イタリア人映画監督は革命のさなかで何をしていたか?(セルジオ・コルブッチの“革命三部作” 蔵臼 金助(イタリア製西部劇研究家)

マカロニウエスタンの映画作家であるセルジオ・コルブッチ監督の通称“革命三部作”、『豹/ジャガー』『ガンマン大連合』『進撃0号作戦』についての解説。
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

1968年にユナイトから新作マカロニウエスタンへの資金提供の話があった時、彼は既に舞台をメキシコに設定して、異邦人のガンマンが革命を背景に大暴れする構想を練っている最中だった。

2016-08-20 14:59:36
蔵臼 金助 @klaus_kinske

それがフランコ・ネロ主演『豹/ジャガー』である。主人公は東欧から流れて来た傭兵で“ポラック”(ポーランド人)と呼ばれる。“パリのアメリカ人”ならぬ“メヒコのポーランド人”という訳だ。オーストラリアだったら“シドニーのポラック”かな。 pic.twitter.com/QzFhEADomY

2016-08-20 15:00:48
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

金勘定しか頭の中にないエゴイストで現実主義者の傭兵が、革命を信じる理想主義者のメキシコ人の若者と出会い、次第に心を通わせていく。アクションは満載。複葉機が空を飛んで爆弾を投下、迫撃砲や大砲で町は木端微塵になる。 pic.twitter.com/LmHyAcnb6E

2016-08-20 15:02:14
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

武器に精通したポラックは当時流通し始めた自動拳銃を携帯し、実際にメキシコ革命でパンチョ・ビリャも使ったホチキス機関銃で敵を蹴散らす。モリコーネの口笛から始まるボレロもヒットし、アメリカ人プロデューサーたちも満足のいく収益を確保した。 pic.twitter.com/pnIlvde072

2016-08-20 15:03:12
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

この『豹/ジャガー』(1968)と『ガンマン大連合』(1970)、そして『進撃0号作戦』(1973)は通称、コルブッチの“革命三部作”と呼ばれている。だが、『ガンマン大連合』は『豹/ジャガー』の姉妹編ではあっても、最後の『進撃0号作戦』は微妙に作品の性質を異にする。

2016-08-20 15:04:00
蔵臼 金助 @klaus_kinske

『ガンマン大連合』と『豹/ジャガー』は1ドル銀貨の裏表の関係だが、『進撃0号作戦』はコルブッチの独白だ。 pic.twitter.com/zyCuwnUOVk

2016-08-20 15:06:20
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

『ガンマン大連合』でフランコ・ネロが演ずるのはスウェーデン人武器商人ヨドラフ・ペテルセン(通称ヨド)だ。『豹/ジャガー』の“ポラック”ことセルゲイ・コワルスキー同様、訛りのある英語を話し、腰のホルスターにはスペイン製自動拳銃を収納。 pic.twitter.com/wkCUPH1QFK

2016-08-20 15:08:03
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

武器には精通し、やはりエゴイストで金には汚い。その彼が、革命のイデオロギーを信じ始めたメキシコ人の青年バスコ(スペイン市民戦争におけるバスク人がかぶっている帽子、バスク帽を愛用している)と友情を深め、非暴力主義の革命家サントス教授らの影響を受けて、少しずつ生き方を変えていく。

2016-08-20 15:08:36
蔵臼 金助 @klaus_kinske

この2作はプロットは似通っているが、終わらせ方が違う。

2016-08-20 15:10:13
蔵臼 金助 @klaus_kinske

『豹/ジャガー』では、「俺には夢がある」(公民権運動の指導者として活動したキング牧師の有名な台詞でもある)と語ったメキシコ人の若者パコと袂を分かち、ポラックは「夢を見るのもいい。だが、両目を開けて夢を見ろ」と言い残し、メキシコを去る。

2016-08-20 15:10:21
蔵臼 金助 @klaus_kinske

『ガンマン大連合』では、一度メキシコ革命派の学生たちを見捨てて去った筈のヨドだったが、圧倒的火力を持つ政府軍の侵攻を前にして、彼らと革命闘争に殉ずる決意をする。「VAMOS A MATAR, COMPANEROS!(殺っちまおうぜ、同志たち!)」と叫びながら。

2016-08-20 15:10:44
蔵臼 金助 @klaus_kinske

彼は資本主義の金の亡者から、「同志」へと変身を遂げたのだ。

2016-08-20 15:11:09
蔵臼 金助 @klaus_kinske

『進撃0号作戦』においては、もはや主人公はガンマンでも革命家でもない。ヴェラクルスにシェイクスピアの公演に来た旅芸人と、イタリア人神父の二人組の話だ。激しいアクションとブラックなユーモアを交えたドタバタ劇が延々と続き、最後は感動的なクライマックスが待っている。

2016-08-20 15:12:08
蔵臼 金助 @klaus_kinske

この作品に置いては、視点がはっきりと混乱のメキシコに投げ込まれた異邦人の目に戻された。原題は「CHE C'ENTRIAMO NOI CON LA REVOLUZIONE?(革命の真っただ中で私は何をしているのだ?)」と言う。 pic.twitter.com/8kgaGSsmAf

2016-08-20 15:13:27
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

映画監督にして左翼運動家であったセルジオ・コルブッチの心境に何があったかは知らないが、この“革命三部作”が作られている間にアメリカでは大きな事件が起こった。

2016-08-20 15:13:59
蔵臼 金助 @klaus_kinske

それはキング牧師の暗殺だ。マハトマ・ガンディーに啓蒙されて徹底した非暴力主義を貫いたマーティン・ルーサー・キング・ジュニアは、1968年4月4日、遊説中のテネシー州メンフィスで暗殺された。おそらく『豹/ジャガー』製作中のことだ。 pic.twitter.com/BqCwSqpkK4

2016-08-20 15:16:21
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

同年冬にセルジオ・コルブッチは極北のイタリア製西部劇『殺しが静かにやって来る』を作り上げ、キング牧師に捧げた。 togetter.com/li/536353 pic.twitter.com/zmWuWQgsBK

2016-08-20 15:20:18
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蔵臼 金助 @klaus_kinske

そして2年後に『ガンマン大連合』で革命へのロマンティシズムを歌い、以降、シリアスな映画作品は一切作らず、ドタバタ艶笑劇専門の映画監督へと転向した。

2016-08-20 15:20:52
蔵臼 金助 @klaus_kinske

何があったのかは判らない。キング牧師暗殺事件が彼に生き方を変えさせたのかもしれないし、そうではないかもしれない。

2016-08-20 15:22:28
蔵臼 金助 @klaus_kinske

映画監督セルジオ・コルブッチはマカロニウエスタンから革命劇に新たなインスピレーションの場を見い出した。それは最初、大量殺戮と派手なアクションが行われる背景としての期待感だったのだが、いつしか自分の思想を盛り込んだ「作品」としての昇華の場へと変化する。

2016-08-20 15:23:05
蔵臼 金助 @klaus_kinske

そして、希望は失望にとって代わり、彼は思想からお笑いの道へと落ち着いて行ったのだ。

2016-08-20 15:23:15
蔵臼 金助 @klaus_kinske

“プチブル”も“ウチゲバ”も“アカガリ”も、まだ言葉として機能していた頃から、死語へと仕舞い込まれて行った時代の話である。 pic.twitter.com/noUrfGgE7w

2016-08-20 15:26:24
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