- gr_starneon
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静寂に包まれた大地の中、ただひたすらに、彼女の哀哭がこだました。その胸の中には、イースの残した想いが鼓動を刻む。ひとりじゃない。彼の優しい声が、何度も心の中にその言葉を繰り返す。あたたかさはずっと、己と共に。97
2016-09-27 00:41:52どれほど眠っていたのだろう。体の疲労はある程度和らいでいた。再び目を開けると、慟哭が真っ先に耳に届く。紅の瞳が映し出す彼女は、己の知る仮面ハイドとは程遠い。静かに息を吐くと、ふと己の中の鼓動が欠け落ちている事に気付いた。眠りについたのか。そう悟った。99
2016-09-27 00:42:34「…俺が寝ていた間、奴と話していたのか」。ベルゼの声は届いているはずだが、しかし、彼女はただ咽び泣くだけ。感情は言葉をも飲み込み、慟哭として紡がれる。「……奴は、俺の中で眠っている。…鼓動が無くなったとはいえ、この世から消えたわけではない」。100
2016-09-27 00:43:28"イース"は、もう居ない。鼓動こそ消えてしまったが、しかし彼の存在は完全に消滅したわけではない。それは、彼に一番近いベルゼが一番よく理解していた。そしてそれは、ハイド自身も理解はできている。だが。「…私は、…私は、これからどうすれば…、」。101
2016-09-27 00:44:16イースの言葉はハイドの胸深くに刻まれ、その想いを残していた。自分はひとりではない。彼はいつだってそばに居てくれる。だから後は、己が強くなればいい―――。わかっている。わかっているのに、未だ悲しみに支配されるハイドには、心に残る彼の想いのあたたかさを、まだ完全に感じ取る事は。102
2016-09-27 00:47:30「……」。不意に伸ばされた腕が、ハイドの首に回される。彼女が状況を理解するよりも先に、ベルゼは彼女を優しく抱き寄せた。涙で濡れた顔を胸に寄せて、銀に揺れる髪を撫でながら。「…ッ……」。あたたかかった。だが、愛した者のそれではない。体を伝わる鼓動の速さも、何もかも。それでも。103
2016-09-27 00:48:31ベルゼの腕の中、ハイドは己の胸をぐっと掴んだ。力の限り、息が苦しくなるほどに。イースは今も生きている。己の鼓動の中、いつまでも同じ時を刻み続ける。それは、彼女の願いでもあり、彼女が再び前を向いて進む為のかけがえのない道標となる。"大丈夫だよ”。ふと、彼の言葉が脳裏に蘇る。104
2016-09-27 00:50:00彼は最期まで、道を示してくれた。その想いに、応えなくてどうする。「……ありがとう、イース……」。誰に言うでもなく、呟いた。その言葉を聞いたベルゼも、何も言わず。流れる時の中―――ただ、静かにその鼓動を感じて。105
2016-09-27 00:50:28