。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 12:01:13
不可村 @nowhere_7

自分の釣った風車たちを沼に刺し、部屋に仕舞い込み、当てもなく町をうろついていた。きっとそれが二年と半年前の冬のことである。そこまで遡って千草の眉が歪む。何が何年前なのやら腹立たしくなってきた。こんな風になれば感覚は狂ってしまうのだ、死んでまで面倒は御免だ。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 12:01:54
不可村 @nowhere_7

……遺体探しは困難だったろう。他人事のようにそんな感想しか抱けなかった。 そうだ、姉に会ったらそれも謝ろう。それくらいしかできない。他に何か言えるとすれば、己は死に追い詰められたというよりも、まるで駆り立てられたようだった、ということだった。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 12:02:40
不可村 @nowhere_7

にしても二年経つのか、と繰り返し独りごちても中々腑には落ちない。とにかく前に目を覚ましていたときは――意識がはっきりしていたときは何をしていたのだっけ。ここにいて、確か……今と同じに海があって、風車を持っていて。 #赤風車 #空想の街

2016-07-02 12:03:05
不可村 @nowhere_7

あのときは、そう、記憶がなかった気がする。それをいいことに釣り道具を見つけて気随気儘にしていた三日間。 役所で何の気なしにもらった風船が透明で、三日目のワタリがあったとき、風船の表面に―― #赤風車 #空想の街

2016-07-02 12:03:45
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