エレン先生に日本語を教えてあげよう

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uroak_miku @Uroak_Miku

1)エレン先生が日本語をしゃべる場面は教科書中には見つからない。前任者は「日本語できますか?」と生徒に聞かれると「Sukoshi」と正直に答えていましたが。 pic.twitter.com/hyXAmXiPCt

2016-09-27 19:47:42
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2)日本での生活をエンジョイしていると(間違った英語ですが)このページでは公言しているぐらいだから日本語はそこそこできると仮定して、彼女はどうやって日本語の不可思議な時制システムを学んだのか気になります。気になりませんか?

2016-09-27 19:49:31
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3)これはほかのプロまんが家さんが想像して描いたエレン先生の授業初日風景。ほほえましいですね。一応文法的には問題のない日本語を話しています。 pic.twitter.com/Ebzih83KXG

2016-09-27 19:51:57
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4)「北京に行った前にデパートで買い物をした」だとどうして✖なの?と日本語のレッスン中に彼女も疑問を抱いたことと思います。このあたりのことはtogetter.com/li/1028171で論じたとおりです。

2016-09-27 19:54:00
uroak_miku @Uroak_Miku

5)この文をちょっと変えてみましょう。 ① 北京に行ったとき、デパートで買い物をした。 ② 北京に行くとき、デパートで買い物をした。 教え子エレンに私はここで問いかける。「北京に行く前にデパートで買い物をした」と同義になるのはどちらだと思う?

2016-09-27 19:57:36
uroak_miku @Uroak_Miku

6)日本語ネイティヴの私たちなら楽勝の問題です。誰だって②を選びます。しかし生徒エレンはきっと納得いかないでしょう。「くみ先生、どうして①ではいけないんですか?」

2016-09-27 20:00:32
uroak_miku @Uroak_Miku

7)皆さんが彼女の日本語教師だとしたら、どう説明してあげますか。

2016-09-27 20:01:14
uroak_miku @Uroak_Miku

8)「北京に行くとき」は「北京に行く前」と同義で、「北京に行ったとき」は「北京に滞在していたとき」と同義。

2016-09-27 20:03:02
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9)「①は When I was in Beijin で②は Before I fly to Beijin なんですね。でも『行った』と『行く』の違いで時制も動詞も違ってしまうなんてよくわかりません」と、賢い教え子は質問してくるかもしれない。

2016-09-27 20:08:52

訂正。Before I flied(過去形)to Beijin でした。

uroak_miku @Uroak_Miku

10)このもっともな質問にきちんと答えるには骨が折れます。概要だけここでは綴るとですね、「日本語では動詞の原形(外国人用日本語文法では「辞書形」といいます。辞書に載ってるままの形だから)は『さあやるぞ!』のニュアンスがある」と説明する。

2016-09-27 20:13:21
uroak_miku @Uroak_Miku

11)「北京に行くとき」は「さあもうじき北京に行くぞ!という気持ちのとき」と翻案できるんですよミズ・ベーカー。その一方で「北京に行ったとき」は「さあ北京に行くぞ!な気分はもう失せてるよ、だってもう北京に来てるんだから」ってこと。

2016-09-27 20:16:05
uroak_miku @Uroak_Miku

12)それで以下の二つは「行った」と「行く」の違いひとつで全然ニュアンスが変わってしまうのです。 ① 北京に行ったとき、デパートで買い物をした。 ② 北京に行くとき、デパートで買い物をした。

2016-09-27 20:17:22
uroak_miku @Uroak_Miku

13)①は「北京に行くぞ!という気持ちがもう消えてしまっている(なぜならもう北京に着いたのだから)とき、デパートで買い物をした」で、②は「さあいよいよ北京に行くぞ!という気持ちのときデパートで買い物をした」と翻訳できる。

2016-09-27 20:19:51
uroak_miku @Uroak_Miku

14)つまり①では「デパートに行った」のは北京に出発する「前」で、②では北京に着いた「後」(厳密には「北京にいるとき」ですが)に「デパートに行った」ということです。

2016-09-27 20:22:33
uroak_miku @Uroak_Miku

15)日本語の動詞「行く」は、「何かをしにそこに行く」のニュアンス。「北京に行く」なら「(観光で)北京に行く」かもしれないし「(仕事で)北京に行く」かもしれない。

2016-09-27 20:25:04
uroak_miku @Uroak_Miku

16)ほかの目的かもしれない。そのあたりは文脈で判断するしかない。それで①と②の英訳にあたっても目的の説明をあいまいにできる fly to(飛行機で行く)とか was in (に滞在していた)とかを使う。

2016-09-27 20:27:46

fly ---> flied

uroak_miku @Uroak_Miku

17)本当は Before flying to Beijin,(北京に飛ぶ前に)のように分詞構文を使うと自然な英文になるのですが、ここでは「行く」「行った」のニュアンスの対比のためにあえて少し野暮ったい英訳をしてあります。

2016-09-27 20:29:29
uroak_miku @Uroak_Miku

18)こんな風にエレン先生は日本語の不思議な時制(もどき)を学習していった…想像するのは楽しいですね。

2016-09-27 20:31:09
uroak_miku @Uroak_Miku

19)「北京に行ったとき」は文法上問題ないとされるのに「北京に行った前」が✖とされる理由はというと、「前」で文をつなぐときは前のパートは辞書形(英文法でいう原形)で後のパートは「~た」文にするのが語法上の規則だからです。

2016-09-27 20:34:16
uroak_miku @Uroak_Miku

20)「前」というのは順番を言い表すことばです。「北京に行く」より「前」に「デパートに行く」という現象があったのだから、「北京に行く」+「デパートに行った」のほうが「前」のニュアンスにはなじむのです。

2016-09-27 20:37:23
uroak_miku @Uroak_Miku

21)『源氏物語』を筆頭に日本の古典では、英語でいう現在時制を基調として地の文が綴られ、そこにときおり過去ニュアンスの「つ」とか「ぬ」とかの文が混じる。あくまで過去「ニュアンス」です。地の文の基調から一時逸脱する感覚。音楽でいうと曲の途中で一時転調する感じか。

2016-09-27 20:40:36
uroak_miku @Uroak_Miku

22)youtu.be/Reuc5Ypxh9w この演奏の1:56で転調しますよね。2:12でまた転調して、2:17で元の調に戻ってくる。『源氏』における時制ニュアンスの変化もこれに似てる。

2016-09-27 20:45:48
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uroak_miku @Uroak_Miku

23)「北京に行く前」文にも同じものを感じる。日本語は『源氏』時代も今も、基調はやはり現在ニュアンスであり、そこにふっと過去ニュアンスの文が混じる(一時転調する)ことで文全体のニュアンスが変わる。そういうのが得意なのです。体質。

2016-09-27 20:48:30