ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ 【7:ポラライズド】 #1

ネオサイタマ電脳IRC空間 http://ninjaheads.hatenablog.jp/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第3部最終話「ニンジャスレイヤー:ネヴァーダイズ」より

2016-07-21 23:21:15
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

電柱から無数に伸びて空を切り取る電線ケーブル類は吹雪によって凍りつき、白いツララを無数に垂らしていた。しかも、その寒さにはまだ底がなさそうだった。雪や氷が街路灯照明を反射して、不夜城ネオサイタマのこの日の夜はむしろ常よりもなお明るかった。

2016-07-21 23:30:38
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エンガワ・ストリートは普段から人通りが少ない。治安の極度の悪化によってもとの住人から半ば打ち棄てられ、繰り返される掃討作戦によって、スクワット犯罪者の類も姿を消した。しかし今、エンガワ駅の地下道から地上に上がってきた者が二人いた。ヤモト・コキ。そしてイグナイトだ。

2016-07-21 23:34:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

焦げ臭さと硝煙臭が雪混じりの風に乗って届き、二人の顔をしかめさせる。ハイデッカー部隊の気配はこの付近には無かった。この天候下・騒乱下でゴーストタウンを取り締まる意味も余力も無かったと見える。そして二人は跳躍し、付近の雑居ビルの屋上に上がった。背後がオレンジ色だ。火災である。

2016-07-21 23:38:29
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

闇の中に恐るべき無差別破壊の光景が浮かび上がる。ツキジを襲った執拗な艦砲射撃はエンガワ付近にまで被害を及ぼしているのだ。地図上の周辺海岸線を引き直すほどの破壊だった。正気の沙汰ではない。「「イヤーッ!」」二人は示し合わせるわけでもなく、同じように隣接ビルへ飛び移った。

2016-07-21 23:43:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「イヤーッ!」」更に跳んだ。どちらも相当に敏捷なニンジャだ。二つのマフラーがなびいて並走する。「「イヤーッ!」」屋上に胡乱な調度品の焼け焦げた残骸が寄せ集まった雑居ビルを通過し、「「イヤーッ!」」電柱に飛び移り、電線の上を駆ける。二人はまっすぐに北上した。目的地はマルノウチ。

2016-07-21 23:50:03
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

すぐに二人はエンガワから離れる。ビルが高くなり、生きた広告ネオンの密度が増し、空にはマグロツェッペリンの機影も見え始めた。押し潰されそうな地下の闇を脱した二人にとって、本来ならばホッと胸を撫でおろすような、雪にも負けぬ人の営みの証の明かりだった。だがそれは警戒すべきものでもある。

2016-07-21 23:58:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人は屋上の「スプレンダーサイダ」の広告看板の陰に隠れ、マグロツェッペリンのサーチライトをやり過ごした。ハイデッカーの監視船であるにもかかわらず、マグロの横腹には「オイルと石油」「カラオケ寺」などの広告が堂々とペイントされていた。官民の形だ。

2016-07-22 00:04:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ツェッペリンはサーチライトで街を照らしながら西へ流れていく。さらにもう一機。「ッたく、何の用だよ」イグナイトは顔をしかめた。やがて思い至り、ヤモトの肩に触れた。「わかった。アレだ」イグナイトが指差した先、キョート大使館付近の交差点が一際明るく照らされ、蟻めいて人々が蠢いている。

2016-07-22 00:10:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャ視力は雪の風を透かし、ハイデッカー部隊がジュラルミンシールドで市民をブロックし、警棒で叩く姿を見せる。そして怒声と抗議の声だ。理由まではわからない。市民が投石を行い、ハイデッカーが鎮圧銃で応える。人々が崩れ立ち、バリケードを薙ぎ倒す。

2016-07-22 00:18:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「あそこはダメかもな」イグナイトは呟いた。市民は追い立てられ、散り散りになった。だが数区画離れた場所に、また別の集まりがある。拠点が潰されても、市民は他のそうしたポイントへ逃げ込み、集まる。人そのものを根絶する事はできない。やがてハイデッカーは武器を持ち替え、シデムシも現れる。

2016-07-22 00:22:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「行くか」サーチライトが逸れたのを見計らい、イグナイトが呟いた。そして付け加えた。「それとも……やっちまうか?せっかくだから」「やろう」ヤモトは頷いた。イグナイトは心底嬉しそうな笑顔になり、キツネ・サインでヤモトのマフラーに触れた。二人は振り向きざま、空に手をかざした。

2016-07-22 00:27:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「イヤーッ!」」KBAM!イグナイトのかざした手の先、さきほどのツェッペリンのエンジンが火を噴き、機体が大きく傾いだ。「行け!」ヤモトが両手を振り下ろした。桜色のオリガミが螺旋を描いて飛翔、ツェッペリンに追い打ちをかけた。ツェッペリンは斜めに落ちてゆき、アスファルトに衝突した。

2016-07-22 00:29:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

KADOOOM……ツェッペリンは道路を這うシデムシを巻き添えにした。市民掃討にかかろうとしていたハイデッカーは墜落の状況確認に人員の半数を裂き、人の流れはとどまらない。キュイキュイキュイ……警告音と思しき高い周波数のサウンドが響き渡る。二人はすでに北上を再開していた。

2016-07-22 00:32:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドォン……ドォン……さらにやや離れた地点で何らかの火の手が上がった。人々の悲鳴が聞こえて来る。シデムシが、装甲車が、ときには戦車がバリケードを叩き潰し、追い立てられた者達はまた別の場所を指して逃げてゆく。高所を飛び渡る二人には、その人々のうねりが幾つもの道筋のように見えた。

2016-07-22 00:37:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

雨粒が集まって水溜まりとなり、風に吹かれて流れたそれが小さなせせらぎに、それが川となり、風に、土地にあおられて、一箇所に集まっていく。この夜の路上の人々の動きはそうした否応のない連鎖を思わせた。雪とネオンの光の中で大部分が沈黙するネオサイタマで、そうした動きはひどく目立った。

2016-07-22 00:41:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

結局彼らは軍隊でもなく、統率されたレジスタンスでもなく、絶対数も多くはなく、言って見れば烏合の衆に過ぎない。アルゴスはそうした動きを容易に対処可能なモータル反抗と見なしたし、実際、よりクリティカルな問題はもっと西、カスミガセキ・ジグラットで始まっているニンジャのイクサだった。

2016-07-22 00:45:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ヤモトとイグナイトは北上を続けた。ニンジャをして肺が痛むほどの全速力だった。地図の類はほとんど必要なかった。眼下の道路を、まるで追い立てられる小動物群めいて動いてゆく少人数のうねり。そこにも、あそこにも。それらの集束する先を目で追えば、それはマルノウチの慰霊碑の方向であったのだ。

2016-07-22 00:49:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アルゴスにとって、マルノウチ慰霊碑前に向かってくる市民はまるでスタンピードであり、そのランドマークひとつを叩き潰せば全てが事足りるという点で好ましかった。現在アマクダリはニンジャ戦力をジグラットの防衛とツキジ・ハッカー最終殲滅に向けねばならない。ハイデッカーが慰霊碑前を制圧する。

2016-07-22 01:00:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「「イヤーッ!」」ヤモトとイグナイトはネオロポンギを通過し、巨大マネキネコ・ビルの屋上で足並みを揃えた。目を凝らせばスゴイタカイ・ビルが視認可能だ。こんな深夜、こんな悪天候下でも、ネオサイタマの夜景は綺麗だ。スゴイタカイビルの足元に光が溢れている。そこが彼女らの目的地だ……。

2016-07-22 01:05:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二人がビルから跳ぼうと踏み出したとき、それは起こった。ドクン。二人は共に、極めて強い鼓動の音を聴いた。彼女らはそれを自分の心臓音だと思った。「ちょ、っと、待った」イグナイトは手を上げてヤモトを留め、たまらず膝をついた。しかしヤモトも同様に跳べていなかった。彼女は頭を押さえた。

2016-07-22 01:07:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

01010010100111101101……010100101111110101010101。0100101010101001011101011110100101011……010101001010101111010101001101010101010。空一面が0と1で満たされた。

2016-07-22 01:09:08
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それはほんの一瞬の出来事であり、0と1のノイズは吹き払われて、もとの黄金立方体が……おお、ナムサン、ゴウランガ。もとの黄金立方体?否、それは今や無限の色彩を放射しながら、呼吸するかのように収縮と拡大を繰り返していた。二人は悲鳴をあげた。制御できぬ無数のオリヅルと火柱が天を衝いた。

2016-07-22 01:15:07
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