ヴォイドアクセラレーター#2 加速する時◆1

時が加速する瞬間を見たことがあるだろうか。それは突然崖から身を投げるように、全てを抱え込んで、何もかもを……。 魔力加速装置を巡る開発者の話です。 最初↓ #1 ◆1 http://togetter.com/li/1000723 続きを読む
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_ヴォイドアクセラレーター#2 加速する時◆1

2016-07-20 19:42:43
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_訪問してきたのはミクロメガスと名乗る魔法使いだった。捉えどころのない年齢の顔をしている。 「すみません、なかなか気づかなくて……そういえば電信を頂いていましたね」  訪問したいという急な連絡があったことさえ忘れていた。ゼミールは彼を1階の応接室に通し、紅茶を出す。 31

2016-07-20 19:47:26
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_ミクロメガスは五芒星派の装い、つまりは黒い詰襟に白手袋という姿をしている。階級章や勲章は見えない。 「先生の理論を拝見しました。わたくしはヴォイド・システムに並々ならぬ興味を抱いているのです」  ゼミールの目が泳ぐ。 「いや、あの理論は……」 32

2016-07-20 19:55:29
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「大丈夫です。投資の準備はできています。わたくしは予知は苦手ですが……良い予感がするのです」 「予知……か」  ゼミールは拳を硬く握った。予知、また予知だ。まるで自分以外の全員が答えを知っている授業のよう。  それは別にして投資の話はゼミールの表情を和らげた。 33

2016-07-20 20:00:21
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――  帰り際に、ミクロメガスはきょろきょろと周りを見渡していた。 「あの……何か?」 「いや、もう一人の気配がして……誰かいらっしゃいましたか? 挨拶を……」 「もう一人? いや、私一人ですが……」  ゼミールの表情が曇る。今ではもう、ひとりぼっちだ。 34

2016-07-20 20:04:32
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「少し前までは、もう一人いたんですがね」 「それは聞きづらいことを言ってしまいました……」 「いいえ、いいんです。それよりも、一人の気配を感じるとはどういった……? 死霊でしょうか」  ミシュスが死霊化しているという想像をして、ゼミールは唇を震わせた。 35

2016-07-20 20:13:16
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_ミクロメガスはというと腑に落ちない顔だ。 「死霊ならすぐに分かるはずですが……奇妙ですね、いるようでいない。まさに闇の中にいます……まぁ、別に関係ない話でしたね。それでは」  そう言って彼は去っていった。ゼミールはしばらく立ちすくんでいた。 36

2016-07-20 20:16:37
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「闇の中……闇の……」  ゼミールは考え込んでしまう。何かが生まれる気がする。自分の研究するヴォイドのことが頭から離れない。闇といったらヴォイドだ。  そのまま地下室へと歩いていく。油の匂い。 「そうだ、今日も油の中にヴォイドを溶かして……」 37

2016-07-20 20:22:40
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_彼の目の奥に火花が、散った。 「油の中……闇の中……そうか、油に溶かしていたのは間違いだったんだ! ヴォイドに自らを溶かす必要があったんだ! だからミシュスは、溶けて……ああ!」  転がるようにヴォイドアクセラレーターに縋りつく。 「実験は成功していたんだ!」 38

2016-07-20 20:29:50
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_震える手で小手を装備し、天井高く突き上げる! 「動け! ヴォイドアクセラレーター! 魔力を加速させろ! おれの止まった時を加速させてくれ……お前は間違ってなんかいない、お前は時を加速させたんだ……だから……」  思いに、感情に呼応し、魔力の風が巻き起こる! 39

2016-07-20 20:35:38
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_魔力の風が彼の澱みを消し飛ばしていく。 「おれはダメだよ……背中を押されなきゃ、自分の時すら前に進めさせることができない……おれは、本当に……」 「でも、一歩踏み出したのはあなただよ」  そんな声が聞こえた気がした。 40

2016-07-20 20:44:23
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_ヴォイドアクセラレーター#2 加速する時 ◆1終わり ◆2(最終回)へつづく

2016-07-20 20:45:01
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【用語解説】 【魔力の風】 魔力が加速状態にあることを示す現象。ここから魔法陣を構築できる人間はあまりいないが、魔法陣に絶対必要な技術である。魔力の風自体には特別な効果は無く、示威行為や集中力が高まった際自動的に起きてしまうなどで見られる。女魔法使いは服がヒラヒラする。してほしい

2016-07-20 20:54:43