城砦は天を殴るように#2 荒野の向こうへ◆1
_彼は雨の中両足で大地を踏みしめ、片手を掲げている。レイシィはそれを城の陰から見ていた。立ち向かう気なのだ。たった一人で。暴風と雷雨を巻き起こすクラウドシルフに。レイシィは息をのむ。 辺りは暗くなり、激しい雨粒が降り注いだ。 31
2016-08-25 19:24:34_魔法使いが手を握る! 崩れていた城から石のブロックが見えない力で拾い上げられ、新たな城へと再構築されていく! レイシィは慌ててその場から離れた。魔法使いはずぶぬれのまま、血走った眼でそれを見守っている。魔力の風が巻き起こり、雨粒をまるで濡れた犬の様に弾き飛ばした。 32
2016-08-25 19:30:28「これが僕の……右ストレートだ!」 雨粒を弾き飛ばしながら拳を突く! その瞬間、城の土台が完成する! 魔法使いはにやりと笑った。 頭上に渦巻く雲が威嚇の表情を表面に波打たせる。雨が一層強くなる。 33
2016-08-25 19:35:30「次は……左だ!」 ずぶぬれの軍服が破れそうなほど勢いよく左ストレート! その瞬間、城の支柱が完成する。 風が一層強くなる。レイシィは自分があまり濡れていないことに気付いた。彼女の周囲だけ雨水が明後日の方向へと散っていく。魔法使いの配慮だろう。 34
2016-08-25 19:42:59「こいつは……ジャブだ!」 軽く手を振る魔法使い。すると城の桁が完成し、四角い城の骨格が出来上がる。クラウドシルフも鋭い目つきで見下ろす。雲の奥底で稲妻が迸り、暗い雲に光を明滅させる。 「全ての否定は打ち返せるんだ!」 雷光一閃! 轟音が全ての音を消し飛ばした。 35
2016-08-25 19:52:13_思わず閉じた目を開くレイシィ。稲妻が城の骨組みを叩き壊し、作業は振り出しに戻っていた。魔法使いは気にせず高笑いをする。 「ハハッ、面白くなってきたよ! こんなもんかよ。土台が吹き飛んでないぞ? お前の本気はこの程度かよ。もっと僕をイラつかせてみせろよ!」 36
2016-08-25 19:59:01_そこで魔法使いはようやく振り返った。 「これからマジの戦いが始まるから、君は避難するんだ。雨よけはしばらく機能するから安心して。ここから東に行くと別の城跡が見えるから、そこからさらに東に行くと村が見える」 ガクガクと頷くレイシィ。 37
2016-08-25 20:03:29_レイシィは最後に微笑んで言った。 「あんた……強がるのもいいけど、殴り殺されるまえにご自愛しなよ」 そのセリフを聞いてきょとんとした顔をする魔法使い。すぐさま獰猛な肉食獣の顔に戻る。 「ああ……そんな優しくされたのは久しぶりだよ」 38
2016-08-25 20:11:32_そして再び雲を見上げる魔法使い。大きく両腕を広げて、再び城を組み立て始める。クラウドシルフは次なる攻撃の一手を準備するためか、風雨を弱めて雲を高速で渦巻かせる。レイシィは頷いた。必要なことは言った。小さく魔法使いの勝利を祈る。 39
2016-08-25 20:15:28_一瞬風が止んだ。 「いまだ! さらばだ!」 魔法使いは大きく手を振る。レイシィは東に向かって振り返らずに……駆けだしたのだった。 40
2016-08-25 20:21:10【用語解説】 【雨よけの呪文】 この世界にも傘や雨合羽は存在し、わざわざ雨を避けるために高価な魔法を使うものはほとんどいない。需要が無いので高価になり、さらに使われなくなる。ただ、雨合羽を着込むと空気中から魔力を補給しにくくなり、傘は片手が塞がる、そんな魔法戦闘では重宝される
2016-08-25 20:27:24